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恋愛モノは苦手なのだとおもっていた

全盛期の頃と比べれば、そりゃあもうすっかり疎遠になっていることは否めないけれども、やっぱりわたしは本が好きだ。
本(小説)に限らず、物語的なものも好きなので、マンガもゲームも嗜むし、映画もドラマもそれなりにみる。

ただ、どういうわけだか『恋愛モノ』と呼ばれるようなジャンルが苦手で…そばアレルギーの人が慎重にそばを避けて進むように、なるべく近づかないで済ますようにしている。
それこそ小学生くらいのときは『りぼん』や『なかよし』がテレビCMをやっているような時代だったこともあり、自分も毎月3日に本屋へ行くことを指折り数えて楽しみにしていたクチなので、少女漫画には親しんでいたはずなのに…これといって具体的に何かがあったというわけでもなく、いつの間にか楽しめなくなっていた。
たぶん、大人になると味覚が変わるとか、ある一定以上の量を摂取しすぎてアレルギーになるとか、そういうものだろうと特に意識もしていなかったけれども。

だから、今回、たまたま打ち合わせ前の時間つぶしに入った本屋さんで、この鮮やかな赤い表紙が目に入った瞬間に【これは絶対面白いぞセンサー】が作動したとき、普段ならすぐにピン!ときてワクワクするところで、「本当か?」と疑ってしまった。
しばらく本屋にも寄れていなかったので、センサーも誤作動しているのではないかと、完全に半信半疑だったし、表紙をみても、あらすじをみても、帯のコメントをみても、著者名、翻訳者名を確認しても…まるでピンとこなかった。
(なんだか海外では高評価っぽいけど、全然知らない人だし、ロマンティック・コメディだし…なあ…)
ただ、あんまり悩んでいる時間はなかったのと、久しぶりの本屋さんが嬉しかったのもあって、なんの前情報もない状況で買うには価格的にも物理的にも割とハードルは高めだったけど、思い切って買ってみることにした。

結論から申し上げると、このカンは大正解だった!

3歳でレジェンドロックスターの父親に捨てられ、比較的最近も元彼によってゲスいタブロイド紙にあれやこれやとネタを売られ、完全に人間不信に拍車がかかり、自己肯定感の低すぎる主人公に肩入れして涙すること数回。
手に汗握りすぎて買ったときにかけてもらったカバーはグシャグシャ。
気が付けば、文庫2冊分はある厚みの本を、珍しく2日程度で夢中になって読み切ってしまった…ちょっともったいなかった…

それもこれも、ディテールの細かい丁寧な人物の心理描写に共感し、テンポのよい会話で引き込まれ、かようにスムーズにはいかない彼らの展開からどんどん目が離せなくなっていくのが素晴らしすぎた。
なんといっても出てくる登場人物たちの自然体具合が心地よいし、現代ロンドン(つまり多くの都市部)で問題になりがちなセクシュアリティや文化、人種差別といった触れにくい話題をさらっと描くスマートさとユーモアも癖になった。

そして気づく。
わたしは『恋愛モノ』が苦手なのではなく、さも当たり前のように男女の関係を恋人関係か肉体関係におさめようとしてくる枠組みが苦手なのだ、と。

この本の中には、色んなセクシュアリティの人が登場する。
主人公のルークはゲイだし、愉快で親切で辛辣な仲間たちにはレズビアンもバイセクシャルも、ストレートもいる。
彼らの友情が実に気持ちいい。特にストレートの女子、ブリジット!
いつもなんやかんやクビになりそうで、大抵の事件の中心は彼女なんだけど、パニくって落ち込んで超ヤバいときに頼りにしたくなる気持ちはすごく共感できたし、泣けた。
他のみんなも、おもしろがってるだけじゃ、片道5時間も車出してくれたりはしないってわかるし、主人公が超どん底で本当にダメになりそうなときもずっと見守ってくれていただんだなって伝わってやっぱり泣けた。
(いつだってなんやかんや力貸してくれるのほんと「友達」って感じ!)
もう一人の主人公オリヴァーの誠実さとか優しさにはそりゃ惚れるわって納得できたし、「心優しい両親」のために懸命にまともであろうと無理してる痛ましい様子にまた泣けた。
そして、ルークの頼れる、愛すべきお母さま。
男を見る目はなかったけど、息子を愛し、自分らしくある姿勢は、もうそれだけで…笑える。


結局、人間関係って恋人関係以上にもっと複雑でいろいろあって、もっと自由で、だから面白いんじゃん?って改めて腹落ちした本でした。
こういうラブコメがどんどん増えていくなら、きっともう『恋愛モノ』は苦手で…なんてコソコソする必要もなくなっていくのになあ!

それまであった違和感の理由にも気が付けた、いい本に出合えて満足です。
(2巻目も来年くらいには出るそうなんで、そこでは、今回あまり触れられなかったオリヴァー側からみたルークの魅力が描かれているといいなあ)


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