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もしも銀英伝の世界に憲法9条が有ったらどうなっていただろうか

ここでは銀河英雄伝説の世界にもしも憲法9条があったらどうなっていたかを想像したいと思います。
創作物に現実の日本国の憲法を適応してもしょうがないだろうと分かってますが、想像実験としておもしろいのでやってみます。

①そもそも憲法9条とは何か

そもそも9条とは原文には戦争の放棄が書いてないんです
学校教育と原文にはギャップがあるのです。
私も初めて知って驚きました。

第9条
①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は 武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権これを認めない。
※私が強調したい部分を太字にしてます。

改めて読んでみるとどうでしょうか。
「国際問題の解決手段としては」と書いてあります。
つまり自衛戦争や自衛戦力は放棄していないのです。

学校教育では戦争や戦力自体を放棄してると簡略化されて教えられますが、
実は国際問題の解決手段として禁止されているだけなんです。
さらに自衛権は勿論、革命権も禁止されてないです。

でも自衛戦争は否定しないなら、第2項の「陸海空軍は保持しない」は矛盾してるじゃないかと思う人も居るかもしれませんが、ここでいう「戦力」とは「国際問題の解決の手段としての軍隊」だという解釈があります。
また「前項の目的」とは国際紛争の解決の手段としての戦争ではなくて、国際紛争の解決そのものだというものもあります。
つまり「国際紛争解決のための軍隊はダメだけど、自衛のための軍隊なら良い」という物です。
※芦田修正解釈

よく「自衛隊は軍隊ではない」とか「憲法は戦争や軍隊自体を禁止している」ということ言う人が居ますが原文を芦屋修正解釈で解釈するなら、そんなことは無いのです。

立憲主義については以下に簡単にまとめられてます。

http://www.ayame-law.jp/article/14288064.html


②では銀河帝国に憲法9条があったらどうなるのだろうか

それでは銀河帝国に憲法9条があったらどうなるのでしょうか。
まず帝国にそもそも憲法があるのかが問題です。
実は過去のイギリスのような王国(君主制)では「慣習法」が基本で憲法が無いことが多いのです。
1787年のアメリカ合衆国憲法が世界最古の憲法です。
さらにポーランド王国の1791年5月3日に成立した、5月3日憲法が二番目と言われています。
(※聖徳太子の17条憲法を世界最古と言ってる人が居ますが、あれは国家公務員法のような法律に近いものです)
つまり立憲君主制自体が人類史においてはほぼ最近なんですよね。

ルドルフならかっこつけたいので「帝国憲法」を作りたがりそうだし作りそうではありますが、作品には具体的な描写はありません。
帝国には憲法が無く、慣習法や前例踏襲が行われてるかもしれません。

仮にあったとして帝国憲法が機能しているかという問題です。
ゴールデンバウム朝銀河帝国末期は、貴族による専制体制です。
三権分立(司法の独立)はおそらく無いでしょうし、政治腐敗により憲法が正常に機能してるかが怪しいですね(;^ω^)

しかしそれでは話にならないので、一応銀河帝国にも有効な帝国憲法があると仮定します。
そして問題は憲法に位置づけです。

憲法は国家(政権)よりも上(民主国家と同じ)なのか、憲法は政権よりも下(共産党国家のようなパターン)なのかです。
社会主義国では 党>軍>国 の権力の序列なので、憲法よりも執権党の憲章や政治局の決定が優先されます。

皇帝陛下の意志と、憲法はどちらが上なのか。
これは分かりにくいですね。
仮に帝国憲法があったとしてもゴールデンバウム王朝ならば、
「憲法違反だと判決を出して、揚げ足を取って有力な貴族を失脚させる」道具に成っていた可能性もあります。


③ラインハルトは憲法9条があっても同盟に侵攻したと思われる

ラインハルトは自由惑星同盟に侵略戦争をしてますが、これは防げるのでしょうか?おそらく無理でしょう。

なぜなら銀河帝国は自由惑星同盟を国家として認証していないからです。
つまり同盟への攻撃は、国際紛争を解決する手段には当たらなと解釈できるからです。
そしてこの宇宙は、2つの独立国家しか存在しません。
(フェザーン自治領は主権上では帝国領)
「国際」という概念が銀英伝の世界にあるのかは不明です。

国権の発動たる戦争に抵触するのではないかと思われるかもしれませんが、
そもそも同盟軍を反乱軍と呼んでいます。
つまり自由惑星同盟を国家として認めていない帝国は、同盟を名乗る勢力は「民主共和主義を主張して銀河の半分を不法占拠している武装勢力」なのです。
つまりラインハルトは「反乱鎮圧作戦であって戦争ではない」と苦しいとはいえ主張できるのです。憲法9条にも、暴動やテロリストを鎮圧するのは抵触しないからです。

またさらに強引な解釈をするなら「同盟の反乱を刑事事件として処理する」と言う手段があります。
つまり「武器を所有して不法占拠している民間集団」に対して「警察的行動として実力行使する」という手段もあるのです。
政治的な交渉相手とはみなさいという事です。
国家警察隊を組織して「トリューニヒトとヤンを逮捕する」という名目で送り出して、帝国軍はその護衛をするという名目にするのです。
そして同盟の旧政権の幹部らは検察に引き渡して「政治犯では無くて刑事犯罪者として処罰」するという事です。

そうすれば同盟領土への侵攻は「国権の発動としての戦争では無くて警察的行動」となるのです。


③同盟に憲法9条が有ったらどうなるのか

では自由惑星同盟に憲法9条があったらどうなるのでしょうか。
まずやはり自衛戦争や自衛戦力は否定されていないので、同盟軍は保持されるでしょう。
帝国領への大規模な侵攻は違憲に思えるかもしれません。

しかし同盟もやはり帝国を国家認証していません。
つまり銀河帝国とは「ルドルフが、法の支配と人権を否定して手に入れた、暴力と恐怖で市民を抑圧するファシズム勢力の不法占拠地域」なのです。
当然にラインハルトの事も国家元首として認めてません。
「国際紛争の解決の手段としての戦争」ではなくて、
「抑圧された市民や少数派を助けるための人道的介入」「人権擁護作戦」だといって「戦争ではない軍事作戦」という一見すると矛盾してるようなこともできるのです。
「平和と人道に対する罪」で銀河皇帝と内閣総理のリヒテンラーデ、軍務大臣のエーレンベルクらをやはり人道的犯罪者として逮捕・起訴することも可能です。
帝国軍の侵略に対して戦うのは正当な自衛戦争なので当然合憲でしょう。

そもそも帝国を国家として認証してないので「ここでいう国際紛争とは同盟の構成国家の間での紛争の事である」と解釈もできます。ちなみに自由惑星同盟は各惑星が共和国として内政独立していて連合国家だと思われるので憲法ではなく「同盟憲章」となるかもしれません。

ヤン・ウェンリーも自衛戦争や自衛戦力は否定しないでしょうし、
「結局は紙と文字では戦争は無くならない。建前で戦争は良くないと言いながら、下心では戦争をしかたがないと思っているのが大人だ」とか言いそうですね。

⑤憲法9条では戦争は防げない

結論から言うと、銀河帝国も自由惑星同盟も憲法9条があっても軍隊は保有できただろうし、戦争は防げなかったというのが私の見解です。
それは同盟も帝国も正義と言う名の「イデオロギー」を持っているからです。

そしてラインハルトのような強い意志を持った人物を、憲法で縛ることはできないのです。

同盟は「自由と民主主義、人権擁護」を普遍的価値としているでしょう。
しかし「とある価値を普遍的とするのは、他の価値観を否定して闘争する」という事になるのです。
銀河帝国は「皇帝陛下の栄光と御光栄が神聖不可侵である」と考えるでしょう。
その時点でもうこの2つの国家は相いれないのです。

「何かの正義や価値観を素晴らしいとする」とした時点で敵が登場するのです。それが憲法9条や平和主義であってもです。
イデオロギーを強烈に信じる限り、それがいかに素晴らしい善であったとしてもです。

現代の私たちは本当にドグマ(疑ってはならない聖域)から自由なのでしょうか?
中世は「神の教えを広める」という名目でキリスト教会が侵略や虐殺を正当化していました。そして中近世では貴族の名誉のために、さらに近世でフランス革命で国民国家の時代になると宗教は衰退しますが「国民国家」という概念が生れて「愛国心」「国益」の名のもとに戦争と差別が行われました。

そして20世紀になると共産主義の名目で恐ろしい数の人々が「人民権力」「階級闘争」の名目で殺戮されたり「労働者階級を解放する」として侵略戦争が行われたり、無神論を標榜する共産党により宗教への虐殺が行われました。
21世紀では「男女平等」「人権」「民主主義」「自由」「博愛」が一種のかつてのキリスト教やプラトン主義的なドグマに成っていないでしょうか?我々日本人も「日本国家が常に正しい」と無自覚に思っていないでしょうか?

憲法9条が人類の宝だとか、この世で素晴らしいものだと神聖視した時点で、改憲派や憲法9条を素晴らしいと思わない人を「憎むべき敵」にするのです。また「憲法を絶対に変えてはいけない」とイスラム教やキリスト教の教義のような頑固な教条にしてはならないのです。

差別や戦争を無くそうと言ってる人々が、結局は他者に攻撃的な理由がそうなのです。
普遍的価値やイデオロギーを唱えたら攻撃的になるのです。
そして敵の攻撃は恐怖心を産みます。恐怖は攻撃性を加速させます。

精神論や偽善に聞こえるかもしれませんが「正しさよりも愛」だと私は思います。憲法改正をしたい人たちは「日本を戦前に戻そうとしてる悪人」「戦争を望んでいる悪魔」では無いのです。ただ価値観や意見が違うだけなのです。

戦争を減らす、戦争を回避するのは憲法9条では無くて、
「一人一人がイデオロギーや党派性、敵を悪魔化する文化をなくしていく」という事です。
あなたには何ができるでしょうか。
私も人のことは言えませんが、多様性と多角性が尊重される時代になったらいいですね。


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