なぜ幼少期に逆境を体験した人は将来的に暴力の加害者になったり被害者になったりするのか?
はじめに
皆さんは世代間伝達をご存じでしょうか?
世代間伝達とは、親や養育者の愛着スタイルや育て方、精神的な影響などが次世代に影響を与える現象です。
たとえば、親から暴力的な養育を受けた人は、自身の子どもに対しても同じように振る舞う傾向があります。
これは、自分の子どもに対してだけでなく、親密なパートナーに対しても同様な影響が見られます。
そこで、最近になって逆境的小児期体験(ACEs)が親密なパートナー間での暴力(IPV)への影響を検討したメタ分析研究が発表されたので、その概要を紹介したいと思います。
この記事では、逆境的小児期体験(ACEs)をした人は、大人になってから親密なパートナー間での暴力(IPV)の被害者や加害者になりやすいという新しい研究の結果について紹介します。
逆境的小児期体験(ACEs)とは、18歳未満の時に身体的、性的、感情的な虐待、ネグレクト、家庭内暴力、親の薬物使用、親の収監、離婚などを経験したことを指します。
親密なパートナー間での暴力(IPV)とは、現在または過去のパートナーに対して身体的、性的、感情的な危害を与えることを指します。
IPVは、身体的・精神的な健康に悪影響を及ぼす世界的な健康問題です。
この2つの関係は、以前から研究されていましたが、一貫性がなく、影響する要因が明らかになっていませんでした。
そこで行われたメタ分析研究の結果と、2つの関係性のメカニズム、予防と対策について、この記事では述べたいと思います。
ACEsとIPVの関係性
メタ分析の結果を要約すると以下のようになります。
ACEsとIPV加害の関係
ACEsとIPV加害者の関係は正の関係で、統計的に有意でした。
つまり、ACEsを多く経験した人は、パートナーに対する暴力を行う可能性が高くなります。
関係の強さは小~中程度でした。
ACEsとIPV被害の関係
ACEsとIPV被害者の関係も正の関係で、統計的に有意でした。
つまり、ACEsを多く経験した人は、パートナーから暴力を受ける可能性も高くなります。
関係の強さは小~中程度でした。
関係性に影響する要因
年齢や発表年度によって、ACEsとIPV被害の関係の強さが変わることが分かりました。
年齢が若いほど、ACEsとIPV被害の関係が強くなりました。
これは、反社会的行動が若年期にピークに達し、年齢とともに減少するという既存の研究と一致しています。
また、成人期はキャリアや親としての責任などが増えるため、犯罪の減少につながるということも説明できます。
また、最近の研究ほど、ACEsとIPV被害の関係が強くなりました。
これは、スクリーニングの増加が影響している可能性があります。
たとえば、ACEsのスクリーニングはプライマリーケアで実施されており、参加者の受容性は高いと評価されています。
このようなスクリーニングは、ACEsやIPVの経験を研究に参加する際に開示することに関するスティグマを減らすことにつながるかもしれません。
ACEsとIPV加害の関係に影響する要因は見つかりませんでした。
ACEsとIPVの関係性のメカニズム
ACEsとIPVの関係性を説明する可能性のあるメカニズムについて紹介します。
2つの関係性を説明するメカニズムとして、親子の愛着、神経生理学、行動遺伝学の3視点から考えることができます。
各メカニズムがどのようにACEsとIPVの関係性に影響するかを理論的に説明します。
親子の愛着
このメカニズムは、子どもの安全感や安心感に関係しています。
子どもが世話をしてくれる人(たとえば、父親や継父)や愛着対象(たとえば、母親)から虐待を受けたり、目撃したりすると、世界は敵対的であるという認識をもち、他者に対して攻撃的な傾向をもつようになると考えられます。
このように、ACEsは子どもの親子の愛着に影響を与え、IPVの加害者になる可能性を高めます。
神経生理学
このメカニズムは、ストレスに対する反応やコーピング、感情の調節などに関係しています。
ストレスに繰り返し曝されると、神経発達に悪影響を及ぼすことがあります。
これにより、ストレスに対処したり、感情を管理したりする能力が低下し、暴力的な行動を起こす可能性が高まります。
このように、ACEsは子供の神経生理学に影響を与え、IPVの加害者になる可能性を高めます。
行動遺伝学
このメカニズムは、暴力的な行動に関係する遺伝子の共有に関係しています。
親から子へと暴力的な行動に関係する遺伝子が受け継がれることがあります。
遺伝子は、親から虐待を受けた子どもが大人になって虐待を行う傾向になる理由の一つであると考えられます。
このように、ACEsは子供の行動遺伝学に影響を与え、IPVの加害者になる可能性を高めます。
心理的影響
虐待を受けた子どもは、情緒不安定、感情コントロールの不調、自己肯定感の低さをもつ傾向があります。
このように形成された特徴が、大人になったときのIPV被害を受けやすいパターンを形成する可能性があります。
ACEsとIPVの予防と対策
ACEsとIPVの予防と対策に関する提言や方策は以下の通りです。
ACEsとIPVのスクリーニングの実施
ACEsとIPVのスクリーニングは、早期発見や介入につながり、被害の拡大や再発を防ぐことができます。
スクリーニングは、医療機関や教育機関などの様々な場面で行われるべきです。
スクリーニングの際には、参加者のプライバシーや安全性を尊重し、適切な支援やリソースを提供することが重要です。
ACEsとIPVの介入の強化
ACEsとIPVの介入は、個人や家族、コミュニティのレベルで行われるべきです。
介入の目的は、暴力のサイクルを断ち切り、被害者や加害者の心理的・身体的・社会的な回復を促すことです。
介入の方法は、カウンセリングやセラピー、グループワーク、教育プログラム、法的措置など多岐にわたります。
介入の効果を評価し、改善することも必要です。
ACEsとIPVの予防の推進
ACEsとIPVの予防は、暴力の発生を防ぐことを目指します。
予防の対象は、一般的なリスク要因や保護要因に着目した普遍的予防、特定のリスク要因や保護要因に着目した選択的予防、暴力の発生や再発の可能性が高い人に着目した指示的予防の3つに分けられます。
予防の手段は、社会的・経済的・文化的な要因に応じて柔軟に対応することが求められます。
ACEsとIPVの研究と政策の発展
ACEsとIPVの研究と政策は、現状の課題や展望を踏まえて発展させる必要があります。
研究の課題としては、ACEsとIPVの定義や測定法の統一、ACEsとIPVのメカニズムや影響の解明、ACEsとIPVのスクリーニングや介入や予防の効果検証などが挙げられます。
政策の課題としては、ACEsとIPVの認識や啓発の向上、ACEsとIPVの関係者や専門家の連携や協力の促進、ACEsとIPVの対策に必要な資源や制度の確保などが挙げられます。
研究と政策の間のギャップを埋めることも重要です。
おわりに
この記事では、逆境的小児期体験(ACEs)をした人が、大人になってから親密なパートナー間での暴力(IPV)を加えたり、受けたりするリスクが高まるという研究の結果を紹介しました。
記事の要点は以下のとおりです。
ACEsとIPVの関係性: ACEsとIPVの間には正の関係があり、ACEsが多いほどIPVの加害者や被害者になる可能性が高くなります。
この関係性は、親子の愛着、神経生理学、行動遺伝学などの要因によって説明されます。関係性の強さの変化: ACEsとIPVの被害者になる関係性は、年齢や研究の年度によって強さが変わります。
年齢が若いほど、ACEsとIPVの被害者になる関係性が強くなります。
また、最近の研究ほど、ACEsとIPVの被害者になる関係性が強くなります。関係性の意義と影響: ACEsとIPVの関係性は、早期介入や支援の重要性を示しています。
ACEsとIPVは、身体的・精神的・社会的な健康に悪影響を及ぼすだけでなく、世代間の連鎖を引き起こす可能性があります。
ACEsとIPVの予防と対策は、個人だけでなく、家族や社会にとっても有益です。
最後に、この度は、私の記事をお読みいただき、誠にありがとうございます。
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これからも、皆様に有益で興味深い内容を提供できるよう、努力してまいります。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。