悪い人たちの活かし方②
お世話になっております。
ダークトライアドおよびダークテトラドについて紹介している津島結武です。
今回は前回に引き続き、増井・浦 (2018) の「『ダークな』 人たちの適応戦略」という論文をベースに、ダークトライアドの人がどのように善く生きていくのかを紹介していきます。
前回の記事は👇から
○ダークトライアドは社会的に成功しやすい?
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サイコパスについて調べたことがある人は、そのような人々は社会的に成功しやすいと聞いたことがあるだろう。
それはサイコパスに限らず、ナルシストやマキャヴェリストにもいえることである。
では、具体的にどのような点で彼らは社会的な成功を収めるのだろうか?
まずはそれを紹介しよう。
● サイコパスは高い地位を得たり、高収入の職種に就きやすい
初めに、よく知られていることを挙げよう。
様々な職種を比較したDutton (2012) による研究で、サイコパスは収入の高い職種に就きやすいことがわかっている。
厳密にいえば、サイコパシー得点の平均が有意に高かった職種があるのだ。
それは企業の最高経営責任者(CEO)や弁護士、外科医である。
これは、良心に阻まれずに物事を遂行する性質が役に立っているためだと考えられる。
CEOの場合は、企業の利益のためにリストラや、労働者に厳しいオペレーションを与えることに踏み切ることが必要だ。
弁護士の場合は、道徳的な観念を一度横に置き、クライアントの利益のために争わなければならない。
外科医に関してはやや趣向が異なるが、ヒトの身体を切ることへの恐怖に打ち勝たなければならない。
つまり、サイコパスの良心への無関心さや恐怖の鈍感さが社会的成功とされている職種に就くことを助けているのだと考えられる。
● ナルシストは多く給料をもらい、マキャヴェリストは指導的な地位に就きやすい
ではナルシストやマキャヴェリストの場合はどうだろうか?
これら二者も同様に社会的成功に関連がある。
ナルシストは多くの給料をもらいやすく、マキャヴェリストは指導的な地位に就きやすいのだ。
Spunk, Keller, and Hirschi (2015) は、ナルシシズムの得点が高い人ほど多くの給料を得ており、マキャヴェリズムの高い人は指導的な地位に就いている割合が高いことを明らかにした。
Spunkらはこれについて、マキャヴェリストは他人を操作することを好むため、指導的地位に就きやすいと考察している。
またナルシストとマキャヴェリストが社会的に成功しやすいのは、協調性 (温厚で親しみやすく、機転が利く性格特性) が低いためと考察されている。
ダークトライアドは協調性が低いが、協調性が低いと経済・職業的に成功しやすいことが様々な研究で示されている (Ng, Eby, Sorensen, & Feldman, 2005)。
これは協調性が高い人は操作しやすいと見なされ、出世させられづらいためと考えられている。
つまり、ナルシストとマキャヴェリストは協調性の低さによって出世しやすく、そのために社会的成功を収めやすいのである。
では、なぜこの研究ではサイコパスについて言及されていないのか?
それはサイコパシーは社会的成功と関連しないからだ。
おや、それはおかしい。
先ほどのDutton (2015) の、サイコパスは高い地位や高収入の職に就きやすいという研究結果と矛盾しているように感じる。
しかし矛盾はしていない。
なぜならば、サイコパスの多くがそのような職に就いているのではなく、そのような職にサイコパスが多いというだけだからだ。
つまり、限られたサイコパスは偉大な社会的成功を収めるが、多くのサイコパスは社会的成功をしづらいのだ。
脳科学者の中野 信子 (2016) は著書『サイコパス』のなかで、前者を「勝ち組サイコパス」、後者を「負け組サイコパス」と表現している。
これら二者の違いは衝動性をいかにコントロールできるかにあると考えられる。
つまり、勝ち組サイコパスは衝動性をうまく抑制できるため問題なく社会的成功にありつけるが、負け組サイコパスは衝動的に攻撃的な行動などをとってしまうため、逆に社会的敗者になってしまうのだ。
Spunkらもサイコパスが社会的成功と関連しなかったことに対し、以上のような考察をしている。
○ダークトライアドは魅力的?
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彼は作中で何度かサイコパスと罵られる
サイコパスはしばしば魅力的だと言われることがあるが本当だろうか?
ドラマや映画でも、サイコパス役にイケメン俳優がキャスティングされることが多い。
しかし現実ではどうだろうか?
いくつかの研究を参照してみよう。
● 性格が悪いとわかっていても、魅力的に感じてしまう
一つ目はCaeter, Campbell, & Muncer (2014) の研究だ。
彼らは相手の性格が悪いとわかっていても、相手を魅力的に評価してしまうことを明らかにした。
研究者たちは、ある男性が自身の性格について記述したとされる文章を読ませる実験を実施した。
まず彼らはイギリスの女子大生128人を2つのグループに分けた。
一方はダークトライアドの特徴を含んだ性格が記述された文章を読ませるグループであり、もう一方はその特徴が含まれていない性格が記述された文章を読ませるグループだ。
研究者たちは被験者にそれらの文章を読ませたあと、その男性がダークトライアドっぽいかと魅力的かを評価させた。
その結果、ダークトライアドの特徴を含んだ性格が記述された文章を読んだグループのほうが、そうでないグループより、その男性が魅力的だと評価したのだ。
しかも、その男性がダークトライアドっぽいと評価しているにもかかわらずである!
つまり、人は相手をダークトライアドっぽい性格だと思っていても、魅力的に感じてしまうのである。
まあ平凡な人よりかは、ちょっと危険な人のほうが魅力的に感じてしまうって考えれば不思議ではないが。
● 女性のナルシストとサイコパスは魅力的?
二つ目がJauk, Neubauer, Mairunteregger, Pemp, Sieber, & Rauthmann
(2016) の研究だ。
彼らは、女性においてのみナルシシズムとサイコパシーが身体的魅力と正の相関を示すことを明らかにした。
まず研究協力者はダークトライアド尺度に回答し、写真を撮影された。
そのあと第三者に写真の人物の身体的魅力を評価させたところ、女性においてのみ身体的魅力がナルシシズム、サイコパシーと正の相関を示した。
また、これはサイコパスよりもナルシストのほうが有利のようだ。
この研究では、写真の人物に対してどのような関係を望みたいかも質問した。
その結果、ナルシストの女性は短期および長期的な関係を望まれるのに対し、サイコパスの女性は短期的な関係しか望まれなかった。
ちなみに、マキャヴェリストはどうなのかというと、最悪だ。
むしろマキャヴェリストは短期的な関係を望まれない傾向にあった。
またこの研究では、実際に会いたい相手も選択してもらっていた。
その結果、ナルシストおよびサイコパスな女性は実際に会う相手に選ばれる傾向があった。
それに対し、マキャヴェリストの女性は選ばれない傾向があった。
ちなみに男性はどうだったかというと、一応ナルシストの男性は短気および長期的関係を望まれる傾向がある。
ただし、実際に会う相手として選ばれるというわけではなかった。
● 性に開放的な女性はナルシストな男性を好む
最後の研究はMarcinkowska, Helle, and Lyons (2015) によるものだ。
彼らはダークトライアドの各特性の高い男性と低い男性の平均顔を作成し、どちらの顔が女性からより好まれるかを調査した。
この研究の肝は、協力してくれた女性が避妊薬を用いているか、また性に開放的かを考慮に入れているという点だ。
なぜこのような操作をしたかというと、ダークトライアドの示す攻撃性は進化心理学的には優位な特性であり、女性はそのような特性をもつ遺伝子を得るために、無意識にダークトライアド特性の強い男性を短期的なパートナーとして求めると考えられているからだ。
つまり、研究者たちは性に開放的な女性はダークトライアド特性の強い男性を好むと考えたのだ。
研究の結果は以下だ。
避妊薬を使用していない、性に開放的な女性はナルシストの男性を好む
避妊薬を使用している、性に開放的な女性はマキャヴェリストの男性を嫌う
やはりここでもナルシストは人気で、マキャヴェリストは不人気らしい。
マキャヴェリストの支配的な顔は男女ともに好まれない傾向にあるのかもしれない。
一方でナルシストの顔は自信に満ちていて、そのような側面が異性に好かれるのかもしれない。
○まとめ
今回の内容をまとめましょう。
ダークトライアドは社会的に成功するか?
サイコパスは収入の高い職に就きやすい
ナルシストも多くの給料をもらえる率が高い
マキャヴェリストも指導者の立場に就きやすい
ダークトライアドは魅力的か?
女性は男性がダークトライアドっぽい顔だとわかっていても魅力的に感じてしまう
女性のナルシストとサイコパスは魅力的
性に開放的な女性はナルシストな男性を好む
マキャヴェリストは最悪
次回は「悪い人たちの活かし方シリーズ」の最後になります。
内容は「悪い人たちは、いつ求められるか?」です。
○参考文献
書籍は太文字で表記しています。
増井 啓太・浦 光博 (2018). 「ダークな」 人たちの適応戦略 心理学評論, 61(3), 330-343.
中野 信子 (2016). サイコパス 文藝春秋 (文春新書)