半径1kmの旅:ひたち野うしく駅
常磐線に乗っていると、牛久駅の手前、もしくは一つ後に「ひたち野うしく駅」がある。
昔から不思議に思っていたが、特に調べることもなく、スルーしてきた。
牛久とひたち野うしくは何が違うのか。なぜ「常陸青柳駅」のように、ひたちが漢字ではないのか。
調べてみると、所在地の地名が牛久市ひたち野であり、昔は万博中央駅だったらしい。1985年のつくば万博に合わせて作られ、その年の3月から9月までの臨時駅だった。1998年に、その跡地に作られたのが「ひたち野うしく駅」ということだ。
なんだかよくわからないが、なんとなくロマンチックな感じがする。よし、ここを歩いてみよう。
3回目の「半径1kmの旅」の目的地は、そんな感じで決まった。
いつも通り、グーグルマップで軽い事前調査をしていると、みっしりと住宅が並んでいる、新しい街だということがわかる。
こういう街だと、昔ながらの和菓子屋さんなどは期待できない。食事も下手するとチェーン店ばかりだ。
ちょっとテンションが下がったが、1km圏内に水辺がある大きな公園もあるし、二所ノ関部屋もある。二所ノ関部屋と言えば新大関、大の里関がいる部屋だ。その建物は見てみたい。
とりあえずそのあたりを目的地に設定し、散歩に向かった。
ちなみに今回も移動は車。普段降りたことのない「ひたち野うしく駅」で降りるチャンスだったのだが、どうしても荒川沖のブックオフに行かねばならない事情(県内最大なのでただ行きたいだけ)があり、断念した。
西友の駐車場に停めて駅へ
ひたち野うしく駅前にはスーパーマーケットの西友があり、大きな駐車場も併設されている。二時間無料で、1,000円以上買い物をすると、さらに1時間無料になる、良心的な駐車場だ。
その駐車場が超ナウい。いや、ナウいはないか……とにかく最先端っぽかった。チケットや車体の下のロック板などは無く、車両のナンバーを認識して、帰りに清算するという。なにそれ……。初めての駐車場システムは、ちょっと怖い。
天気は快晴。車を停めて、西友の横を通って駅へ向かう。
駅への道がもう都会チックだ。歩道が広く、整然と並木が並んでいる。こんな町に住んでいたら、お上品になりそうだ。
ゴミひとつ落ちていない石畳を駅に向かっていると、膝に違和感を覚えた。え、これから歩くのに、大丈夫か。まあ、だましだまし行くしかないか。
正面に見えた大階段を登ると駅かと思いきや、西口への自由通路への階段だった。駅の正面にはロータリー沿いにさらに歩くらしい。膝痛い。
駅のほぼ正面について「やられた」と心の中で呟いてしまった。エレベーター完備だ。しかも降りもある。昇りだけという駅はそこそこ見かけるが降りはなかなかない。「最近の駅は、まったく」と爺さんのようなことを言いそうになった。
駅舎は改装中なのか、外側に足場が組んであった。正面にでかでかと「ひたち野うしく駅」! と書かれている様を撮影したかったが、残念。
膝を気づかって、エレベーターで駅に昇る。駅は普通の、こじんまりとした小さな駅で、なんだか安心。オシャレなパン屋とかあったらどうしようかと思った。
壁には二所ノ関部屋を応援する看板と、元横綱稀勢の里の、たぶん等身大パネル。大の里の大関昇進を祝うのぼりも立っている。
西口を出て「ひたち野みずべ公園」を目指す
西口から伸びる高架歩道を歩いて行くが、どこから降りて良いのかわからず、オタオタしてしまった。慣れないって怖い。適当な階段を降りて、北西に伸びる「みずべ通り」を目指した。公園への行き方は色々あるが、せっかくならその通りを進みたい。
みずべ通りに出ると、ヨークベニマルがあった。トイレを借りるついでに何か購入して、水辺を眺めながらおやつを食べるのもオツだ。しかし、いまいち求めるものがなかった。
スーパーさんには悪いが、やっぱり旅先ではその土地でしか食べられないものを食べたい。昔ながらの和菓子屋さんの大福とか、そういうやつだ。地図で見て期待はしていなかったはずだが、やっぱりそう思ってしまう。仕方なく、のど飴だけを買って店を出た。
ヨークベニマルのすぐ横は、国道6号である。6号を歩いて渡る日が来るとは思ってもみなかった。散歩旅ならではの体験ができて嬉しい。
6号を背にみずべ通りを歩いていると、国道の喧騒が嘘のような静けさに包まれる。閑静な住宅街そのもの。とにかく道が広い。歩道も広い。スケボーでスイーッと去っていく若者がいて、膝の痛い私にはちょっとうらやましかった。まあ、私はスケボー乗れないけど。
突き当りが、目的地「ひたち野みずべ公園」である。円形の芝生公園では、親子がボール遊びをしている。眩しいほどの快晴の中に響く子どもの笑い声。のどかだ。
横切って邪魔をするのは憚られたので、広場を迂回して池の方へ進む。すると、さらにのどか過ぎる光景になってくる。遊歩道の両側には草がわっさわっさと伸び、肝心の池の周りも草ぼうぼうで良く見えない。ちょっとワイルドすぎませんかね。
池をぐるっと回る道もあるようだったが、失礼ながらちょっと期待できなかったので、北側だけ見て帰ることにした。
遊歩道を歩いていると東屋があったが、そこも背の高い草に囲まれていて、池が見えない。なんだかなあ、と思いつつ、せっかくなのでそこで休憩してのど飴を舐めた。
本当はここで地元で人気のお菓子などを楽しみたかったが、致し方ない。飴を口の中で転がしていると、その音に交じって、鳥のさえずりが聞こえた。どこかでは草刈りをしている機械音も聞こえる。それ以外は無音。
ああだこうだと勝手に期待して、心が狭くなっていたことに気づかされる。飴が無くなる頃には、その静かな空間が心地よくなっていた。これもまた、非日常である。
心に余裕ができたので、この場所を取り囲んでいる草を画像検索してみた。セイバンモロコシというらしい。初めて聞いた。学名はジョンソングラス。かっこいい。
東屋を後にして進むと、わりと池が良く見える場所に出た。白い鳥が泳ぐのをしばし眺めて、近くの階段を上り、上の遊歩道に出た。
その道を東に進んで、国道方面に戻る。少し歩くと、なんとも立派な東屋があった。ちょっとした広場として整備されていて、ベンチも四隅にあるし、セイバンモロコシもなく、池も見える。
なんだ、ここで休憩すれば良かったじゃないか。そう思ってももう遅い。まあ、あの時間も良かったじゃないか。
広場にはこの辺りの遺跡について書かれたパネルが立てられていた。周辺ではいくつもの遺跡が発掘されているらしい。大変だったろうなぁ、と思いながらぼんやり眺めた。
というのも、都市開発のような仕事をしている知人がいて、そういう遺跡が出ると、調査のために工事が止まってしまい、かなり大変だと聞いたことがある。
こんなに遺跡が多い土地を、ここまでの住宅地として開発するのに、一体どれだけの苦労があったのだろうか。人間ってすごい。
茨城タンメンと餃子
公園を後にして国道まで戻り、北上した。そろそろお昼の時間だ。目をつけていたラーメン屋がある。「茨城タンメン カミナリ」さんである。
チェーン店ではあるが、私がタンメンと漫才コンビのカミナリが好きなので、いつか入ってみたいと思っていた。ここまでに良さそうな個人経営店があればと思っていたが、無かったのでここに決定だ。
カミナリの漫才では「記憶力」が好きなので「バカが食うやつだな!」と言ってしまうようなメニューを期待したが、残念ながら普通のメニューだった。
初めてなので普通の茨城タンメンと、焼き餃子を注文した。どんどん客が入ってきて、すごい人気店である。厨房には3人くらいしかおらず、一人はホール専門のようなので、大忙し。活気がある店に来るとなんだか嬉しい。
野菜たっぷりのタンメンは野菜の上に辛味にんにくが添えられていて、徐々にそれがスープに溶けていく。元々美味いスープがどんどん進化して飽きずに食べられる。
餃子も美味い。大きくて、肉汁ブシャーで食べ応えがある。すっかり満足した。
腹を満たし、また元気に歩き出す。住宅街を抜けて線路まで戻ると、そこに小さな公園があった。「電車が見える丘公園」と表示がある。確かにちょっと丘がある。「丘ってコレ?」というくらいの、丘。
大き目の看板があって何やら書かれているが、すっかり日焼けして読めなかった。
歩道橋を渡って、線路の向こう側に行けるらしい。上から電車を見下ろせるのかも、と思っていたら、電車が来てしまった。
通過する電車を、丘にも歩道橋にも上らず、平地で見送るしかなかった。
歩道橋をゆっくり登る。腹は重いし膝も痛い。
上に登ったら、左右がパネルで覆われていて、電車を見ることはできなそうだった。高圧電流の表示もある。
そんな場所にのんびり立ってるんじゃないよ、ということだろう。さっさと降りる。
降りたところに、また小さな公園がある。こちらは「きぼう公園」というらしい。
線路を挟んで両側に公園とは、なかなかオシャレだ。小さな子とお母さんが遊んでいた。
圧巻! 二所ノ関部屋(とワングー)
そこからまっすぐに歩き、大通りを目指す。その通り沿いにある二所ノ関部屋を拝みに行くのだ。
大通りに出ると、すぐに二所ノ関部屋が見えた。思っていたよりもずっと大きい。門は締まっていたが、威風堂々たる姿だ。
角を曲がり、横からも建物を拝見する。敷地の一角にバスケットゴールがあって微笑ましかった。
すぐ南のホームセンターDCMの横を通り裏道を行くが、何もなかった。
今更だが、私はこの散歩中、紙の地図とペンを持って歩いている。今は物騒な事件が多いし、ましてや住宅街である。怪しすぎる。そのうち通報されるかもしれない。
そのまま南下して、また大通りに出る。なんとそれは「学園西大通り」だった。つくばに行くと必ず通る道がこんなところまで伸びていた。6号に続き、西大通りも歩いて渡ってしまった。
西大通りを駅方面に戻ると、茨城県民のオアシス「WonderGOO(通称ワングー)」がある。欲しい本があろうとなかろうと、見つけたら入ってしまうのが茨城県民だ。吸い込まれるように店内に入る。
系列のリサイクルショップ「WonderREX」も一緒になり「WonderMall」を名乗っている。こんな大層なワングー初めてだ。これはこれで威風藤堂と言えなくもない。
店内をうろついたが、特に買うものも見つからないまま、外に出た。オアシスのはずなのに、なぜか疲れた。
ひたち野うしくならではの店を探して
しかしまあ、ここまで入った店はヨークベニマル、茨城タンメン、そしてワングーと、見事にチェーン店だらけだ。せっかくひたち野うしくまで来たのだから、ここでしかお目にかかれない店を探したい。
「よし、店を探そう」と五郎さんばりに心で呟き、ワングー横の路地を南に進む。
すると、程なくして壁にパンの絵が描かれた建物が見えるではないか。
もしや地元のパン屋さんだろうか。裏手だったので、道を回り込んで確認する。これでチェーンのパン屋だったらガッカリだ。
近づくにつれて、大きな看板が見えてくる。「パン工房ペシュ」の文字と、巨大なコロッケパンが描かれている。よしよし、聞いたことない。もしチェーン店だったとしても、初めてだからいいのだ。
オレンジのツートンカラーの瓦屋根がかわいい、お洒落なパン屋さんだ。
店内は棚に沿って進むとレジに着くパターン。ウリのコロッケパンが美味しそうだったが、お腹がいっぱいなので食べられない。レタスがあったので長時間持って歩くのも良くないと思い、断念した。次は必ず買おう。
結局、明太フランスとガーリックフランス、そしてザクザクチョコホーンを購入。
「ポイントカードお作りしますか?」と聞かれ、思わず「お願いします」と言ってしまった。
今度いつ来るかわからないくせに、いつも断れない。有効期間は1年間、1,000円でスタンプ1個もらえるが、この日の会計は900円くらいだった。でも、聞き取れなかったが店員さんが何かしら言って、2個押してくれた。2倍デーだったのだろうか。ちょっとラッキー。
ザクザクチョコホーンは、持ち歩いたら絶対溶けて酷いことになると覚悟して買った。それでも食べてみたかったのだ。
店の外にテラス席があったので、もうそこで食べてしまうことにした。それくらいならまだ食べられそうだ。
ザクザクのパイ生地に砂糖がかかってさらにザクザクだ。外側が甘いので、中のチョコクリームはあまり甘くない。
私としては、もっとチョコ感が強くても良いと思ったが、それでも美味しくペロリと食べてしまった。
時刻はもう13時を回っていた。休憩しながらだが3時間も歩いているのに、まだまだ歩ける気分だった。
確認するともう6km、1万歩を超えていた。常陸青柳と大洗ではあんなにヘロヘロだったのに、もしかして、歩き慣れてきたのだろうか。
トドメのクレープで昇天
14時くらいで旅を終えるために、そろそろ駅へと戻ることにした。住宅街を軽快に進む。
面白いものはないが、その分立ち止まることもなく、スムーズに移動できる利点があるのだと知った。
いつの間にか、膝の傷みも無くなっている。さあ、旅の締めくくりだ。
駅を通り過ぎ、西友に入る。ここで千円以上買い物をすれば、駐車場がさらに1時間無料になる。物価高の今、悲しいかな千円なんてすぐだ。
しかし、食品売り場に向かう前、正確には西友に入った瞬間に、足が止まった。
フードコートにあるクレープ屋さんに惹かれてしまったのだ。だって、メニューにクロミツやらアズキやらケーキやら書いてあるんだもん。
クレープ屋でなかなか見ない単語。これは面白そうだ。
興味本位で、食べていくことにした。腹はそこそこ一杯だが、クレープくらい大丈夫だろう。
さて何を頼もうか。ケーキ、アズキ、クロミツ……ピーチも結構珍しい気がする。迷う。
名称的に一番気になるのは「アズキクリームチーズ生」だったが、さすがに冒険が過ぎるのではないだろうか。
メニューといくつかあるサンプルを見比べているうちに「スペシャル」が付くとアイスが入ることがわかった。クレープにはアイス派なので、スペシャルに絞る。そうなると「アズキスペシャル」か「黒蜜きな粉スペシャル」だ。
アイスはバニラアイスだと想像できたので、小豆&バニラ VS 黒蜜きな粉バニラ の戦いになる。そうなると、黒蜜きな粉バニラの圧勝だ(個人の感想である)。
いざ注文。店主は若い女性だった。おっさんが一人クレープするのはなかなかに痛々しいが、近いとは言えここは旅先。そんなことは気にしなくて良いのだ。
見事な手際で作られたクレープを受け取り、着席してかぶりつく。甘い、美味い。そして想像以上に生地がもちもち。腹いっぱいの状態でこのもちもちは辛い。辛いのに美味しくて止まらない。
黒蜜きな粉バニラはなぜこんなに美味いのだろう。考えた人は天才ではなかろうか。
食べ終えた頃には、なんだか胸がいっぱいになった。もちろん腹も。これもまた幸せの一つだ。
その後西友で適当に買い物をして、車に戻った。
精算機に1,000円以上で貰えるチケットを読み込ませ、計3時間無料となった。これはお得。
車に乗って駐車場を出る時も、バーなどはなく、そのまま出られる。
払わなくても出られてしまうが「別に? ナンバー押さえてるんで。警察に連絡するだけなんで」というスタンスなのだろう。
田舎もだんだんこうなっていくのかもしれない。なんとなく、無人の冷凍餃子の店を思い出した。
そう言えば「みどりの窓口」が無くなった駅もあるらしい。ユニクロもダイソーも基本セルフレジになった。どんどん人がいなくなっている。
そんな世界なのに、近所づきあいは大事にしろという。矛盾だ。
そんなことを書きながら撮った写真を見ていると、ひたち野うしく駅のみどりの窓口はまだ現役のように見えた。そこに駅員さんの姿は写っていなかったが、一人のおじいさんがそちらに向かっていた。
いつでも気軽に聞ける世界が、なるべく長く続いてほしいと願う。
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