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[朗読 3分]『砂場の成人式』(ショートショート)

【ツマヨム】妻が自作の物語を朗読してくれました。【期間限定公開】
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恵には常に違和感があった。
二十歳の誕生日に両親と思っていた人から初めて「真実」を聞かされ、ようやく腑に落ちた。もちろん二人には感謝しかない。大学まで行かせてくれ、一人暮らしの願望も仕送り付きで許してくれた。

恵は自分がかつて暮らしていたという町で新生活を始めた。その年末は実家にも帰らず、年明けも地元の友人たちの誘いを断り一人で過ごした。
その日。駅からアパートの途中にある児童公園に寄り道をし、ベンチで時間を潰した。ふと砂場の山が目に留まった瞬間、うわっと記憶の扉が開いた。

夕闇迫る砂場で誰かを待っている。
でもその人は迎えに来てくれない。
心細くなって叫んだ――お母さん!

恵は山に駆け寄ると、トンネルの穴へ声をかけた。
「大丈夫。あなたにはこれから素敵なお父さんとお母さんが出来て、二十歳になるまで幸せに暮らすことができるから」
あの時聞いた声そのままに、穴の向こうの小さな私に伝える。
「忘れないで。あなたの、私の成人の日」

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元の記事: https://note.com/t_kanatsu/n/n15e0f206c0fc

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