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『オペラ座の怪人』長い感想文ー終ー

 前回まで、映画『オペラ座の怪人』の感想文を長々と綴ってきました。
 あまりにも冗長になったので礼儀として序章を置いて自らの日記を晒したわけなので、終章も設けます。私の十八番(?)、西洋絵画に落とし込んで長い感想文を締めようと思います。


 『オペラ座の怪人』4Kデジタルリマスター版を観た後、喫茶店に入り持参していた本を開きました。至福の時。

 すると目に飛び込んできたのが、かの有名な「星月夜」。ゴッホの代表作の一つですね。

 私はそこに、怪人の心を見ました。

ゴッホ「星月夜」

 この絵画を大まかに捉えるなら、渦を巻く夜空とデフォルメされた異様に明るい月、そしてうねり聳える黒々とした糸杉、この三つが特徴的な構成要素として挙げられるでしょう。筆をベタベタと置き重ねたような跡はリズミカルです。作家の精神世界が、これでもかというくらい分かりやすく投影されています。

 怪人の心は、美しいものへの羨望、渇愛、恋敵への妬み憎しみ、いろんな歪んだ感情が渦巻いていました。それらの感情からは、「ドン・ファンの勝利」のような魅惑的な旋律が生まれました。怪人の渦巻く感情の中にも、クリスティーヌという光がありました。閉ざされた暗い人生に現れた光を、偶像のように盲信し崇めていました。独占欲あるいは自己顕示欲のために平気で人を殺める残忍さも、怪人の内にはありました。西洋では、糸杉はひとつには死の象徴ではなかったでしょうか。

 後日、「星月夜」を大きめの縮尺で見ようと思い、机に立てかけていた画集を開くと、絵に付された解説文にドキリとしました。ゴッホも、美を生み出す芸術家を鬱々とした世の中に輝く光と見たのかもしれません。闇に生きた怪人が、自分の音楽をクリスティーヌに託したように。

芸術家たちのユートピアをつくろうとゴッホは夢見るのだ。アーティストがあの星のように輝くのだ。天界の音楽が奏でられている。ゴッホの幻想は流星のように飛んでゆく。しかしそれは悲劇のうちに消え去ってしまう。

海野弘『366日風景画をめぐる旅』


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