『境界の扉 日本カシドリの秘密』刊行
エラリー・クイーン『境界の扉 日本カシドリの秘密』(角川文庫)が刊行されました(これまでの角川文庫のクイーン作品と同じく、紙版のみの発売で、電子版は出ません)。
【KADOKAWAのサイトへのサイバー攻撃でさまざまなことが滞っているようですが、この本については予定どおりの日に刊行されます。ただし、一部の書店で少し遅れるかもしれません】
わたしが翻訳したクイーン作品は、これで計21作(角川文庫15作、早川文庫6作)ということになります。
この作品は、従来は『ニッポン樫鳥の謎』や『日本庭園殺人事件』というタイトルで訳され、いわゆる〈国名シリーズ〉の第10作として扱われてきました。
しかし、(1) 原題が "The Door Between" であること、(2) 刊行順が『中途の家』につづく11番目であること、(3) 「読者への挑戦」がないこと、(4) そもそも〈国名シリーズ〉というのはクイーン自身がつけた呼び名ではないこと、などから、今回の角川文庫の新訳では、これまで第10作とされてきた『中途の家』(原題 Halfway House)とともに〈国名シリーズ〉としては扱わず、〈プラス〉と位置づけています。
ただ、旧題で長く親しんできたファンのかたも多くいらっしゃるので、今回は原題直訳の『境界の扉』に、旧題に近い副題の「日本カシドリの秘密」を付したしだいです。
Halfway House 中途の家
The Door Between 境界の扉
この2作のタイトルが対になっていることにも注目していただきたいと思います。今回の訳題はこのことを踏まえてつけたものです。
また、note の仕様ではイタリック体を表現できないのですが、初版本では原題 "The Door Between" が下の画像のように The だけがイタリック体です。これについては飯城勇三さんの解説にくわしい言及があるので、ぜひご一読ください。
久しぶりに角川文庫でクイーンの新訳をできたことをうれしく思います。機会があれば、22作目の新訳に取り組めたらと願っています。
解説はいつものように飯城勇三さんにお願いしました。今回も翻訳へのアドバイスをいくつもくださいました。また、『境界の扉』はなかなかの異色作で、飯城さんはご著書の『密室ミステリガイド』(星海社新書)でもこの作品についてくわしく論じていらっしゃいます。
また、〈国名シリーズ〉ではないと言っても、日本人や日本文化への言及が多い作品であるのはたしかです。この作品が当初は "The Japanese Fan Mystery" と呼ばれていたという説がかつてあり、現在ではそれは否定されていますが、そういった歴史を踏まえたうえで有栖川有栖さんがお書きになった新作『日本扇の謎』が8月上旬に講談社から刊行されるそうです。
そちらも読むのが楽しみです。
エラリー・クイーンの新訳については、2021年4月にYouTubeでまとめてお話ししました(最後の20分ぐらいにはスペシャルゲストが出演してくださいました)。未見のかたはよかったらご覧ください。