佐橋 亮「米中対立」
ごく最近 2021年7月に出版された佐橋亮氏の「米中対立」がなかなかよい、ということをふと聞いたので、さっそく購入して読了した。
1979年の米中国交正常化から、今年前半のバイデン政権までをカバーする内容であり主に米国の視点から、幅広くコンパクトにまとまった良書だと思った。
本書の構成は、1979年から現代に至る両国関係の歴史を振り返って解説した第1章から第4章が半分強を占め、第5章でアメリカ内の様々な勢力の影響の分析をし、第6章で、世界各国の対応を俯瞰する。第7章で今後の動きについて予想されるところに触れている。
やや米国やヨーロッパの価値観に偏ったところがあるかな、というきらいもあるが、米国の視点から書いているために必然的にそのようなトーンになるだけであり、どちらかというと本書は中立な研究者らしい立場から分析して記述していると好感を持った。
分析の主軸をアメリカの政策形成に据えることについて、著者は序章「米中対立とは何か」の中で解説している。
中国よりもアメリカに注目する理由は、なによりもアメリカこそが大胆に政策を見直しており、中国はこと米中関係においては受動的に対応している側面が強いからだ。
(中略)
アメリカこそが20世紀半ば以降、支配的な超大国であり、その政策変化や紛争への介入が世界に大きなインパクトを与えてきた。そして関係者の利害、イデオロギー、政治日程など国内事情が往々にして他国との関係以上に作用してアメリカ政府の政策ができあがる。
そして、米国の政策の変遷を解く鍵として、2点、「両国の間のパワーバランスの変化」と、「アメリカの中国に対する「3つの期待」に基づく信頼の形成とその喪失」を軸にして説明される。ここでいう、3つの期待、とは、政治体制の改革、自由市場経済への改革、そして国際秩序を受け入れること、だという。
また、台湾との関係の変化を、中国との関係の変化と対偶のように解説しているところも、今日の問題の理解を助けると思う。
アメリカがいまさら「アメリカ・ファースト」と公言するまでもなく、アメリカのみならず、いかなる国も自国がファーストで、自国の利益と生存をかけて外交政策や国内政策を打つことは異論のないところだろう。
よくみかける議論では、パワーの面 (科学技術・経済・軍事力...) か、あるいは、ソフトの面 (価値観・人権・イデオロギー・民主主義国家か専制国家か・社会統制の是非) か、どちらかに偏ったものが多いと思う。本書では、両方をバランスよく扱っていると思った。そして、パワーとソフトの二つをともに成り立たせたように外交を構想することが大事だと説く。
生存を追求するために地域覇権を追求することが合理的、だからして、拮抗する大きな勢力が分立した場合に、衝突は必然的で避けられないのだろうか?
それとも理念や価値観と体制が異なる大きな力を持つ複数の国家が存在した場合に、そのことだけで衝突は避けられないのだろうか?
米国と中国との間で、日本はその緩衝地帯として重要な位置を占めることは間違いない。地理的にというだけではなく、私は、日本は、アメリカやヨーロッパの西洋の価値観を共有しつつ、中国や韓国、アジアの価値観も共有していると思う。政治に対する考え方も同様ではないだろうか。そして、両方に密接に経済的な関係を持つ日本の責任はこれからさらに重大になるのだと思う。本書の結びに以下のような一文がある。
私たちに必要なことは、ジレンマのなかで 悩みを深め事態を傍観することではなく、受け身の対応でもない。ましてや瞬間的な喝采を求めるような姿勢はあり得ない。状況を正しく認識したうえで、長期的な視野にたった構想力が今求められている。
その通りだと思った。
私が会社員になってから、これまでの30年ほどの間であまり注意深く見ていなかった米中関係について、いいまとめになっており、歴史の教科書のようにこれから、重宝することになりそうだ。
さて、何気なく私達が使っている「国際秩序」とか「国際ルール」、「国際システム」とはなんだろうか。それは米国中心の米国が儲かる米国が自由に振る舞える、そういうルールなのではないだろうか。日本がかつて、半導体産業や車で米国を脅かしたときに、何が起こったかを思い出せばよい。
そもそも、民主主義や人権、アメリカはちゃんと守っているのだろうか。
2020年からの COVID-19パンデミックへの対応を見たときに、「民主主義」「人権」っていったいなんなんだろう、と疑問に思う人も多いに違いない。
一方で「私権の制限」と言われながらも、強力な施策で感染の拡大を抑え込み、その後もコントロールし、感染者数はもとより死亡者数を抑えた中国と、片や「個人の自由」を声高に叫び、70万人を優に超える死亡者を出し、自国で開発したワクチンを持ちながらも、いまだに毎日平均1500人もの人が死亡していくアメリカだ。
では、中国は不自由か、というとそうでもないのが実感ではある。どの国だって、自国の法律を守る範囲で自由があり人権が保障され、法律を破れば自由が制限される、というのは変わらない。接する限り、前向きでポジティブな人は多いし、とくに抑圧されている風はない。むしろ社会の雰囲気は明るいと感じる。
湾岸戦争やイラクでの戦争、「アラブの春」以降の中東の国々、アフガニスタンでの20年間、世界を見渡し、アメリカの国内問題を見たときに、アメリカのいう「民主化」「自由」とは何なのか考え込まされる。
そんなことを思っていたら、フォローさせていただいている中国在住の華村さんが、タイミングよく、こんな記事を書いていた。とても参考になる。
ひょっとしたら日本は、双方の枠組みや価値観を発展的に乗りこえて新しい秩序を作り出す、そんな立ち位置にいるのかもしれない。その中で勝ち組になれるかどうかはわからないが。
先週、中国は WuXi (無錫) にあるサプライヤ様と WebExで1時間半ほどの会議をもった。先方のプレゼンをずっと聴いていると、この半年ばかりでさらに技術を磨いて進化させていて驚くばかりだ。
社長さんは、取引があるというだけでなく、以前から親しくさせてもらっているのだが、60歳をゆうに過ぎた人だ。若いころにアメリカに渡って学位もとり、学会でも影響力を持った人で、自分のアイディアでもってアメリカで起業し成功して会社を売却、それを元手に中国に戻って会社を起して成功し、その会社を売却して大きくしたキャッシュで、さらに新しい会社を起したのが、10年ちょい前だということだ。
役員を PhD (博士) で固め、経営スタイルも欧米流、自社の製品の売り込みに自ら世界を飛び回り、米国や日本向けの製品が大きなシェアを占めているということで、年々順調に売り上げを伸ばしているそうである。
今回も、広い会議室のテーブルに、自社の製品を並べ、現場のエンジニアや役員数人が並ぶなか、1時間半の会議は社長の独演会になった。幅広い製品の技術的な細かい内容まですべて把握しているので、プレゼンも迫力である。
とにかくエネルギッシュな人で、人によっては合わない、そして、上司にしたら大変だろう。実際、めちゃめちゃ優秀なアカウントマネージャーで当時30代前半だった若手のビンさんは7年前だったか、辞めてしまった。
ビンさんはその後、自分の会社を1人で起業し、私は昔のよしみで、彼の会社の日本代理店となる候補の会社を紹介したりしたのだが、彼も順調に商売を拡大しているようである。そんな縁で年に数回、メールでやりとりをする程度だが、いつも達者で丁寧な英語、経営者らしい若々しいメッセージで、受け取る私もとても気持ちがいい。
中国は、お金も人も土地もある。起業家精神が旺盛な人も多い。新しいアイディアを事業にするうえでの規制もむしろ少ないようだ。よかれと思えば、どんどん試し、問題が起こってから考えて解決すればいい、拙けりゃ畳んで出直せばいい、そんな進取の精神が旺盛だと感じる。
さて、2021年は、米国大統領選挙と米国議会の襲撃事件に始まり、折から自分自身の政治・経済、安全保障についての知識・知見が不足しすぎていることも認識していたので、これらの分野の入門の年にしよう、と2020年末からいくらか本を読んできた。私が投稿した関連 note 記事は、一番下にまとめてある。
こうしてみると、まだまだ駆け出しとはいえ、少しは努力の後がみえるなと少々自己満足気味だ。今年はあと一冊くらい、何かみつくろって読むつもりだ。そして、来年も引き続き、教養課程2年目のつもりで、政治・経済、安全保障の理解を深めていきたいと思う。
■関連 リンク
[2021/10/30 NHK] G20サミット開幕 エネルギー価格高騰や気候変動の対策が焦点
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211030/k10013328521000.html
国際秩序や、国を超えた枠組みで取り組まなければいけないような問題に対する態度について言うならば、どの国も、中国を非難することはできないとは思う。
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