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剛速球の法則 Theory Fastball : Max DePree "Leadership Is an Art"

まぁ、人の偉業をすごいすごいと称賛しても自分がえらくなったわけではないので仕方ないし、その場でリアルタイムに見ていたわけでもないし、情報を消費しているだけだという自覚はあるのだけれど、最速 164km/h、13連続奪三振、1試合19奪三振、そして完全試合。やはり驚かされる。

https://youtu.be/xiunae5qVcE


私も日本でそこらにいるいち野球少年だったわけで、小学校のときは近所の子供と狭い公園や田んぼで草野球で遊び、小学校3-4年にもなると、自分の運動神経も運動能力もゼロであることを徐々に思い知らされて自分ではプレーしなくなったけれども、ノーラン・ライアン(*1)のピッチング教本などを見て、ちょっとは真似したりしながら、村田兆治の投球フォームにしびれて、自分も快速球を投げるスーパースターになることを夢想していた。もちろん、自分が運動音痴であることを改めて思い知らされただけだった。


中学高校のときは、シーズンになれば夕方6時すぎからラジカセにかじりついてAMのナイター放送をきいていた。アナウンサーも解説も名調子でそれも楽しみだったし何よりファンだった選手の活躍に心躍らせ、好きなチームの一勝一敗にやきもきし、毎日のスポーツ新聞や週刊ベースボールマガジンも、どこかから手に入れて読んでいた。学校が渋谷の近くにあったし、あのころは、みな、読み終えると駅や電車の網棚などに気軽にポイポイ捨てていたから、入手しやすかったのだ。

また、スポーツ・ノンフィクションも好きだった。野球では近藤唯之が好きでよく読んだ。この人の本も、近藤節、としかいいようがない名調子でそれがよかった。

例えば:


あるとき、週間ベースボールマガジンに連載されていた常磐新平のエッセイで、山際淳司という人のノンフィクションが素晴らしい、と紹介されていたので読んでみたらこれがとても面白くてぞっこん惚れこんでしまい、あのころ一時期、山際淳司の本はすべて買って揃えていた。「江夏の21球」の著者だというとピンとくるかもしれない。「スローカーブをもう一球」「海へボブスレー」「ナックルボールを風に」「スタジアムで会おう」「逃げろ、ボクサー」「リングロード9」、どうだろうか、タイトルをみただけで読みたくならないだろうか。

スポーツのノンフィクションに「学び」を求める人も多いようだが、私は、著者の人間がにじみ出てくるこんな本が好きだ。

今、手元にはそれらの本はないし、読み返してみてあのころの心情に耽溺するつもりはないが、暗記するほど何度も読んだのでいろいろ思い出すところはある。

さて、佐々木選手であるが、今日の試合で max 164km/h (日本人最速まであと1km/h)をマークしたということだ。40年くらい前に私がラジオにかじりついて中継を聴いていたころは 140km/h台の後半でも「すごい!」とどよめいていたわけで、あのころから隔世の感がある。もちろん、2016年に記録された大谷翔平の 165km/h もあるし、いまさら、と言われるかもしれない。それに、彼らは身長190cmも超えていて、体格が昔とは違う。それにトレーニング理論や手法、選手の育成の仕方やマネジメントも昔とはまったく違っていることだろう。とはいえ、160km/h以上のファストボールを投げられる人はアメリカにもそうはいない。

こういう本格派のピッチャーの活躍を聞くと思い出すのは、ハーマンミラーの 創始者の子にしてCEOだったMax DePree著の "Leadership Is An Art" だ。たぶん2000年より前に買って読んだと思う。

148ページ、しかも大きめのフォントで行間をしっかりととってあるので、コンパクトな本だ。とはいえ、文体と単語の使い方が私には難しく、読むのはちょっと苦労する。そして、新米プロジェクト・マネージャーとして抜擢されてしまって壁にぶつかりうまくいかず悩んだころ、まだまだ英語が苦手だったし、辞書を引き引き、かなり苦労して読んだ。ページを開けると、小さなボールペンの文字で下線と書き込みがたくさんしてありドックイヤーもあちこちにある。何年も鞄にずっと入れていて、雨に降られてびしょ濡れになったりするなど苦楽をともにしたので、ぼろぼろになっている。

この何年かは手にしてはいなかったが、いろいろな局面で思い出すことは多かった。久しぶりにページを繰ってみた。

この本はIntroductionからPostscriptまで、数ページづつの19章からなっている。どこから読んでもいいが、そのなかに "Theory Fastball" (*2) という一章がある。

pursue とか intimidateとか辞書を引いて書き込んでいるが、あのころはそんな基本的な語彙力も不足していた。hum は意味はなんとなくわかってただろうけど、おそらく Koufax was the only ML pitcher whose fastball could be heard to hum. の簡単な構文も一発でピンとこなかったからだろう。苦労して読んだことは憶えている。

「剛速球の法則」とは、剛速球を投げるピッチャーがいても、その球を受けることのできるキャッチャーがチームにいなければ勝てはしない、という theory だ。

そして、この二人が存分に活躍できる場を作るリーダーが必要なのだ。この本 "Leadership is an Art" では、傑出したピッチャーとキャッチャーが活躍するために、リーダーの心得として、以下にあげる彼らの権利を大事にすることが重要だと説く。

  1. The Right to Be Needed

  2. The Right to Be Involved

  3. The Right to a Covenantal Relationship

  4. The Right to Understand

  5. The Right to Affect One's Own Destiny

  6. The Right to Be Accountable

  7. The Right to Appeal

  8. The Right to Make a Commitment

リーダーとは、なんと広い度量が必要なのだろうか。今、また、改めて胸に手をあてて反省しているところだ。

私は昔を振り返らない。けれども、今日、ページを改めて繰ってみて、もう一度初心に戻って読んでみようと思っている。


■ 注記

(*1) 佐々木朗希(ささきろうき)選手は、和製ノーラン・ライアンとも言われている。45年前の私がスーパースターを夢みて手本にしたノーラン・ライアンだ。

ノーラン・ライアン - Wikipedia

(*2) Theory Fastball の中で引き合いに出されているのは、ノーラン・ライアンの10年ほど上の名投手、サンディー・コーファックスだ。ノーラン・ライアンのピッチング教科書にも紹介されていてよく覚えている。

サンディー・コーファックス - Wikipedia

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