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海の地政学・1:Admiral James Stavridis "Sea Power"

2022年の3冊目の洋書は、Admiral James Stavridis の "Sea Power" を読んでいる。英語の学習のため、そして洋書を読むことそのものが楽しみで、毎年、硬軟交えて年間12冊を目標に読むようにしている。本書 "Sea Power” は、2月中頃から読み始めてまだ 25%を過ぎたところ 1日2%進めるのがやっとという感じだ。ぎっしりと文字が詰まって 372 ページなので、まぁそんなとこだろう。4月頭には読み終えることができると思う。


また、しつこく書いているような気もするが、私は歴史・政治・経済・安全保障の分野はあまりに疎く、昨今の情勢を鑑みるとさすがに常識程度は身につけなければ、と去年からそのような分野も混ぜるようにしている。

1年前に読んだ烏賀陽弘道著「世界標準の戦争と平和」はかなり衝撃的だった。国境や領海の定義や国際法のあれこれといった基本的な事柄の理解とともに、現代の国々の力関係や国際秩序を理解するうえで、地政学・Sea Power と Land Powerの対立の構図、海とチョークポイントの役割、といったことの理解が重要であることを知った。

それにしても、この本「世界標準・・」は、最近に出版されたわかりやすい入門書であるにもかかわらず、だいぶん前から新刊で入手できないようで、Amazon では中古で法外な値段で売られているようだ。上にリンクを張った今日の時点で18000円ほどもしている。定価は1600円、私は告白すると 8000円ほどで購入した。しかしそれだけの価値はあると思う。手にとって読んでみたい人は図書館に行ったほうがよいかもしれない。

さて、この「世界標準・・・」の巻末に挙げられていた推薦文献の一冊が、今読んでいる "Sea Power" だ。アメリカの海軍の元将校が書いた本で、自身の経験も交えながら世界の海について歴史と現在について解説している。英語は平易で単刀直入、読みやすい。

第1章が太平洋、第2章が大西洋、第3章がインド洋、第4章が地中海、第5章が南シナ海、第6章がカリブ海、第7章が北極海、第8章が抗争の場としての海について、第9章が21世紀に向けたアメリカの海軍の戦略、という構成になっている。

海を舞台にした交易と争いを通じて見える世界史も概観できるのが知識欲を満たし面白い。また、アメリカが世界の海をどう見ているかが興味深く、実際のアメリカ海軍の行動もちらっと垣間見える。

それぞれの海を接続する部分は、海峡や運河となり航行上非常重要な点であるチョークポイントとなる。チョークポイントをいかに支配するのか、あるいはチョークポイントの航行をどう護衛するのか、ということが、交易上の理由および安全保障上の理由で大変重要であるからして、紛争の火種の一つはそこにある。

もし、遠い将来、世界の勢力図が大きく変わるようなことがあると、どこが世界の力関係の中心になるだろうか。そのように考えて地図を見ていると、それはインドネシアではないかと思えてきた。・・・思い付きで書いているだけなので気にしないように。

今、第3章のインド洋のパートを読んでいる途中だが、インド洋の船と交易の歴史やホルムズ海峡や紅海について、ポルトガルとオスマントルコの権益争いだけでなく、アラブの奴隷貿易といった、世界史でこれまで知らなかったことも多くて興味深い。

今、起こっていることにしても、19世紀のパワーゲームの続きなのではないかと思わせるところもあり、また、それはさらに15世紀、あるいはもっと前にまで遡るものなのだろう、とも感じる。

私たちは、指数関数的に複雑さを増し急速に変化する環境の中に放り込まれていて飛び交う情報に翻弄されがちだ。予測できない未来は不安だ。だから、見聞きする大きな動き、ときには自身がまきこまれてしまう事件に対して、わかりやすく単純で口当たりのよい説明を求めがちだ。それは「一人の悪人対正義の連帯」であったり「報道されない裏にある強大な力」だったり「直近の権益案件との安易な結び付け」だったり「何百万年前から狩猟採集を生き延びた人間に組み込まれた遺伝子」だったり、ロマンや願望や誇りや自尊心だったり、セールストークだったり、そんなことばかりだったりする。

しかし、こういう本を読んでいると、現実はもっとずっと複雑だし、私たちは世代から世代へ連綿と続いている大きな連続した歴史の流れのなかのヒトコマを生きているのだ、と改めて認識させられるように思う。

人類の福祉が向上し、科学技術・ ICTや医療技術の発展 によって飛躍的に生きやすくなった 20 世紀後半から 21 世紀に奇跡的に生まれて生きていることに感謝しつつ、歴史を俯瞰し未来を想像したときに、それが特別に輝かしいことでもないことも認識するべきなのだろう。


世界中の紛争が早く解決しますように。



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