複雑なタイトルをここに、を読んで。

著者:ヴァージル・アブロー(カニエ・ウェストのクリエイティブディレクター、IKEA、ナイキ、ルイ・ヴィトンのデザインも手がける)
タイトル:“複雑なタイトルをここに”

この本を渡された時に私は国外の人が書いた本だ、と思いました。

また学校のイメージも頭をよぎりました。

何故私はそう思ったのでしょうか。
表紙にある、コピー紙に印刷されたあと、拡大されたような、解像度の低い文字が学校の印刷物を想起させたのかもしれません。
もしくは帯にあるどう見てもアジア人ではないヴァージルの写真のお陰でしょうか。英語圏の人が書く、少し太めのペンを使った手書き文字のせいもあるかもしれません。それともカラカラオレンジのような、日本ではあまり見ない赤みの強いオレンジ色を帯に使っていることも要因の一つかもしれません。

そんな風に表紙を見た段階で、アメリカっぽさみたいなものを連想した私は、異国の学校で講義を聴講する学生の気分を味わうことになりました。(しかもハーバードの特別講義ですよ、わっくわくです)

本の内容としては、ヴァージルが今まで生きてきた中で築いた考え方を教えてくれるものでした。講義内で問いかける内容に自分独自の意見で回答できれば、その回答が将来に役立つチートコードになるというものです。

ちなみにヴァージルが考え出した、デザインする上で大切にしている考えをまとめた、独自のデザイン言語はこちら。


1. READYMADE – NEW IDEA BASED ON RECOGNIZABLE PARTS
レディメイド――既知の要素、人間的感情、アイロニーにもとづく新しいアイデア
2. “FIGURES OF SPEECH” OR THE “QUOTES”
“比較的表現”あるいは“引用”
3. 3% APPROACH
3%アプローチ
4. A COMPROMISE BETWEEN 2 DISTINCT SIMILAR OR DISSIMILAR NOTIONS
明らかな類似あるいは相違という二つの意見を折衷する
5. SIGNS OF “WORK IN PROGRESS” – AGAIN HUMAN
“ワーク・イン・プログレス”の傷跡――人との相互作用を繰り返す
6. A SOCIETAL COMMENTARY – HAS A REASON TO EXIST NOW
社会的主張――そこにいま存在すべき理由がある
7. SPEAKING TO THE TOURIST PURIST SIMULTANEOUSLY
ツーリストとビューリストに同時に語りかける

私は2.の内容が特に印象的でした。

このデザイン言語の一つにある、2.“比較的表現”あるいは“引用”ですが
これは、クォーテーションマーク“”のことを示すようです。
ヴァージルはクォーテーションマークを使うことによって、物事を曖昧にもピンポイントにも表現できると書いています。
確かにクォーテーションマークは伝えたいことの一部分を強調させ、皮肉っぽく伝えることも、相手になにかを考えさせることもできるものだと気づかされました。
身近にあるのに、私はクォーテーションマークをデザインの要素としてそこまで丁寧に考えたことがありませんでした。

今まで私は、デザインをする時につまらないものになるのは皆に使い古されたアイデアを使うから、面白いものが出来ないのだと考えていました。
IT企業のロゴに円と球体を合わせて、上昇志向を表すために右斜め上にモチーフを傾ける、水を取り扱う会社に水の波紋や水滴のマークを使う、などです。
こういうことをするから、デザインがありふれたイメージとなりチープで陳腐なものになると思っていました。
ありふれたアイデアでないものを生み出すためには、自分の知らないことに触れることが1番大事だと考え探していました。


しかし“”は身近にあって、形の表現はキーボードだけで作れて、色々な意味合いを持たせることができます。

今回ヴァージルの講義を読み、このことに改めて気づきました。

ないものを模索することも大切ですが、今あるものをもっとよく観察することをとても疎かにしていたことに気づかされました。

手始めにGW期間中はクエスチョンマークは疑問の提示以外にどういう意味を持つことができるか考えたいと思います。

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