minneのブランドビジョンができるまで
こんにちは。
GMOペパボ株式会社のハンドメイドマーケットサービス「minne」でデザイナーをしております、sziaoreoです。
今までデザインシステムに関する記事を書かせていただいたのですが、そういえばブランドの根幹について考えた時の話はまだ触れていないなぁと思い、「minneのブランドビジョンができるまで」をご紹介したいと思います。
こちらの記事では、minneが一般的な手順を参考にしつつ、独自の課題に応じてブランディングに取り組んだ流れについて書いています。
「minneではこんな感じだったのか、じゃあうちではこうしてみよう」と考えてくださると嬉しいです。
0. 「ブランディング」が必要と気づいた
ブランドについて言語化もメンバー間でのすり合わせもきちんとできていなかった故に、「らしさ」を施策や開発に活かせずにいたminne。
他のサービスと決定的に差別化できるポイントを明確にしたい!そんなお悩みから「minneのブランディングを考える会」はスタートしました。
当時私が特にブランディングの必要性を強く感じたのは、ブランドがないと、判断の基準が短期的な収益のみに偏りがちだと気づいたからです。
競合とシェアを争う時、ブランドなしでは価格と機能でミートする体力勝負しか手段がなくなってしまいます。なんなら当時minneは既にこの状況に陥っていて、チームは疲弊気味でした。
1. 少人数でブランドの骨組と進め方を考えた
実は数年前にもリブランディングを行っていたのですが、当時外部の方と一部メンバーのみでブランドを制作した結果、うまく浸透しなかったそうです。議事録は公開していたものの、チームメンバーのブランディングへの参加体験がほぼなかったのが原因でした。
過去の学びから、チーム全体を巻き込みたい気持ちはあれど、意見をまとめきれるかの不安もありました。まずプロジェクトメンバーで試験的に進め、その後チーム全体の意見を取り入れる方法を採用しました。
1-1. minneの意味を考えた
まずは各々が考える「minneの意味・役割」を整理しました。
💭 minneの意味は...「わかり合いのプラットフォーム」
同じ価値観の人と出会い、それを共有できる場である。
万人ではなく、わかってくれる人にわかってもらえる。
💭 minneの意味は...「(自分への他人への)ギフト」
minneでのお買い物は、生きるための消費ではない。
人間の五段階欲求のうち上位3つのを社会・承認・自己実現満たすもの。
他人への贈り物は自己表現である(それに対する承認も望んでいる)。
💭 minneの意味は...「多様性の肯定・拡大」
「なんとなくみんないいって言ってる」から選ぶ ×
「本当に自分が好きなもの」に気づき、臆することなくそれを選ぶ ○
このタイミングでminneの当時の様子と、理想の姿も整理してみました。
1-2. ビジョンエレメントを考える
まず、❶ minneの意味を踏まえてビジョンエレメントになりそうなものをあげ、❷ ◎コアビジョンエレメント、○拡張ビジョンエレメント、△その他に分類しました。
上記のフローを経て、プロジェクトメンバーでの試験的な話し合いでは、以下のような内容がコアビジョンエレメントとしてまとまりました。
わかり合いのプラットフォームである
ギフト(欲求5段階説の上位3つを満たせる場所である)
多様性の肯定・拡大
売買だけではなく、新しいアイディアが生まれる場所
人として尊重してくれる、温もりと人肌を感じる場所
成長できる場である
2. チーム全体を巻き込んで考えた
プロジェクトメンバーで実際にビジョンエレメントを考え、それを重要度で整理する作業までやってみたところで、チーム全体からも意見を吸い上げるフェーズに移りました。
2-1. ブランディング説明会を開く
チームのブランディングへの「のっていき」を高めるためには、まずブランディングについて正しく理解してもらう必要があります。
minneではプレゼン資料を用意し、ブランディングの基本知識とその重要性を知ってもらうための説明会をチームに向けて行いました。
また説明会にあたり、より理解を深めてもらうために事前に動画の視聴をお願いしたり、知見共有をスムーズにするためにnotionを導入しました。
2-2. 他のメンバーからもminneの意味についての意見を吸い上げる
最大8人の13チームにわけ、意見を吸い上げる会を実施。
プロジェクトメンバーから1チームにつき2人ずつファシリテーターをアサイン。 また、まず1チーム実験的に吸い上げを行い、問答集を用意してファシリテーターの裁量に依存せずにより効率的な深掘りを促す仕組みなども用意しました。
2-3. 新たに吸い上げた意見をマージさせる
チーム全体から吸い上げた意見を集めて分類。
minneで行った際には、プロジェクトメンバーででた意見と類似したものが多かったので、意見別に分類&マージしていくことでそれらに含まれない新しい視点のものを探しました。
💬 吸い上げ会を通して抽出した新しい意見
自分の好きが見つけられる
自分たちが「生活・人生・営み」を作っている実感こそが幸せ
ものづくりをみた、触れた人がちょっと想像的になる
3. ビジョンエレメントとブランドビジョンを詰める
真意を誤解なく伝えるために言葉選びは重要です。
何度も話し合って部長やマネージャーなどのレビューなども取りこみながら、ラベリングを詰め、項目の過不足を検証しました。
言葉を考える時に気をつけたことは、以下の2点です。
❶ 解像度の高い言葉を使う
「伝わる」ことが大切なので、難解な言葉はできるだけ使わない。
しかし、意味を伝えるのに最適な言葉であると判断した際には学習を促すことも必要です。抽象的になってしまうので、「キャッチコピー」を作ろうとしない。
minneの場合はラベリングだけで言いたいことを全て伝えるのは難しいと判断したので、サブテキストをつける形で統一しました。
❷ ブランドビジョンの主語はブランドに共感したステークホルダー
誰かのメッセージではなく、サービスの意思と姿勢を書く。
「ステークホルダーがそのブランドビジョンをそのまま真似できるか」で考える。
例えば「〇〇することを約束する」というような表現だと、ステークホルダーが自らを主語と考えて自分ごと化できなくなってしまいます。
4. ブランドビジョンが完成!
言葉の精査を繰り返して生まれたminneのブランドビジョンとコアビジョンエレメントがこちらです。
自らの「生活・人生・営み」をデザインする
日々の生活の中で「好きなもの・こと」を探し、出会い、選ぶことを繰り返して自らの価値観を形作り、変化させる。このような暮らしのデザインを大切にする私たちは、ものづくりを通して他者の価値観の刺激とつながりを楽しみ、より創造的に、自分らしく生きていくことを尊重する。
高関与的な体験
作品を作るとき、売るとき、買うとき、人と繋がるとき、全てが自分ごと。 想いを反映した体験と「好き」への気づきを重ねることで、自分のこだわりを自覚する。好きなこと・もの・人との出会い
同じ「好き」をわかりあい、違う「好き」から刺激を受け、新たな「好き」を見つける。 多様な「好き」と出会う感動は、自らを少しずつ変化させる。インスピレーショナルである
刺激を受け、触発され、着想する。そうして生まれたクリエイティブなアイディアは、また誰かに新しい刺激を与える。共に成長する
ユーザーとプラットフォームが継続的な関係の中で新たな可能性を知り、変化し続ける。しなやかな自尊心
好きなものを選べること、作れることはそれだけで素晴らしい。 他者からの刺激を肯定的に捉え、互いの「好き」を尊重する。
5. チーム全体へのブランドビジョンの共有
まずチームに影響力のあるメンバーに協力を仰ぎ、ブランドの浸透を図りました。共有会を対象別に複数回に分けて開き、以下のような工夫をもってプレゼンテーションを行いました。
「このブランドビジョンがサービスをどんな未来に導くか」を説明する
「ブランディングはサービスの成長とより良い価値提供につながる」ということをしっかりと伝えました。「ブランドを活用した施策事例」を紹介する
実際にブランドを活用する際に想像がつきやすくなり、ブランディングに対する心理的ハードルを下げました。プレゼン資料と読み資料を用意する
プレゼンをその通りに繰り返すことは難しいので、詳細な補足情報を追記した読み資料をお渡ししてチームへの浸透のハードルを下げました。目指す世界を視覚的にまとめた資料も用意する
minneが定義する新しいハンドメイドについてより理解してもらうため、具体的にビジュアライズした資料を別途用意しました。
以上のようなフローを経て生まれたブランドビジョンとビジョンエレメントから、デザインプリンシプル、イラスト、カラーパレット、minne辞典などのデザインシステムに展開していきました。
minneではチーム全体に自分ごと化してもらうことを大きな要件としてブランディングを進めたので、「参加体験」を重視して進めましたが、これは各組織の目的や状況によってアプローチは変わってくると思います。
チームの数だけブランディングの進め方があるので、あまり手順にとらわれないことも大切なのかもしれません。
大事だったなポイント
最後にブランディングを経て、全ステップにおいて共通して「大事だな」と感じたポイントについてこちらにまとめます。
議事録とメモをもれなく取ってまとめておくこと
通常業務と並行するとブランディング関連の活動にスパンが空いてしまうこともありますよね。そういう時のために議事録をしっかりまとめておくなり、MTG内容を録画しておくなどすると安心です。
また、途中でブランディングに新しいメンバーが参加する場合にもキャッチアップしやすくなります。
今はAIがよしなにやってくれるので、ぜひ活用しましょう。全てのステップをプロジェクトメンバー「全員」で行おうとしないこと
言語化や言葉を詰める作業などは、それが得意な人や代表者がリードして人数を絞ることでスムーズな進行に繋がります。
minneでは途中からライティングに関しては代表者がたたきを作り、それを他のメンバーにレビューしてもらうように進めました。意思決定を多数決で決めようとしないこと
プロジェクトメンバーがリーダーシップを発揮し、サービスの将来を見据えて責任を持った意思決定を行うことが大切です。まず自分から自分ごと化すること
プロジェクトメンバー1人1人がブランドのエバンジェリストとなって行動することがとても重要です。その結果、他のパートナーの「のっていき」が生まれやすい環境づくり、工夫、アクションにつながります。
以上、「minneのブランドビジョンができるまで」をご紹介しました!
少しでもブランディングに悩める方々のお役に立てたら幸いです。