
芸人目指して何もなくなってゲームを作って10周年。SYUPRO-DX結成から今までの失敗と復活
インディーデベロッパー・SYUPRO-DX、実は今年で10周年です。
結成時、浜中以外のメンバーは違って、横田と入間川はいなかった。一人になった浜中が横田を誘い、入間川が加わり、今の3人になりました。最初のメンバーはどこに行ったのか? SYUPRO-DXの名前の由来は? 失敗と復活をくり返した10年を振り返ります。
芸人目指して4ヶ月でコンビ解散。ゲームを作り始める前、浜中と横田は音信不通だった
入間川幸成(サウンド):浜さんとJさんがSYUPRO-DXを一緒に始めたのは2011年だよね。
横田純(企画/シナリオ):そうだね。
入間川:何月から?
浜中剛(代表):9月かな。
横田:おお! じゃあもう10年経つわけだね!
浜中:そうですよ。
横田:俺は10年前、普通に演劇をやってて。脚本を書いて出演もしてっていうのを一生懸命やってたから、もう浜中の連絡先も知らなかったし… なんだったら、そんなにいい別れ方をしてなかったから…
浜中:一応聞くけど、なんて言って別れたんだっけ?(笑)
横田:なんだったっけ… 「俺もうやめるわぁ…」とか…?
浜中:……………
横田:……………
浜中:今、俺は不機嫌になったよ。
横田:なんで。(笑)
入間川:(笑)
横田:だからもう、なんて言って別れたかもよく覚えてないんだよね。
浜中:……………
入間川:痴話喧嘩だ。ヨリ戻したカップルのヤツだそれ。(笑)
浜中:…高校の時にさあ、あなたから「芸人になろう」って誘ってきたじゃないですか。
横田:そうね。
浜中:そして、芸人の道を目指して、養成所に入ったじゃないですか。
横田:うん。
浜中:で、3ヶ月くらい経った時に呼び出されてさ。「俺、俳優になりたいから」。
横田:あっはっはっはっはっは!(笑)
入間川:当時26歳?
浜中:いや。
横田:19とかだよ。
入間川:19…?
横田:高校卒業して、すぐ養成所入ってるから。2004年頃の話。
入間川:ああ! そうか… 我々今36で。SYUPRO-DX結成が10年前で、そのさらに前の19歳ごろの話。
横田:…俺は「俳優になる」って言ったのか。
浜中:そう。横田に誘われて芸人の道に行ったんだけど、その誘ってきた本人は「本当は俳優になりたいんだ!」っつって。(笑)
横田:5月に入学して、すぐやめた。でも、1回ライブ出てるよね?
浜中:あー! そうだ!
横田:それって9月とかじゃないっけ?
浜中:その後か!
横田:俺その前に全然授業行ってない時期とかあったけど、とりあえずライブの時だけ来たら、ものすごい何か言われた気がする。
浜中:ああ…
入間川:高速の土下座でしょ?
横田:ネタ見せ終わった後に講師の先生がコメントを言ってくれるんだけど、その時に「なんだその態度」って言われて、即土下座。
浜中:俺の視界から横田が突然消えたんだよ。
入間川:(笑)
横田:だから、そうだね、やめてるのは9月かな。
入間川:じゃあ、夏の終わりぐらい?
横田:そうだね、そのライブ出て… ライブの反省会みたいなこととか、その次の授業でやると思うんだけど、その授業に出てないから…
浜中:うん。
横田:いきなりやめてる。で、俺10月から劇団に入ってるから。
入間川:そのやめた時の内訳って、Jさんから聞いた覚えがあるんだけど…
横田:うん。
入間川:なぜやめたの?
横田:それはもう単純に、心が折れたんじゃないかな。
入間川:ほう。
横田:ものすごく浅い、甘い理由で… 「あれってあんまり面白くないよね」って思ってるやり方が評価されてたから。それがイヤだったし… 養成所の環境に、すごい早い段階で「合わないな」と思っちゃったんだよ。
入間川:やめる時ってさ、手続きとかそういうのって…
横田:しないしない。勝手にやめる。来なくなったら「やめたんだなあいつは」って。
入間川:あ、そうなんだ。
横田:退学の手続きとかもないし、授業料は入学時に一括で払ってるから。向こうはやめられても全然困らないんだよ。
入間川:じゃあもう、「やめた」と決めた時がやめた時なんだ。
横田:うん。
浜中:今にして思えば、いい思い出だよね。
横田:そうなりました!?(笑)
浜中:あっはっはっはっは!(笑)
横田:それを食らった方がそう言ってくれるんだったら、俺は…
浜中:駅前でさ。
横田:元加治(もとかじ)のね。
入間川:駅前?
横田:なんかあると、我々ずっと駅前にいたのよ。
浜中と横田の最寄駅・元加治の駅前(2012年夏撮影)。二人が出会ったのは高校で、ここから電車に乗る必要があるのだが、実家は自転車で20分ぐらいの距離だったので会おうと思えば全然会えた。
浜中:当時、元加治は無人駅で。誰もいない中、夜通し立ち話してたの。
横田:冬場とか、ガタガタ震えながら。ずっと外で。
浜中:雨降ってても、軒下みたいなところで。
入間川:…若い!
浜中:さっきの「俺、俳優になりたいから」も外だったからね。
横田:そうなんだよ。夜中に… 俺たちこの時都内で一人暮らししてたはずなんだけど、なぜか元加治に戻ってきてて。そこで言ったんだよな。「もう絶対にやめるよ」っていうのを伝えたくて、「俳優になりたいから」って言ったと思うんだよね。高校の時に「コントやるなら演技力も大事だ!」って演劇を始めて、俺がそれを真剣にやってた姿も浜中は見てるわけで。
浜中:俺、「やめるわ」って言われてどういう気持ちだったんだっけな…
横田:おお。
浜中:「やめるんだろうな」とは思ってたんだよな。
入間川:へえー。
浜中:だって、授業こなかったし。
入間川:(笑)
横田:いや、ひどかったよ本当に。あの時は授業行かずに何やってるかって言ったら、家賃2万5千円、風呂なしトイレ共同の四畳半で、実家から勝手に持ってきたサントリーのウイスキーを飲んで…
浜中:(笑)
横田:本当に何もしてなかった。自分に酔っていた。
入間川:…フフフフ…(笑)
浜中:今、俺は不機嫌になったよ。
横田:あははははは!(笑)
浜中:それから、2011年だから… 何歳? 25か26?
横田:うん。6、7年音信不通で。
浜中:いい別れ方じゃなかったという話。
一人になった浜中と、知られざる初期メンバー
横田:SYUPRO-DXの初期メンバーは、どういう人たちだったのかな?
入間川:浜さんと私が通ってた小、中学校の同級生で、卒業後それぞれの進路で活躍してた4人。システムに明るい人もいたし、まったく違う道にいってる人もいた。で、「ハマが面白いことやろうとしてるぜ」っていうのは、共通の知人であるバンドメンバー経由で俺は聞いてて。
浜中:そんな早くから聞いてたの?
入間川:うん。「ゲームとか作ってるらしいよ」「仲良かったヤツらとやってるらしいよ」っていうのをセットで聞いてた。
横田:そのへん詳しく知りたいな。同級生4人で始めたってところはなんとなく聞いたけど、そのへんをいつもダイジェストで話すから、急に3人いなくなってるんだよ。
浜中:……(笑)
横田:だから、「なんでひとりになってんの?」っていうところを…
浜中:…ゲームを作る前、試作のツール系アプリを作ってたんだけど。その時点で主に活動してたのが俺と、もう一人だけだったのよ。
横田:え! その時点でもう二人しかいなかったってこと!?
浜中:シンちゃんっていうんだけど。SYUPRO-DXのさ、4つの円が重なり合ってる初期のロゴあるじゃない。あれを作ったのが彼だから。
横田:そうなの!?
浜中:そう。そこから四角になったけど。
上が初期メンバー・シンちゃんが制作した旧ロゴ。下が浜中が制作した現在のロゴ。初期メンバーがもういないので旧ロゴをそのまま使うのは憚られたが、「全部なくすのも違う」と思い、旧ロゴにインスパイアされたフレーバーが残っている。
入間川:シンちゃんはなんか、アキバでITやってて…
浜中:そうそう。筋肉SEって言われてる。
横田:キャッチーな。(笑)
入間川:私と浜さんとで、最近も一緒にバスケした仲だね。
浜中:集まったメンバーというのも、もっと振り返ると、カードゲームを作ってた時のメンバーで。
横田:ああ! 昔、浜中が中学の時に作っていたという。オリジナルの…
浜中:その時に、よくイラストとかを描いてたメンバーを入れたっていうのがあって。
横田:そうだったのか…!
入間川:「SYUPRO-DXをつくろうぜ」って仲間を集めたのがハマで、当時のカードゲームの人たちをアサインしたってこと?
浜中:そう。カードゲームのルールを作ってた友達、カードのイラストを描いてた友達… 当時アナログゲームを作ってたメンバーが、オトナになってもう一回集まったらすごいものができるんじゃないかと思った。でも実際にSYUPRO-DXを動かしていくと、スケジュールとか仕事の関係で、うまく合わなかった部分もあって…
横田:その時、集団の名前は「SYUPRO」だったの? それとも「SYUPRO-DX」… デラックスまで入ってたの?
浜中:入ってた入ってた。というのも、デラックスっていうのは当時作ってたカードゲームが「暗黒DX」っていう名前だったから…
横田:ああー!!
浜中:そこから「デラックス」をとってるのよ。
横田:そうなんだ!? この「デラックス」はそういう意味だったんだ!!
当時浜中が作っていた手製のトレーディングカードゲーム「暗黒DX」。マジック・ザ・ギャザリングや遊戯王デュエルモンスターズに影響を受け、ルールを作る人、イラストを描く人など分業で制作。スターターパックやブースターパックまで用意し、校内で流通。まず開発メンバーで遊んでいるところを見せ、興味を持ってくれた友達に「やってみる?」と誘ってプレイ人口を増やしていったらしい。カードは厚紙に両面印刷で意外と手触りもよい。
浜中:「SYUPRO」は「週末プログラマー」からとってるんだけど。みんな社会人だったし、週末だけ集まってなんかしようぜっていう… 俺はそのつもりはなくて本気だったんだけど、まわりのモチベーション的に「週末だけやろうよ」みたいな…
入間川:それが、温度差ですよ。
浜中:………(笑)
横田:なるほどねえぇ…
浜中:で、試作のツール系アプリをいくつか作ってる時に主に動いてたのが、デザインを担当してくれたシンちゃんと、プログラムを作ってた俺なんだけど。
横田:ゲームを作る前の段階で、すでに二人しかいないのキツいな…
浜中:みんな本業が忙しかったんだよ。シンちゃん以外のひとりは看護師で、もうひとりは外資系ITだったんだけど、外資系ITの友達はそもそもやってる作業がシステムエンジニアというよりもうちょっと上の、上流工程をやる人だから。ITコンサルとか管理とか、そういうのに強い人だったのね。
入間川:あ、そうなんだ。
浜中:だから、実際に作っていくみたいな人ではないのよ。
横田:うん。
浜中:でもさ、小規模でやる上で、実際に手作業で動かす部分をやらないとなると。どうしても作業要員的に作業しない感じになってしまうじゃない。だから…
入間川:プロジェクトから自然に…
浜中:外れていってる。で、俺はその時点ですでに当時のメンバーに対して「何もないな」って思ってしまってた部分があって…
入間川:コミットがってこと?
浜中:集まって「面白いことやろうよ」って言ったんだけど、主にアイデアを出すのは俺だけだったし…
入間川:はああ、なるほど。
横田:それはキツいな。
入間川:「俺だけでいいじゃん」ってなったってこと?
浜中:…だったし、実際につくるのも俺だし、みたいな状況だったから…
横田:つれええ…
入間川:バンドのリーダーだ。
横田:あああ。ウェブサイトの更新をし、ライブの告知をし。
入間川:曲を作り、アレンジをし。
浜中:とはいえ、彼らは生活がさ…
横田:仕事とか。今の暮らしが。
浜中:そっちの方が全然メインだし、俺みたいにやさぐれてなかったから。それはそれでよかったと思うのよ。で、それで… そういう状態だったから…
入間川:当時って、浜さん仕事してたよね? マジな会社員だったでしょ?
浜中:そうだね。でも俺は… なんだろう… 本当は、俺の方こそ何もなかったんだよ。
入間川:「これで生きてくぜ」っていうアレがなかったってこと?
浜中:「そのまま続けてても…」っていう状態だったし…
入間川:その会社に未来が見えなかったって話? それとも業務的な話?
浜中:両方だね。
入間川:「これで一生食ってくぜ」みたいな感じも…
浜中:なかったし、やってる仕事も特にその…
入間川:プログラムでシステムつくる人でしょ?
浜中:つくる人というよりも、どちらかというと保守で、その中でも一番下の雑用みたいな… 誰でもできるような、どうでもいい仕事だったのよ。簡単に言ってしまうと。
入間川:俺にはできないと思うんだけど。業界の人の中では… っていうやつ?
浜中:そうかも。
入間川:徹夜してた頃でしょ? 会社に泊まって全裸になって、回転椅子で回ってた頃でしょ?
浜中:…全裸になって? 何か捏造してるよね?
入間川:(笑)
浜中:まあ、SYUPRO-DXの動き始めの頃、ゲームをつくるぞってなった頃にはもうすでに「このままじゃまずいな」と思って… 熱量自体も俺しかなかったから。その中でスピリチュアルな巡り合わせがあって。
入間川:ああ、例のやつですね。
浜中:mixiで一回、コメントを。
横田:俺の日記にコメントを残したんだよね。
当時流行していたmixiで、横田が「よりによって今年を締めくくる大晦日に浜中が出てくる夢を見た」と日記に書いたら、たまたま浜中が数年ぶりにログインした日と重なり、別に繋がってもいなかった横田の日記を閲覧し、コメントを残した。かなり本気で演劇をやっていた横田だが、浜中は夢の中で「お前なんかじゃプロにはなれねえよ」と言って去っていった。横田が日記に浜中のことを書いたのも、浜中が横田の日記を見たのもこの日だけ。二人はその後、再度音信不通。
「俳優になる」と言い残して去った横田と、「何もない」浜中の再会。コンビ再結成へ
浜中:まあ、その… 「あいつは今何してるんだろう」と。俺の方の視点ではね。
横田:いや俺もだよ。だって会ったのは夢だからね!(笑)
浜中:俺はさ、しがないサラリーマンをやって。その中でただ何かをしたいというところから入ったけど、あいつは「表現する」っていう世界の中でずっと勝負してきた人間だから、何か得られるものがあるだろうというところもあり。
入間川:まだリスペクトはあったんですね。
浜中:で、横田が出る舞台を観に行って、その場で「アプリつくらない?」って話を持ちかけたはずだから。
横田:そうだね。「久しぶり!」の流れでいきなりだよ。
浜中:何を観たのかすら覚えてないから、もう誘うことが前提だったのかもしれない。
入間川:我々にドライブが起こった時ですね!(笑)
浜中:でね、終演後に横田のところに行ったんだけど。
横田:怖かったー。
浜中:(笑)怖かったね。
横田:怖かったの?
浜中:なんだろう… 横田は「あ! いる!!」みたいな感じだったよね。「ああっ! あああ…!!」って指さされて、下手くそな三度見をされた。
横田:(笑)怖い怖い怖い。
入間川:それってステージ上からは見えなかったの?
横田:ステージ上は… 見えてない。小劇場は舞台と客席が近いんだけど、本番中は照明がガンガン当たってて、客席は真っ暗だからお客さんの顔はほとんどわからないのよ。
入間川:なるほど。
横田:見ようとすれば見えなくはないんだけど。まさか浜中がいるとは思ってないからね。
入間川:ああ。じゃあもう、外に出た時だ。
横田:そう。浜中と会ったのは舞台が終わって、客席からお客さんが帰り出してる時間帯で。外に出て「いる」ってわかった瞬間に「やばい! …やばい!!」って!!
浜中:あっはっはっはっは!(笑)
横田:その時やってたのは俺が90分近く舞台上に出ずっぱりのコメディで。お笑いは早々に諦めたけど、演劇という枠組の中で笑いをとることはすごく重要視してて。単純に面白かったかどうかも気になるし、そういうスタイルでやってることに対して浜中はどう思ったんだって気持ちもあった。俺は「俳優になる」って言って辞めた手前、なんて声をかけていいかもわからないんだよ。
入間川:たしかに。
浜中:その時に俺は自分の作った成果物… ちょっと面白い写真が撮れるカメラアプリを見せて、そのまま流れで「今度一緒に作んねえ?」みたいな。
横田:覚えてる。その場でだよね。
浜中:「飲みにいこうぜ」みたいなクッションもなくて、「作ろうぜ」って言った後に飲みに行く約束をしたんだよね。
横田:そうそう。作ることは前提だった。
入間川:「付き合おうぜ」って言った後にホテル行くよみたいな?
横田:うーん。例えとして正しいのかわからないけど。(笑)
入間川:でしょ?
浜中:うん。…うん?
入間川:正当よ。ピュアよ。
浜中:わりとね、すんなりOKしてくれたから。脈ありと思ったよね。
横田:俺はねえ、どれぐらいのテンションで頼んできてるのかがよくわかんなかった。
入間川:男女でいったら口説き方としては正攻法な方よ。おカタい方の口説き方だよね。
横田:ああ。
入間川:ちなみに聞きたいのは、制作の仕方に関して。Jさんがどこから参加して、どういうふうに関わってたのかっていうの、よく考えたら知らないなっていうのはあるんすよ。
横田:うん。
入間川:2004年から音信不通になり、再会が2011年じゃないですか。
横田:この時点で、前の3人とは「解散!」ってなったわけではないってことだよね。
入間川:自然消滅状態で今に至る?
浜中:そうだねえ。最初からあんまり活動にいなかったメンバーもいたし。
入間川:ああ…
浜中:なんか、普通にやめていったというか… その時は固定の作業場があったわけじゃないから、「週末集まろうぜ」って言ってもみんなの中間地点とか、どこかのお店で集まるしかなかったんだけど…
横田:集まろうぜって言ってた人間がそれを言わなくなったら、みんな来なくなったってことかな。
浜中:うん。シンちゃんは最後までやってくれたけど。
入間川:シンちゃんは、会ったら「最近シュウプロどう?」みたいなノリだもんね。
浜中:解散のときは「何もない」と思って離れ離れになってしまったけど、解散後しばらくしてから、シンちゃんが一人でLINEスタンプとか作ったりしてるって聞いて、俺はうれしくなったんだよ。「本当はデザイン系の仕事をしたい」って言っていたから。だから応援したいって気持ちがあった。
入間川:何かあったじゃん。SYUPRO-DXにはデザイナーいないぜ?
浜中:そうなんだよ。結局「何もない」と思ってしまったのは、当時26歳の俺自身の未熟さが原因で… 熱意を汲み取れなかっただけだったんだよ。他の元メンバーも、本業でのキャリアをちゃんと築いてるから、熱意を持って仕事をしていたのは間違いなくて、それに対して勝手に失望してしまったのは、やっぱり自分が未熟だったんだなぁと痛感させられる。
横田:にしても、デザイン系の仕事をしたい筋肉SE。会ったことないのに俺の中で好感度が…
入間川:上がってる?
横田:上がってるよ! 属性がカッコよすぎる!
筋肉SE・シンちゃんのツイッターはこちら。
イラスト、ロゴデザイン、LINEスタンプやグッズ制作までやるお方です。
shone @shone_shone
https://twitter.com/shone_shone
「土下座の人」と浜中の言葉選び。バカゲー開発に明け暮れたSYUPRO-DX創世期
浜中:まず前提として、「SYUPRO-DXがどういう思想でカジュアルゲームを作っていたか」というのを話したほうがいいかな?
横田:当時浜ちゃんは「バカゲーを作ろう」ってよく言ってたと思うんだけど。
浜中:そうだね。「カジュアルゲームを作ろう」って言ったことは、ほとんどないかも。
入間川:そのへん、何か意志が潜んでる気がしますね。
浜中:確かに初期の頃に作っていたのはカジュアルと言えばカジュアルなんだけど、カジュアルゲームなら何でもいいわけではなかったんだよ。
入間川:ほう。
浜中:当時ストアは黎明期で、流行ってたカジュアルゲームといえば「毛抜き」とか「瓦割り」とかシンプルなもので、それにもノウハウが詰まった良いものだと思うんだけど、SYUPROで作りたかったのは、カジュアルの中にストーリーや人物像が見えるもの… 背景があるカジュアルゲームだったんだよね。だから、設定的なものは練って作ってたし、状況設定を活かすためにゲーム性が変わることは結構あったよなって。
横田:ああ。あったあった。作り方が逆なんだよね。
浜中:まず設定から作る。そこにゲームが乗っかるみたいな。
入間川:なるほど。じゃあ「毛抜き」にしても、「こいつはなぜ毛を抜きたいのかな?」とか…
浜中:そうそう。そっち側から考えてた。
横田:たとえば… 女の子とデートに行きたいけど、眉毛が異常な速度で生えてくる体質で気づくと眉毛がつながっちゃって、「そんな両津勘吉みたいな男はイヤ!」ってフラれるから悩んでいる男がいてとか…
入間川:え。それ今考えたの? SYUPROっぽいな!(笑)
浜中:なんか笑っちゃうような設定とか状況でシンプルな操作を要求されるミニゲーム。そういうものを、俺は「バカゲー」って呼んでいたの。リリースしたアプリの中にはそれを無視して作ってしまったものもあるけど… その設定が基本にあるからこそ、その上で行われるおかしなゲームに笑いが生まれるという論理だったんだよね。それが根幹にあった。
浜中:『THE・土下座』は、うれしかったよね。ゲームデビュー作でたくさんの人に遊んでもらえて。
横田:作ったものがバズると「○○(作品名)の人」って呼ばれることが多いけど。「土下座の人」って呼ばれてたよね。
入間川:「土下座の人」って言われて、俺ですらわかったからね。「土下座の人ってハマかい」って。
浜中:俺ではなくて、横田サジェストで土下座っていう。(笑)
横田:(笑)タイトル画面に「CV:横田純」って書いてあったからだよ! 俺の名前を検索すると、候補に「横田純 土下座」って。ひどいっすよ。
入間川:『土下座』は完全にひとりで組み込んだの?
浜中:うん。まあ、他のもほぼひとりだけど。
横田:俺も初期のアプリはCVだし、なんだったら「どんなの作ろうか」っていう雑談をしていただけだから…
浜中:雑談っていうか、ちゃんと企画会議してたよ。場所が居酒屋だっただけで。
横田:え、でも… 『土下座』のアプリを作るってもう決まってたよね?
浜中:ええとね、ゲームは決まってなくて、横田の養成所時代の土下座のエピソードがあるから「そういうアプリつくらない?」っていうので。
横田:あああ。そうだったかも。「お前には声をあててもらう」みたいな。
浜中:『土下座』は、そうね。
浜中:二本目の『お前とお前は帰ってよし!』は…
横田:板尾創路だね。
浜中:うん。
入間川:あ、そうなんだ。
横田:ええっとね、『チョキ』っていう曲の歌詞だね。
入間川:へえー。
横田:シンガー板尾っていう… 昔の歌番組風のセットで板尾さんが前に出されて。「じゃあ、今日も創路に歌ってもらおうかな!」って、曲のタイトルだけ言われるの。「板尾創路で… チョキ!」っていうフリだけで、アドリブで歌い出すっていうコントなんだけど。
入間川:おおー。(笑)
横田:曲とはいうけど、全部アカペラなんだよ。メロディがあるんだかないんだかわからないようなセリフを何個か続けて言って… 最後に「お前とお前は帰ってよし!」で終わる。それがすごく印象に残ってて、タイトルはそこからきてるんです。
浜中:(笑)
横田:立ち話で作ってたんだよ。『お前とお前は帰ってよし!』は。
入間川:立ち話!? 例の駅前での。若いやつだ。
横田:そう。「あれ面白かったよなあ」とか「俺はこれが好きなんだよ」とか、そういうところから話を広げていって… 「じゃあ、こういうのは?」って。
入間川:へええ。
横田:だから、『今すぐ装備していくかい?』とかもそうなんだけど、俺と浜中が共通認識として持ってた心に残ってるフレーズから着想を得て、そこから膨らませていく… みたいな作り方をするのが、初期のアプリには多かったね。
浜中:そうだね。
入間川:いつだったか… どこかのレビューサイトが書いてくれてたんだけど、SYUPRO-DXを検索してヒットした記事の中に「ベタとメタの妙」って書いてあって。
横田:へええ。
入間川:そういうキャッチコピー。いいよね。「ベタとメタの妙」。
横田:ベタとメタか… 結構納得するフレーズだね。
入間川:それは俺も思う。「よく言ったもんだなぁ」と。二人は出してくるじゃん、そういう雰囲気。既にある、ゲームの外側のものを指してるんだろうなって。
横田:初期のアプリの言葉選び。これはね、浜中のセンスなんですよ。
入間川:ほう。
浜中:そういえば、『パイルドライバー』のテキストとかも俺が考えてたね。
横田:「おれはもうパイルドライバーじゃない」。あの頃、俺はまさか自分がシナリオを書くとは思っていないし、ゲームの中身もさわってないから、テキスト部分も浜中が作ってたんだけど、やっぱりおもしろいんだよなあ。
入間川:その頃JさんはCVだもんね。送られてきた音声ファイルに「パイルパイルパイル!」ってハシャぐJさんの声が入ってた。(笑)
浜中:音声チェックは地獄の時間なんだよな。(笑)やたら長尺な上に、オーダーしてないボイスとか入ってるし。
横田:だって、iPhoneのマイクで一人で録ってるんだもん。正解がわかんないんだよ!(笑)
入間川:え? あの絶叫をセルフで?
横田:そう。
浜中:たしか『土下座』のボイス録音の時、マジで土下座をしたっていう話が…
横田:したよ! 当時住んでた自分の部屋で録音してたんだけど… 「申し訳ございませーん!」っていう全力の土下座だから、どうしても声を張らなきゃいけなくて。少しでも近隣への被害を減らそうと、厚い布団をかぶって… 腹ばいになりながら…
浜中:(笑)
横田:しかも、録った直後に「もっとこうして」って言ってもらえるならまだしも、録った音声をメールで送ってフィードバックを待つ時間が発生するから。もう一度録り直すのはかなりシンドイし、一撃で決めてやろうと思うと、必然的に録音時間も伸び…
浜中:不純物ばかりだから、結局「もっとこうして」が発生するんだけどね。(笑)
横田:「申し訳ございませーん!」「もう腹を切りますゥ〜!」って。思いつく限りのパターンを延々叫んでるから、結局ご近所の人が「何があったんですか?」って。
入間川:(笑)
浜中:もう腹を切るべきだったね。
横田:本当にね。ちゃんとした環境で録音したかったよ!
浜中:しかも横田の声は、ノイズ除去すると声まで全部消えるんだよ。
横田:(笑)だからそれも録音環境のせいだって!
出だしは上々。そして迷走が始まる…
浜中:問題はここからですよ。
横田:『土下座』でドーンっていって、2つ3つ続けて出して… でも、4つめの『今すぐ装備していくかい?』とか、5つめの『彼はパイルドライバー』でもう落ち着いてきてたよね。
浜中:『土下座』から『彼パイ』まで7ヶ月。ここから先は… 迷走だったなぁ。
入間川:迷走。
浜中:実は、俺の中で『彼パイショック』っていうものがあって…
横田:何それ!? 知らないんだけど!?(笑)
浜中:俺は『彼パイ』にはすごく自信があって、ゲームは当時あまりなかった加速度センサーを使ったもので、そこそこ面白く出来たし、何よりSYUPROの世界観が限りなく詰まってるものだと思っていたんだけど、いざリリースしてみたら思ったよりふるわなくて… これがダメなら、「自分たちの世界観がもう通用しなくなったのでは?」って思ったんだよね。
横田:マジかよ。全然そんなこと言ってなかったのに。
浜中:今にして思えば、売れない理由もわからないでもないんだけどね。(笑) 題材も人を選ぶものだし、理由は色々あると思うけど。俺は『彼パイ』の時点で一度、金銭面ではなく表現媒体として「作れなくなっちゃうのかな…?」と思ったんだ。当時はそう思ってた。
横田:俺が感じてたのは「あれ? 前に出したヤツより反応がないな」っていう漠然とした印象だったから、「じゃあ次こんなのはどうだろう?」ってどんどんアイデアを出していったんだよ。
浜中:前と同じことやるのも避けてたから、毎回別の切り口でゲームを作ってたよね。
横田:で、彼パイショックから始まる迷走一発目が『回るインテリ』。
浜中:これ、リリースまでの期間が『彼パイ』から結構あいてると思うんだけど、それはちょっと考えが行き詰まってた部分もあって。そんな時に横田の方から「アプリ作りたいんだけど」っていう話があったと思うんだよね… それでもう一度作ることにしたわけだけど、そこで方向性を変えようとして、今まで大事にしてきた世界観とかが取っ払われた『回るインテリ』が爆誕してしまったのかもしれない。
入間川:どんなゲームなんだっけ?
『回るインテリ』プレイ画面。当時ストアに掲載されていたスクリーンショットをそのまま掲載。
横田:1から9まで表示された数字のパネルが二組あって、上のパネルで指定された数字を下のパネルで制限時間内にポンポン押していくんだけど、パネルは二組とも上下左右に回ったり反転するから、数字を押すのがだんだん難しくなるっていうゲーム。
入間川:なるほど。これ目の前で身振り手振りで説明してもらったらわかるけど、画像と文章だけだとどんなゲームなのかイメージが…
浜中:まさに問題はそこで。回るのがコンセプトのゲームなのに、スクショだと回らなくて何が何やらわからない。動画だったらもうちょっと伝わったような気がする。
横田:ゲーム自体もちょっと難しかったんだよね。スコアの桁数が異常に多いのに、最終スコアはよくて三桁ぐらいだったんじゃないかな。
浜中:普段ゲームをしない層には、ゲームそのものの受けは一番良かったんだけど… レベルデザインとプロモーションの仕方。そこが反省点。見た目も… ちょっと背伸びしてオシャレしました感が出ちゃってるよね。(笑)
横田:『モールス』に関しては、モールス信号を打つ側のセリフは俺が考えたかもね。モールス信号で彼は何を伝えてるのかっていう、メッセージの内容。
浜中:ああ! そうだね。
横田:でも、ゲームスタート直前に表示される「僕の気持ちを聞いてください!」っていう「READY?」みたいなテキストとか、1プレイ終了後のリザルト画面で表示される彼女側からの返答のセリフとかは浜ちゃんだった気がするな。
浜中:うん。
横田:それまでは、特別な事情がなければゲーム内に出てくるテキストメッセージは全部浜ちゃんが作ってたんだけど。試行錯誤の流れでCVだけだった俺の制作範囲がだんだん広がっていったんじゃないかなぁ。
入間川:『観覧車キッス』は?
横田:あれは… 浜ちゃんがひとりで作ってて、知らない間にできてた。
浜中:暴走だよね。
横田:(笑)
浜中:なくしたい過去だね。触れないで、それは。
入間川:(笑)どのぐらいでできたの? 期間。
浜中:開発自体は一週間かかってないと思うけど…
入間川:何かきっかけあったの? 作ろうと思ったきっかけ。
浜中:単純に、カジュアルゲームが流行ってたから…
横田:この時は特に焦り出してた時で、数を打ちたかったっていうのもあったね。
浜中:そうだね。その焦りが俺の暴走を生んだ…
横田:(笑)でも、わかる。俺もこのへんで初めて「ああ、もうゲーム作れなくなっちゃうのかな」って思ったもん。マジで全然ダウンロードしてもらえなかったからね。
「これで終わりかも」からの逆転。『ドブネズミ』『四天王』『彼女は最後にそう言った』
横田:しかし、そこから蘇った。『ドブネズミ』で。
浜中:うん。
横田:マジで「これで終わりかも」って思ってたからね! で、「どうせ作れなくなるんなら作りたいもの作ろう」って、RPGを作ることにした。
浜中:そもそもRPGを作ってなかった理由として、操作性の問題もあったよね。
入間川:操作性?
横田:俺たちが子供の頃からやってきたドット絵とポリゴンのRPG… フィールドを探索してダンジョンに潜って戦闘をしてボスを倒してっていう、肌になじむ一連の流れは「スマホでは遊びづらいだろうな」と。
浜中:コントローラーありきで設計されているゲームをそのままスマホに落とし込んでも、スマホに最適化されている操作じゃないからね。特にフィールドなんかの移動方法は難題だった。
横田:そういうものを求めてる人ほど「やりづらいな」って感じるだろうって思ったんだよ。スマホの画面にコントローラーを表示する仮想ゲームパッドは、ゲーム機のコントローラーが手になじんでる人には違和感があるし。
浜中:スタイルとしては家庭用ゲーム機に近い本格派RPGを作りたいとは思ってたんだけど、2013年頃ってまだまだ仮想ゲームパッドが主流だったし、みなさん手探りだったと思う。だから『ドブネズミ』は、思い切ってフィールド移動を無しにして戦闘だけのRPGにしたんだよね。しかもそれがシナリオ設定とも合っていた。
入間川:なるほど。
横田:操作性と… あと、「エンディングがあること」は絶対譲れないポイントだった。
入間川:そこは大事だな。
横田:エンディングなしでずっと遊べた方がいいこともあるんだよ。プレイヤーがずっと好きな世界に浸っていられるとか… 開発側からすると収益が出しやすいだとか… スマホは常に触っていられるから、エンディングのないゲームは親和性が高い。でも、エンディングってやっぱり美しいじゃないですか。子供の頃に自力で見たエンディング画面ってやっぱり心に残ってるし、そういう気持ちを味わえるものを作りたかったから、ひとつの物語としてちゃんと完結させて、エンディングで達成感を味わってほしいなって。
入間川:浜さんも同じ感覚?
浜中:そこはあんまり話し合った覚えはないけど、「そういうものだよな」とは当時思っていたかもしれない。
入間川:価値観が一緒だったんだ。
横田:あれだけ迷走した末に出した『ドブネズミ』は、初期の時から大事にしてた「まず設定から作る」って思想も自然に踏襲してるしね。
浜中:「酒場で仲間を集める勇者が人付き合い苦手だったら?」だもんね。
横田:一言で言えば「コミュ障」なんだけど、これをわざわざ「人付き合いが苦手」っていう言葉にしてたりとかね。
入間川:言われてみれば。「コミュ障」はゲーム内では見た覚えないかも。
横田:意図的に避けてる言葉はあるよ。むちゃくちゃある。言葉はゲームの印象を左右するから、ほぼ同じ意味だけど読み心地が違う言葉に変えたりとか。これは『ドブネズミ』に限らず、今まで作ったゲーム全部そうだね。
浜中:で、操作性の問題になんとかケリをつけてガッツリRPG開発に踏み切った『奴は四天王の中で最も金持ち』。
横田:スマホ縦持ちで、タップしたところに移動するっていうシステムね。誰かに話しかけるのも、どこか調べるのも、とにかく行きたい場所を押せばいい。
浜中:だけど実は、操作のストレスを無くすのに重要なのは、「移動の速さ」と「画面が主人公を中心に追尾しない」ことだって分かったんだよね。コントローラと違ってタップしたらプレイヤーが操作せずに待機する時間があるから、移動は単純に速いほうが良い。追尾しないっていうのは、高速で動いている主人公を画面が追っていくと、調べたいものとかも画面上で動いてしまっているので、狙ってタップしづらいんだよね。
入間川:そういえば、SYUPRO-DX製の主人公はどんどん爆速になってるよね。(笑)
浜中:うん。(笑) 最初はやりすぎ感あるかなと思ったけど、一度速いのに慣れるともう遅いのがまどろっこしく感じてしまって。
入間川:レビューの評価めっちゃいいな!
横田:すごいんだよ! 『四天王』!
入間川:ありがたいですね。
浜中:ただボリュームがたっぷりあったから、開発する期間が伸びて、ここでもう一回「資金がまずい」って状態になるんだけど…
横田:『四天王』はこれでもかってくらい作り込んだけど、やろうか迷ってやらなかったこともあったよね。たとえば、「上ガチャに特殊効果をつけるかどうか」。
浜中:そうそう。
横田:『四天王』のワザガチャには中身っていう概念はなくて、フィーチャーしてるのはカプセルの方。「上ガチャと下ガチャを合わせて1つのワザを作る」っていう仕様なんだけど、これで一番やりたかったのは「二つの言葉を合わせて面白いワザを作る」っていう部分なのよ。
入間川:そうか。ここでも言葉推しだったんだ。
『四天王』のワザガチャ装備画面。上ガチャでワザの「属性」を決め、下ガチャで攻撃・回復・補助などの「効果と威力」を決める。ガチャを変えるとワザの説明文も変わる。装備画面として考えた場合、本来ならこの画面上に説明文は必要なく、そのスペースを使ってスクロール部分などを増やしたほうが視認性は上がるが、どうしても説明文を表示したくて入れ込んだ。
浜中:上ガチャにも下ガチャにも個別でレア度が設定されてるんだけど、上ガチャで決まるのはワザの属性だけだったから、いざバトルになったら「★1でも★8でも一緒だよね?」って。
入間川:たしかに。
横田:レア度が高くなるにつれて、必殺感満載のカッコよさげな言葉になっていくんだけど… 上ガチャにいくらカッコいい言葉がついてても、ワザの効果は下ガチャで決まっちゃうんだよ! ゲーム内でもスレたモブキャラが「上ガチャのレア度って本当に意味ないよな」って言ってるぐらい。
浜中:だから、レア度が高い上ガチャにはワザの効果を底上げするような… 「ワザの威力10%アップ」とか、そういう追加効果をつけなくていいのかな? って言ってたんだよね。
横田:でも、結局つけなかったんだよ。追加効果をつけてしまうと、プレイヤーは「いい追加効果がついてる装備」をつけるようになる。俺が遊んでても絶対そうするし、そうしてもよかったとは思うんだけど… 当初一番やりたかった二つの言葉を組み合わせて面白いワザを作る遊びが自由にできなくなってしまうし、なにより『四天王』は「上ガチャはその人を表す個性」っていう世界観だったから。「個性に優劣はない」っていう。その一点突破。
浜中:「上にも下にも効果がついてたら分かりづらくなるかな?」とかもあったしね。何しろ上と下、合わせて2000個あったから。
横田:やりたいことはできたからよかった。けど、これがRPGであるってことを考えた時に… やっぱり、追加効果はついてた方がうれしい!(笑)
浜中:(笑)それはね。せっかくレアなものを持ってるなら、バトルにも反映された方がうれしいよね。
横田:次にRPG作る時はそうしよう。いい装備品には、いい追加効果を!
横田:で、『彼女は最後にそう言った』につながっていくわけです。
入間川:『彼女は』については前の記事でいっぱい話したね。
バンドマン・入間川の正式加入はいつだったのか?
横田:しかし、こうして歴代のアプリを見ると、失敗して蘇り、失敗して蘇りをくり返してるね。
浜中:でも… 『彼女は』がヒットしてくれてよかったよ。マガワさんが参加してくれてから、だんだん見通しが悪くなってきてたから。初期の『土下座』『お前とお前』あたりって、もう調子に乗りまくってた時期じゃない。
横田:うんうん。
浜中:スマホアプリも黎明期でどんどん伸びて。で、マガワさんが『今すぐ装備していくかい?』ぐらいから入ってくれたんだけど、なんか音楽入ったけどいまいちハネないよなぁっていうのが続いた中で、『ドブネズミ』でようやくちょっとヒットして、『彼女は』で…
入間川:よく「アイツ(入間川)のせいだな」ってならなかったよね。
浜中:それはならないでしょ。(笑)
入間川:(笑)「今までうまくいってたけどアイツ入れてから芳しくないな」って。
横田:でも、『お前とお前』から『観覧車キッス』まで、1年しかないんだよ。ヤバくない?
浜中:えっ。1年しかないんだ?
横田:そう。『お前とお前は帰ってよし!』が2012年3月5日に出て、『観覧車キッス』が2013年2月8日。1年経ってないよ。濃い1年だよ。
浜中:まだ20代ですよ。
横田:この頃はそうだね。
浜中:マガワさん的にどうだったのかわからないけど、よく付き合ってくれてたよなぁって。
入間川:SYUPRO-DXはね、金払いがよかったから。
浜中:…そこ?
入間川:金払いはでかかったね。まず、俺は結構タダで曲を書いて回ってたのよ。
浜中:タダで?
入間川:2012年ぐらいに、バンドにプロデューサー的なオトナがついてたんだけど。その時に「俺なんでもできますから」っつって。誰かが書いた歌詞だけもらって曲をつけたりとか、あとはこういうテーマで曲を書いてよみたいなお題をもらって作ったり、コンペにも出したりして。
浜中:うん。
入間川:その中で、バンドでやってるような歌ものの曲を、なぜかリテイクされたりして。金ももらってないのに。
浜中:(笑)やりがい搾取だわ。
入間川:で、いろいろ依頼を受けていたうちのひとつがSYUPRO-DXなんだよ。
浜中:おお。
入間川:「曲作れるっていうのは特殊技能だ」っていうのを当時から思ってて、「頼み事は受けられるんだな」って。その中で一番金払いがよかったのはSYUPRO-DX。
横田:へええー!
入間川:しかも理不尽なリジェクトがないし。なんならゲームのBGMは俺にとって正解がないから。逆にリテイク出されてたらテンパってたかもしれない。
浜中:そうなんだ。
入間川:チップチューンの音色に対して「これじゃないんだよねこのピコピコは」とか言われてたら、「どのピコピコ?」って。(笑)
横田:あああ、なるかもね。(笑)
入間川:当時の俺は「どんな感じなんすか?」ってめっちゃ聞いてたのよ。「俺はどれを聴けば正解にたどり着けるんですか?」っていうのを結構やってた時期だと思う。
横田:バンドのプロデューサーとタイマンで。
浜中:じゃあSYUPRO-DXとは巡り合わせがよかったんだ。
入間川:タイミング?
浜中:ああー。
入間川:あと、2009年から2011年ぐらいまでは、俺はゲーム会社に自作の曲を応募してたから。で、お祈りされ続けてた時期だから。
浜中:(笑)
入間川:「基本的に自分の曲は却下されるもんだ」と思ってたんだけど、通るのがSYUPRO-DXだったのよ。
浜中:あっはっはっはっは!(笑)
入間川:他ではリテイクの嵐なのに、SYUPRO-DXでは通ってお金が出る。で、作り続けて、あの時ぐらいのリテイクもいまだにない。
浜中:SYUPRO-DXとしては、ラッキーだったわ。
横田:たしかに。他に金払いのいいところがあったら、取られてた可能性ある。
浜中:うん。
入間川:浜さんがゲーム作ってることを初めて聞いたのは、バンドメンバーからだってさっき言ったけど。「ケータイとかのアプリっぽいんだよね」って聞いて、俺は「ほーう…」って。
横田:うんうんうん。
入間川:その時俺はガラケーを使ってて。アプリを作ってるということのよくわかんなさ、あった時代だよね。
横田:たしかに10年前の時点で「アプリ作ろうぜ」って言われて、アプリ作るって何すればいいんだろうって思った気がする。
入間川:俺は「よくわかんないけど曲使ってもらえるならOK!」みたいな。
浜中:マガワさんを誘ったのは…
入間川:下北沢のモザイク(ライブハウス)に来てくれたよね。スーツで。
横田:スーツで!? 目立ちそうだな!
入間川:目立つ。現に裏でちょっとした話題になってた。ライブハウスにスーツで来るのはレコード会社とかプロダクションとか、バンドに付くオトナ的な人もいてさ。だから「あれ誰の知り合い?」って。
浜中:知らなかった。今さら知って恥ずかしいよ! まぁスカウトには間違いないけどさ。会社帰りだからスーツだっただけです。(笑)
入間川:で、誘ってくれたわけですよ。
浜中:加入したタイミング… 実は『お前とお前』ぐらいなんだよね。
入間川:…あ! そうだね。やったね俺。
横田:やったって?
浜中:『お前とお前は帰ってよし!』にBGMをつけるかどうかみたいな話。もうすでにリリースされてたんだけど、そこにBGMをつけるかっていう話で一回相談したことがあって。
横田:あ! そうなんだ!
浜中:それのBGM、作ってもらったんだけど。結局採用はせずに次の『今すぐ装備していくかい?』で初めて曲を採用したっていう。
横田:そうか。そういう感じなんだ。
入間川:その後バイトも含めていろいろ仕事をしてきたけども、ちゃんと事前に金を払ってくれたのは浜さんだけ。
浜中:…マジで?
入間川:まず前払いがあるのは浜さんだけで、よく「末締め翌末払い」みたいのがあるじゃん。
浜中:うん。
入間川:そういうのがあるし、別のとこではそのまま払ってくれないこともあったし。
横田:あるよねえ…
入間川:SYUPRO-DXは金払いがいいよ。
横田:俺もね、最初そういう感じで掴まれてるんだよ。『土下座』の報酬をくれるっていうから「5000円くらいかな?」と思ってたら、当時のバイトの月給ぐらいの金額をくれて… 金払いはいい方がいいね。
「1000万で51%くれ」。会社でもなかったSYUPRO-DXに来たあるオトナからのオファー
横田:「作ったものがバズると知らないオトナからたくさん連絡が来る」っていう状況、オファーが来た時の対応ってかなり困るし難しいところだと思うんだけど、株を51%渡さなくてよかったと思う。
浜中:(笑)あったなあ!!
横田:2013年。『ドブネズミ』がバズった時にね。
入間川:なんか聞いたことあるな。ホテルの一室で…
横田:そう。
入間川:「え! あの会社?」ぐらいの… Jさんと浜さんが名前を知ってる、あるIT企業の社長にお呼び出しを受けたんだよね。
横田:二人でスーツ着て行って。「部下は反対しているけど私は欲しい」みたいな。その社長が、当時法人化してなかったSYUPRO-DXに対して「1000万で51%くれ」って。
浜中:そうだね。
※「1000万で51%くれ」=会社の株を51%持っていると、その会社の経営権を握れます。仮にこの時SYUPRO-DXが株式会社化して浜中が代表取締役になったとしても、51%持ってる社長は浜中に指示して自分の意思どおりに議案を通せる。49%では会社を自由に動かせない。天と地ほどの差がある。
横田:俺はその時バイトして演劇をやって、なんとか食いつないでいるような状態で。SYUPRO-DXが株式会社になるなんてビジョンは全然見えてなかったから、「会社になるの? すごいじゃん!」って。勝負しちゃおうぜって、よくわかってないのに言ってた。
浜中:うん。
横田:でも浜中は「これは断る」って。会社化するかどうかも、ずっと帰りの電車の中で話してて… 1000万だよ? 1000万なんて一発で稼いだことないから俺にとっては天文学的数字だった。『ドブネズミ』のヒットで、これを作った我々に対して1000万出すって言ってくれる人が現れた。これで会社にもなる。「何が不満なの? 浜ちゃん!」って。
浜中:(笑)
横田:でも、俺は間違っていたんだよ。目先の利益しか考えてなかった。
浜中:(笑)まあ、あれはねえ… 断ってよかったと思うよ。
横田:よかったよ。
浜中:あの社長さんは、シナリオに対するリスペクトなかったもんね。
横田:うーん… 俺はそのへん全然汲み取れてなかったけど。自分で作りたそうな人ではあったね。
浜中:うん。
横田:俺はあの時「俺たちを評価して声かけてくれたんだから、ある程度こっちの自由にやらせてくれるでしょ」ってなんとなく思い込んでたんだよ。51%の重みなんてそこまで考えてなかった。だからマジで危なかったし、あれやってたらもう… 今頃言いなりだったでしょ。会社が続いたかどうかもわからない。
浜中:そうだね。
横田:英断だったと思う。浜中のお断り。「長いものには巻かれろ」という言葉があるけど… 今まで俺たち、巻かれたら大概うまくいってない。
浜中:なんにせよ、権威に弱かったよね。
横田:そのまとめ方はグサっとくるねえ。その通りだ。
3人で作り続ける。今までとこれから
横田:俺、SYUPRO-DXが初期と変わるところはすごい聞きたかったんだよ。だって、結成時とメンバーがまるごと変わってるのに、名前は継続してるわけじゃん。テセウスの船。
浜中:いや、俺は残ってるよ!(笑)
※テセウスの船=パラドックスのひとつ。ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは同じものだと言えるのかという問題。壊れた船の部品を新しい部品と交換していって、全部の部品が入れ替わったら、これは前と同じ船と言えるのか?
横田:だから、浜ちゃんだけが一緒だから、「SYUPRO-DXっていう名前にむちゃくちゃ思い入れあるんだろうなぁ」って思ってたんだよ。ちゃんと言ってくれなかったじゃない、由来のことを。暗黒DXのこと初めて聞いたし。
入間川:たしかに!
横田:そう。「そのデラックスだったのかよ!?」って。
浜中:別にさ、思い入れがあるわけじゃないっていうのは… 一回、集団名を「ブキボーグ」っていう名前にしようかって話をした時にさ…
横田:(笑)
浜中:そのことからも、わかると思うんだけど。
横田:なんか一回、「会社名変えようか」って。案をいっぱい出したことがあったんだけど、結局SYUPRO-DXのままにしたんだよね。
浜中:いろいろ出したね。「ギガパゴスにしようか」とか。
横田:言ったなあ!(笑)『奴は四天王の中で最も金持ち』に出てくる企業名。俺は結構気に入ってたんだけど。
浜中:…この時はね。初期のメンバーがいなくなって、2011年に横田を誘って。SYUPRO-DXは横田と共に歩んできたものだと思ってたから… ちょうど良い機会だし、俺たちで一緒に考えようぜって思ってたんだよ。
横田:え!
浜中:言わなかったけど。
横田:言えよ!! 「横田と共に歩んできた」って… そんな重要な!!
浜中:マガワさんは正式加入前だしね。
横田:「俳優になるわ」って一方的に辞めた男に対して、情が厚すぎやしません…?
入間川:そういう男ですよ。浜さんは。
浜中:で、SEOとか含めいろいろ考えた結果、横田が「なんだかんだ俺もSYUPRO-DXって名前に思い入れができてるよ」って言ってくれたから、横田がそう言うなら、じゃあSYUPRO-DXで続けようって事になったんだよ。俺の視点では。
横田:…で、例によって俺は自分が言ったことを覚えてないんだよ。
入間川:(笑)
横田:たぶんねえ… これを覚えてないってことは「俺にとって自然なことだ」ってその時すでに思ってたからなんだよ。何か告白する時とか、一大決心で言ったんなら緊張なり葛藤なりがあって、覚えてたりするものなのかもしれないけど。当たり前のこととして、本音を自然に言ったからまったく覚えてない。現に「シュウプロデラックスの横田です」って名乗るのはしっくりきてるし、変えなくてよかったよ。よく「SYU-PRO」とか、「SHUPRO」って間違われちゃうのだけが気になるけど。(笑)
浜中:俺もたまに書き損じるよ。(笑)
横田:ええ!? 浜ちゃんは書いてくれよ!
浜中:ペンで早く書こうとするとPROあたりがなんかごちゃごちゃってなるんだよね。SYUPRO-DX。
横田:…にしても、デラックスがデジタルトランスフォーメーションじゃなかったことにビックリしたわ!
入間川:ね。知らないことたくさんあるな。
浜中:今まで言ってこなかったからね。今後もアプリを作り続けていくし… SteamやニンテンドーeShopにも「SYUPRO-DX」のゲームを並べたいよね。
横田:あと、ローカライズして海外にも出したい!!
入間川:世界展開だ! やっちゃいましょう!!
お読みいただきありがとうございました!
SYUPRO-DXはただいま新作開発中です。
今後ともよろしくお願いいたします!
SYUPRO-DX HISTORY 2011-2021
記事に登場したSYUPRO-DXの10年をまとめたスライド。
記事では未登場だったページも含め、成功、失敗、当時の状況、10年のアップダウンがリリース順に追えます!
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