言語のお話
あっという間に金木犀の香りが過ぎ去り、今度は銀杏の香りがしてきました。
秋が深まってきましたね。大好きな季節です。
言語のお話をしたいと思います。
20代の頃、パティシエとして働くためヨーロッパのベルギーへ渡りました。
オランダ、フランス、ドイツに隣接したこの国の言語は、オランダ語、フランス語、ドイツ語が主に話されています。
島国の日本ではちょっと想像しにくいですが…。
パティシエとして働き始めた時から、レシピや道具の名前はフランス語を使っていたし、ベルギーへ渡る数年前からフランス語の個人レッスンも続けていたので、ある程度理解はしているつもりでした。
でも当時、海外すら行ったことがなかった僕は、ネイティブなフランス語が聞き取れるはずもなく、パリのシャルル・ド・ゴールに到着した瞬間、頭が真っ白になりました。とほほ…。
しかも僕が住むベルギーのゲントという街は、オランダ語圏。フランダース地方なので、正確にはフラマン語と呼びます。厨房で飛び交う言葉も、レシピも全部フラマン語。もうまったく分かりません。
でもここからがベルギー人の凄いところ。
普段はフラマン語を話していても、僕と話す時は流暢なフランス語で話してくれるんです。
フランス語もフラマン語も分からないお客様が来た時は、すぐに英語で話す。
頭の中どうなってるんだ⁈
これは一部の言葉が得意な人たちではなく、子供もお年寄りも、ちょっとヤンチャそうな兄ちゃんも。みんな普通に3か国語は話せるんです。
電車のアナウンスも面白い。
フランダース地方ではフラマン語。
首都のブリュッセルに近づくと、フラマン語とフランス語。
ブリュッセルではフラマン語とフランス語と英語。
ブリュッセルから離れてワロン地方になると徐々にフランス語だけになる。
もちろん駅の表記もです。
スーパーで売ってるお菓子やお肉、ビールも3か国語以上の表記。
こんなエピソードもあります。
ベルギーで働き始めて半年ほどが経ち、そこそこ不自由なく日常会話ができていた頃。
小学校低学年の子供たち20人くらいを、店の厨房に招待して、ベルギーの郷土菓子「スペキュロース」をシェフと一緒に作る体験学習がありました。
僕はシェフのお手伝い。
僕が1人の男の子に話しかけていたところ、
小さなかわいい女の子が僕に向かって、
「この子はあまりフランス語が得意じゃないから、私が伝えてあげるね!」
って。
「えっ…⁈」
もちろん普段はフラマン語を話している子供たちです。
僕のフランス語は大丈夫なのか?
急に緊張してきた。
その女の子から授業の最後にとどめの一言。
「今日は私たちのために、素晴らしい体験をさせてくれてありがとう!あなたのフランス語もなかなか上手だったわよ。」
撃沈…。
でもこの一言でなんだか吹っ切れた感じです。
来たばかりの僕が、フランス語に苦労するのは当たり前。恥ずかしがってないで、間違えてもいいからどんどん話していこうって思えました。
それから1年後…
ベルギーのお隣、ルクセンブルクのパティスリーで働いていた時。
そこはスタッフの9割がフランス人なので、ベルギー人のフランス語よりも早口で、ついていくのが大変でした。それでもフランス語にも慣れていたので、そこそこ自信はあったんですが…。
「シロップちょうだい」
という僕に対して返ってきたのはボールペン…。
シロップ=sirop(シロ)と
ボールペン=stylo(スティロ)
えー、まだこのレベルかい!俺…
正直へこんだ。
でも、フランス語は苦手だけど、世界一難しいとされている日本語を俺は自由に話せるんだ!
というアホみたいな自信でヨーロッパ生活を乗り切ったあの頃。
懐かしい。