沖縄の小麦「島麦かなさん」
昨年、「ジャムの旅」で沖縄を訪れた際、沖縄産の小麦粉が売っているのを目にして驚いた。
小麦粉という素材はパティシエにとって、日々触れるものであり、あまりにも身近過ぎてあまり深く考えてこなかった。
若い頃から現場では一般的に流通している「バイオレット」と呼ばれる業務用薄力粉をメインで使ってきた。
パン職人がよく言う「粉の味がしっかり出ている」的な言葉も正直ピンとこない…。
ならば麦畑に行って実際に小麦の生産現場を見せてもらおう、と思い今年4月に沖縄へ向かった。ちょうど収穫時期だった。
旬の果物だけでなく、小麦粉や砂糖など、お菓子作りに必要な素材もやはりもっと知りたいと思っているからね。
もちろんその生産者や土地のことも。
沖縄で知り合いになったパン職人の方に、小麦の生産現場を見てみたいと以前からお願いしていたところ、幸運にも沖縄小麦生産組合の方を紹介していただけた!
沖縄そば専門店「金月そば」(キンチチと読みます)のオーナー、
金城太生郎さん。
そば屋さん?小麦なのに?
一般的なそばはそば粉を使って作られるが、「沖縄そば」は小麦粉を使った太麺なんだよね。うどんに近いかな。
とにかく恩納村にあるお店に伺って、金城さんが作る美味しい沖縄そばを堪能しよう。
店の片隅には小型の製粉機があって、金城さんが手作業で製粉している。
この手作業が大変なのだ。
まずはふるいを使って雑草の種や傷んだ小麦を取り除く。
その後製粉機にかけて、さらにふるって全粒粉と白い粉に分ける。
言葉以上に作業は重労働だ。
僕は全粒粉の風味が好きだ。
もちろん栄養分も高いけど、プチプチした食感や洗練され過ぎていない、いい意味での粗っぽさが好みなんだ。
その小麦粉から生まれた「沖縄そば」
めちゃくちゃ旨いじゃないか!
スープが絡んだもちもちの太麺からはしっかりとした小麦の味が感じられる。
「島麦かなさん」とは。
沖縄県麦生産組合が立ち上げた国産小麦ブランド。
かなさん、とは沖縄の方言で「愛おしい」という意味だそうだ。
生産者さんへの想いが詰まっている。
戦前の沖縄では小規模ながらも小麦を育てる農家が各地にいた。
それが戦後、沖縄本土では麦作りが徐々に途絶えていった。
「もう一度県産小麦を復活させたい!」
「安心安全な小麦を多くの人に届けたい!」
そういう熱い想いを持った生産者たちが集まり、立ち上がったのが沖縄県麦生産組合だ。
無農薬・有機栽培のおいしくて身体に優しい県産小麦だ。
「子供たちに身体にいいものを食べてもらいたい。」
「自分たちの取り組みを未来へ繋いでいきたい。」
これが金城さんのモチベーションだ。
金城さんとは出会ってすぐに真摯で物作りに真っ直ぐな方だと分かった。
とても心を打たれた。
沖縄の小麦を使って焼菓子を作りたい。すぐに思った。
僕が作るジャムやお菓子、デザートはこういう人たちの想いでできている。
翌日、小麦畑での収穫作業を見せていただけることになった。
場所は津堅島という本島からフェリーで30分ほど離れたところ。
朝、9時前にフェリー乗り場で待ち合わせた皆さんとはもちろん初対面。
にもかかわらず皆さんとてもフレンドリーで人間味のある方たちだ。
会って5分もしないうちに笑い合っていた。
沖縄の人たちは壁がまったくないな…。
津堅島に着くまでの30分、フェリーのデッキで楽しくおしゃべりしながら、真っ青な沖縄の海の景色を楽しんだ。
島に向かうフェリーって好きだな。
どこか異世界へ入っていく感じがして。
「ジャムの旅」で訪れる瀬戸内海の岩城島も同じだ。
降り立った津堅島はまさに「ザ・離島」!
信号もなければ、バイクに乗ってるおじさんはヘルメットもしていない。
警察もいないのか…。
石作りの門にはやはりシーサーが。
初めて小麦畑を見た。
金色に実った小麦の穂が輝いている!
青い空の下、金色に輝く小麦畑。
また新しい景色に出会えた。嬉しい。
「沖縄の小麦をもう一度復活させたい!」
そういう想いで集まった男たちの姿は…かっこいい。
純粋に、頑固に、そして楽しく仕事に向き合う姿。
こういう人たちが日本の食文化を支えているんだ。
パティシエとしての自分は、ただいい材料を使っていいものを作るだけでなく、こういう景色、生産者の想いを味として表現して伝えていく義務がある。そう強く信じている。
この素朴で野生味があって、そして何より熱い人たちが育て上げた小麦粉で何を作ろう、何を伝えようか。
そう考えながら帰りのフェリーへ一人乗り込んだ。
また来るね…。
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