プリントでの議論(生物多様性・生物とは)



ここでは生態系に関する哲学プリントを授業で扱った中で,生徒が出した面白い意見や疑問点を列挙し紹介します。もともとのプリントはこちら(哲学プリント 〜生物多様性・生物とは〜)

下の方には生徒からの質問に私が答えるコーナーもあります。


まず,1問目。ヒトはなぜ生態系を保全するのか

 人類が絶滅する危機になった際,人間が生き残るための選択肢を残しておくため。生態系を保全することで現在の環境を守ることに繋がり,人間が生存できている今の状況を守り続けるため。


我々は生態系サービスについて学習したために,核心部分がそれであると感じているが,おそらく一部の人々は弱者救済の観点から訴えている様に思う。生態系サービス以外にも,こう言ったある程度の力をもった後の短絡的な感情も一員であると思う。


 半世紀くらい前までは,人間は自然を完全にコントロールできると過信していたために,公害などの問題が発生し,自然が再生するスピードよりも早く,人間が自然を破壊してしまい多くの生態系が破壊されたため。人間に自らの思い出などを保存し続けたいという欲望があり,いまある生態系や自然をこのまま何十年も保ち続けたいと自分が気づかない間に思っているため。



次は2問目。トキ・ウナギを例に,絶滅危惧種を保全するときのコスパを考えるとどうなるんや…という問い。そもそもコスパを考えるのはナンセンスだ、という意見もいただきました。けっこういい問いかけになったのかも。


 トキ,ウナギ両方とも日本文化に深く結びついている。形は違えど双方とも日本文化の深いところで繋がっており,少しでも欠いてしまえば文化の一部分が途絶えてしまう。絶滅危惧種への投資はすなわち文化保護存続への投資であるからである。


 生態系の中に属するかどうか微妙なヒトが生態系などをコストパフォーマンスなどといった視点で考えること自体間違いだと思う。そもそも破壊したのはヒトなのだからそれを元に戻そうとするのは当たり前だと思うし,生き物によって優劣をつけるのは,生物は平等だということに反していると感じました。


 ヒトによって全滅の一途を辿ったトキとニホンウナギの保全行為は決してリターンを求めているわけではなく,贖罪の一種なのではないか。そのため優劣はないと思う。


 どちらも同じ様に保全しなければ,その生態系は破壊される。生態系が破壊されれば,最終的には自分自身が困る結果となる。コストパフォーマンスの差はあるけれど,結局は自分自身が困らない様になるためにどちらも等しく保全しなければならない。


  トキを保全することは文化を保全することで,ニホンウナギを保全するということは食べ物を保全することになると思う。年寄りの方々が文化を大切にし,次の世代へ受け継がせようとするのと同じ様に,トキを後世に残し日本の象徴であった文化を残そうとしている。そのためにはお金は関係ないと思っている。


 弱肉強食の自然界において,強いものが弱いものを餌にしていくのは当たり前だが,人間は道徳的に考えて強者が弱者を守ることを正しいとしており,トキやニホンウナギは人間よりも弱く絶滅に近づいていると考える。人の生活に対して利益があるとかではなく,それを保全しても人に害はないと考え,人間が道徳的に考え弱い生物を等しく保全しているのではないかと考えた。


4番目。ヒトが生態系とどのように共存すべきか?という問い。


 生態系保全の期間を決めて(10年や15年など)その期間が終了したときに社会に利益があるまたは見込める場合には続け,そう出ないのであれば止めると言った割り切った考えも必要だと思う。限度のある国の資金を必要のない環境保全に使用するべきではないと思う。


 実現不可能かもしれないが,旧石器時代,縄文時代の生活に近づいて行くべきではないかと思う。少なくともいまよりは共存しているのではないかと思う。予想です。


 都市部と自然環境を重視した場所で区別すべきだと思う。いまみたいに中途半端に両方合わせて見た,みたいなのは良くないと思う。生物も変に住みづらいだろうし,だから2つの場所に分けて生物は環境重視のところで生きれば良いし,人間は基本的に都市部の方で生活すればいいと思う。


最後に5番。自由記述欄で寄せられた意見や質問・およびそれに対する返答です。(Qは生徒から来た質問,Aは僕なりの返答)


 大昔は人間と他の動物は対等に近い関係にあったかもしれないが,人間が進化しすぎた以上,平等に生きて行くのは難しいと思った。


 絶滅は人間の手が加わらないところでも起こっていることなのになぜ自然を守ろうと保全をするのか。もちろん食用の生物は我々が生きるために守るべきだとは思う。しかし絶滅も自然の一部と考えると絶滅を防いで自然や生態系を守ろうというのはなんか引っかかる気がする。


 ある生物を減少させると生態系に影響を出すことを問題視している。ある生物だけを増殖させても,生態系に影響が出るだろう。つまりある生物を保全する(増殖させる)ということは生態系に影響が出るかもしれないのに,保全を問題視しないのはなぜなのか。


 昔,ある山で保全会の様なところで活動したことがあったが,あの小さな山を守るだけでも相当な労力がかかっていた。キノ切り倒しや害獣の捕獲,里山の整備など。しかし,会の平均年齢は60歳くらい。私たち若者も,森を守るノウハウ等を学んでいかないと,将来森林を守る人たちがいなくなってしまう。若者が(自分も含めて)自然に興味を持つためにはどうすればいいのだろうか。


 生態系を保全するにあたって「自然を守ろう」というのが一番わかりやすく記憶に残りやすいスローガンだと思う。そして抽象的なスローガンを唱え続けた結果が今だと思う。みんなが口を揃えて「自然を守ろう」というが,「なぜ」と聞き返すとわからないという現状だ。


 現代のみならず古代中世から人間は寿命が延びることを常に喜ばしいことだと捉え,長寿を目指してきている様に感じられるがむしろ異様な状態だと思う。医療技術の進歩がなければ人間の寿命はせいぜい30〜50年ほどであるが,これが「自然界において設定された人間の寿命」であると私は考えている。人間は常に異様,異常を求め自然に反した行動に走っている。


 ヒトも所詮生き物なのだから,自然対ヒトという考えはおかしい。おそらく,ヒトより上位の生物が生まれた時,その生物はヒトも保全しようとするだろう。ヒトは自然の中に生きているのであって,ヒトは自然と離れて,ましてやヒトが自然を保全するなど傲慢もいいところである。


Q.生態系を保全するとは言っても,その方法は様々だと思います。その中で先生が最優先してやるべきことはなんだと思いますか?また,その理由はなんですか?

A.生態系保全に詳しい学者が、ちゃんと行動できるように、価値観を普及することだと思います。現状では学者自体が意見を発信して知識を広めている状態で、まだ全然議論が進んでいません。なので、(僕ができることは)こんな感じで考えてもらうきっかけを広くつくることです。もし、生態学者として何をするかという質問であれば。わかりません。学者さんの発信を見ても、うまくやっている自治体もあれば、微妙な自治体もあったりして、まだ世間全体で有効な策を打ち続けられる状態ではないようなんです。だから、ぼくがなにをできるかというと、わからんです。ごめんなさい。


Q.近年は生殖不能にしたブラックバスを放流することでアメリカザリガニを駆除するという方法もあるそうです。僕はこれは画期的だなと思いましたが,先生はどう思いますか?

A.最近こういう事例は増えてますよね。マラリア感染を減らすために生殖不可能な蚊を放すという取り組みもあります。画期的で有効な方法だと思います。ただ、手段が過去の自然観とはたしかに乖離しているので、どこまで広く理解してもらって受け入れてもらえるかが大切ですね。実は過去、ミバエというウリ科につく虫を駆逐するために日本でも似たような方法がなされました。たしか、これによって沖縄などからマンゴーが輸出できるようになったという経緯があったような。


Q.いつから人間が地球環境に悪影響を与え始めたのか,また,それにいつ頃気づき,改善しようとし始めたのか疑問に思う。

A.これ、メッチャくちゃ良い問いなんですよ!江戸時代みたいに、農耕メインで。医療も発展していないで、自然に人が亡くなっている時代は、ヒトと自然が共存している感が今より全然あるじゃないですか。何がきっかけなのだろうか?と考えると超面白いですよね。


Q.生態系を保全するにあたって「自然を守ろう」というのが一番わかりやすく記憶に残りやすいスローガンだと思う。そして抽象的なスローガンを唱え続けた結果が今だと思う。みんなが口を揃えて「自然を守ろう」というが,「なぜ」と聞き返すとわからないという現状だ。

A.これもいい問いですよねー。ヒトがなぜ自然を守ろうとするのか、をヒトが理性で理解していない。という時代が現代なのかもしれないですね。


Q.自然保護を主張する人たちは,自然のためという大義名分を使わず,むしろ開き直って自分たちのためと言ったほうがいいのではないでしょうか?その方が自然保護に関心がない人も自然を保護しようという意識が芽生えるのではないでしょうか。先生はどうお考えですか?

A.大義名分を人間の為にするのは結構難しいと思います。人間は人のために行動した時に快楽が生じて行動が強化されやすい性質があるので。なので現状の、社会的な大義名分は保護よりで、教育過程で少し深く学ぶ。というのが良いと思います。社会を動かすためには、どのように人を動かすかが大事なので。


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