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46歳、スタートアップへの転職 - Vol.7 転職して感じたこと -

▼はじめに

・このnoteに関して

このnoteは私が46歳で大企業からスタートアップに転職した体験記です。
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前回までの記事:【1】きっかけ編【2】葛藤編 【3】転職活動準備編
【4】転職エージェント利用編 【5】現実直視編  【6】転職実現編
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・今回のnoteのサマリ

大企業からスタートアップに転職してどうですか?と聞かれることが多いので、今回はSaaSサービスを提供するスタートアップに転職して①驚いたこと②経験を活かせたこと③苦労したこと、の3つの観点で思いつくままに書いていこうと思います。転職した企業は従業員90名(当時)で、私は法人事業の営業マネージャーとして採用されています。

▼46歳、スタートアップの現実に驚く

・入社意思決定後2週間で入社

私は当時在籍していた企業の退職が6月末で決まっており、転職が決まったスタートアップには4月下旬に7月1日付入社で労働条件通知書が出ていました。労働条件の説明を受ける場で、出来るだけ早く入社してほしい、可能であれば来週くらいから業務委託契約でお願いしたい、という打診を受けました。PCやスマホはすぐに用意するから、とのことでした。

入社日が毎月1日と決まっていたり、管理職が業務委託社員という概念を持ち合わせていない大手企業出身者としては、スタートアップに入社するなら固定概念は捨てないといけない、これからこんなことはたくさん起きる、と覚悟が決まった瞬間でした。

・PCがMacではない

私が転職した会社は業務用のPCはWindowsかMacのどちらかを選択出来ました。そしてWindowsのメンバーが非常に多い会社でした。私は勝手なイメージで“スタートアップ=MacBook“と考えていましたので、Macを触ったことがない46歳のおじさんとしてはスタートアップに転職する不安材料の1つでした。Windows派が多いという事実は安心したと同時に驚いたことでもありました。

・慣れないツールが多い

前職では会議もチャットもメールも何もかもMicrosoftのアプリでしたが、転職後はGoogleでした。他にもSlackやSalesforce、Trello、Confluence、miro、ジョブカン、SmartHRなど、まだまだ他にもたくさんあるのですが、全て過去一度も業務で使ったことがないツールばかりです。スプレッドシートやGoogleスライドなども含め、ツールに慣れるのに相当な時間がかかりましたし、日常のストレスの大半を占めるくらいのツラさを感じていました。私以外の中途入社者もみんな同じことを言っていましたので、スタートアップへの転職あるあるなんだと考えています。

・言葉が分からない

SaaSサービスを提供している企業には私にとって初耳の言葉がたくさんありました。用語の列挙は控えますが、事前にWEBサイトで学習はしておいたのですが全く役に立ちませんでした。日常的に頻繁に使われることが多いので、実践の場で理解は深まっていきます。知識だけの学習に意味がないことも痛感しました。実践で経験してこその学習定着だと感じました。

言葉が分からないのは私だけではなく、周囲も私の言葉が分からないシーンがたくさんあったようです。私は前職に16年も在籍していたので、日常的に使っていた言葉を一般的な用語だと思って使ったら周囲が困る、ということを何度も経験しました。転職するということは使用言語も変わる、ということを学びました。

・分業モデルの現実

スタートアップではザ・モデル型の組織体制を採っている企業が多いと思います。いわゆる分業制と言われるものです。言葉だけで捉えると各組織が明確な役割分担のもと小さなPDCAサイクルを回し続けて責任を果たし、バトンを渡していくことで売上を最大化する、という感じだと思います。私もそう思って転職をしたのですが、当たり前ですが現実はそんなにすっきり運用はされていませんでした。

その主な要因は人員の都合だと考えています。フィールドセールスが営業活動だけをやっておけば良い、というのは難しく、リードが溢れればインサイドセールスもやる、というのが現実です。カスタマーサクセスのメンバーがインサイドセールスやフィールドセールスをやることもありました。

そもそも、管理職も十分に居ないことが多いので、誰かがリード獲得以降の各セクターの数値管理をせねばならないですし、打ち手の立案、工数の差配などもせねばなりません。その役割は多くの場合はフィールドセールスのマネージャーが担うことになると思います。めちゃくちゃ大変ですが、なかなかできない経験が積めていると感じています。

もう1点ここでお伝えしておきたいことは、ザ・モデルは万能では無いという事です。サービスの特性や状況によっては別の良いやり方があると思います。実際に私もザ・モデル型の組織を一部崩して新しい形で事業運営をしておりました。

・プロダクトがなかなか進化しない

私はスタートアップに転職するまで23年間もサービス業に従事していました。お客様のニーズに対して提供するサービスを柔軟に変化させていた経験しか無い私にとって“プロダクトを扱う“ということには多くの驚きと発見がありました。

多くのスタートアップが実現したい世界観を表現する手段としてプロダクトを出しています。だからこそお客様のニーズ1つ1つに対して簡単に応えて動くようなことはありません。短期視点ではなく中長期の視点で自分達の価値観や描きたい世界観と合うのか、ということをPMF(プロダクトマーケットフィット)の観点で多くの関係者と詰めていく必要があるので、どうしても進化に時間がかかってしまいます。

進化に時間がかかる要因はもう1つあります。それは近年のエンジニア採用難易度が高い問題です。十分なエンジニアチーム及び優秀なエンジニアの確保はスタートアップ各社共通の経営課題ではないかと思います。採用難易度、採用費や人件費の高騰など問題は山積みです。この問題がプロダクトの進化に影響を及ぼしていることは間違いありません。大量にある開発・改善要望の中からの優先順位をつけること、開発期間、実行するエンジニアのスキルレベルなどを考えると、進化をしていないわけでは無いですが、なかなか進化しないように見える、というのが現状です。

プロダクトがなかなか進化しない中での営業マネジメントは非常に難易度の高いマネジメントだと感じながらやっていました。事業成長を営業メンバーの成長だけで実現しないといけない構図になっており、開発の状況が分かっているだけに悩ましかったです。メンバーの育成をしながら、顧客の課題を少しずらす提案、運用でカバーする提案、などの営業トークで、顧客の本質的な課題解決に取り組めないことや解約率が悪化してしまうかもしれないという葛藤を抱えながらの日々は、現業務の辛い側面です。

・労働時間管理がしっかりしている

私の持つスタートアップのイメージは“昼夜土日問わず働く“でした。いざ転職してみると労働時間管理は驚くほどしっかりしていました。具体的にはPCを立ち上げたら労働時間とみなすような仕組みでした。もちろんこれは一般的には当たり前のことです。あくまでも私の抱いていたイメージとのギャップの話だということをご承知おきください。私の調べた限りだとIPOの目標時期が近い企業ほど大手企業に引けを取らない管理をしているようです。

・スピード感

これもまた私の勝手に抱いていたイメージですが、スタートアップは何事もスピードが早い、という印象でした。実際に意思決定のスピードも浸透スピードも想像以上に早くて驚きました。高速でPDCAサイクルが回るということはこういうことだろうな、と感じることがたくさんありました。

私は、この速いスピード感を非常に心地良いものだと感じていました。もちろん朝令暮改的なことも起きますし、大変は大変でしたが、常に前に進んでいる感、非連続で成長している感を感じていました。

▼46歳、意外な経験が活きる

スタートアップに転職して経験を活かせていると感じたことは実はそんなに多くはありませんでした。貢献できることはたくさんあるはず、と考えていたことが恥ずかしくなるくらい出来ないことだらけでしたが、経験が活かせた、と思うことも少しはありましたので書いておきます。

・役に立ったExcelスキル

私は30歳に小売業から人材サービス業に転職するまでパソコンはほぼ触ったことがありませんでした。その影響で未だにブラインドタッチはできません。大変お恥ずかしい話ですが、パワーポイントの存在を知ったのは30歳の2社目への転職後のことでした。Excelも仕事ではほぼ使ったことがなく、同僚たちよりも圧倒的に低いスキルでした。

前職のプレイヤー時代は企業への提案書を書いたりチーム戦術をまとめるのにパワーポイントスキルを磨きました。管理職になってからはExcelを多用しました。意識的にこういったソフトを利用することで経験を積み、客観的にみても使いこなせている方だったと思います。

前職ではデータを加工したりモニタリングの帳票を作成してくれるスタッフさんが居ましたのでExcelを触らなくても業務遂行は可能な組織体制でした。ただ私は人よりできないという劣等感があったので、意識的に自分でも触りながらスキルを磨いていました。

このような地道な努力をしておいて良かった、と初めて思えたのがスタートアップへの転職後でした。データの抽出から加工、帳票化まで全て自分でやる必要があります。スタートアップの管理職はオフィス系のアプリを使いこなせないと業務にならない、と言い切っても良いと思います。

扱っているシステムも専用システムからSalesforceに変わりましたが、データベースの構造を理解してしまえば良いと経験から想像できたので、割と早くキャッチアップ出来たと思います。ただ、ソフトがExcelではなくスプレッドシートに変わったので慣れるまでに時間がかかりました。それでも他の人よりは早かったと自負しています。

・役に立ったフレームワーク経験

私が以前勤めていた企業では、何かしらのフレームで考えること・伝えることを徹底的に叩き込まれました。個人的にはフレームワークはビジネスパーソンの共通言語だと捉えております。私は、本を読んだり、WEBで調べたり、他の人のものを真似たり、などでその言語の習得のために努力をしてきました。前職ではなかなか上手に使うことができず、多くの指摘やアドバイスをもらう機会も多く、いかに上手に使いこなせるようになるかが仕事上の悩みの種でもありました。

転職して気づいたのは、全く慣れないビジネス/環境に飛び込んだ時に、フレームワークというものが私の武器になっていたということです。意識をしなくても自然に使えている、という感覚も持ちました。もちろん使いこなしレベルはまだまだで、なかなか周囲に上手く伝えられず悔しい思いもしましたが、役に立ったな、と思うシーンも多かったです。

参考までに書いておくと、私の言っているフレームワークとは、 PDCA・5W1H・4象限モデル・ロジックツリー・MECE・3C分析・SWOT分析、くらいのものです。書いている順はよく使うなと思っている順番です。あとひとつ、出所も名前も分からないのですが、課題設定に至るまでの思考フレームを1番使っていました。

・役に立ったイベント企画スキル

私が以前勤めていた企業では、業績推進のためのキャンペーンなどのインセンティブ設計や定期的に実施される宴会的なイベントが豊富でした。私はその環境に16年もいたので当たり前のように感じていましたが、転職してみて初めて特殊だったことを知りました。いくつかのインナーキャンペーンやクリスマス会、納会など、いろいろなことをやりました。周囲の評判も良かったと感じています。

スタートアップは高い成長率を掲げ、全力で走り続けないといけない環境だと思います。“やるならみんなで全力で楽しくやる/楽しむ“という精神はとても大切なことだと考えていましたが、改めてその大切さを感じました。

▼46歳、焦る

ここではスタートアップに転職して大変だったことを書いてみたいと思います。

・管理職ポジションで転職するということ

私は管理職で転職することの大変さを全くイメージできていませんでした。特に私の場合は、前任者がいない急拡大中の組織への入社です。今振り返ると、なんとかなるだろう、と甘く考えていたと思います。その思いは入社初日に打ち砕かれます。

私は入社初日の人事からの1時間の入社オリエンテーション終了後、業務を始める段になって、何から始めたら良いのか見当もつかず、そこでようやく自分の置かれている状況を理解しました。

私は、当該サービスを売った経験もなければ、近しい商材の営業経験もありません。SaaSサービスも売ったことがないですし、ザ・モデル型の組織も初めてです。メンバーにも入社まで一度も会ったことがなく、フルリモート勤務体系でしたのでいつ会えるかもわかりません。会社で扱うツール類もほぼ初めて見るものでした。冷静に考えると、何も考えずにこの環境に飛び込んだことは恐ろしいことだと思います。無知だったので飛び込めたのだと今振り返って思います。

管理職として転職することの難しさに直面したのは入社直後だけではなく、入社後しばらく続きます。それはメンバーマネジメントです。私は転職するまではメンバーマネジメントは普遍的なものなので転職しても活かせるだろうな、と勝手に思い込んでいました。

入社してメンバーと会話していくうちに至極当然なことに気づきます。扱うサービスや人事制度、評価制度や採用基準、組織体制、事業フェーズが違えばメンバーマネジメントも変わって当たり前です。私の考えが浅はかだったとしか言いようがありません。ただ、この当たり前に気づいてもなかなかアジャストできず頭を抱えて悩む日々が続きました。アンラーニングの大切さと難しさを肌で感じていた日々でした。

・非連続な事業成長を推進するということ

一般的に成長中と言われるスタートアップの年間成長率は130%くらいだと聞いたことがあります。私の転職した企業はそれ以上の成長率を実現していましたし、もっと高い成長率を目指していました。

私の過去の経験では、管理職として担当した領域では3年間の年間成長率出130%の成長率を経験したことがありますが、計画的に成長させられたわけではなく、115%位を目指していたら130%になっていたというくらい偶然の要素がかなり強い状態でした。従って私には、意志を持って計画を立て、高い成長を実現した経験がありませんでした。

転職したスタートアップでは、事業の3か年計画作成にも関わっていたのですが、現場マネージャーの視点ではどうしても成長率120%くらいの現実的な計画作成になってしまいます。高い成長率で数値計画を立てるのは簡単ですが、根拠がないと絵に描いた餅です。ゼロベースでアイデアを出しながら、どのようにしたらもっと高い成長が実現できるのか、を捻り出す必要があります。このような思考は本当に難しく、経営からは何度も何度も問いを立てられ突き返されました。今でも思い出すだけで胃が痛くなります。

別の観点ですが、スタートアップでは高い成長率を実現するさせるためのスタートとして、人員の大量投入という手段を採ることが多いと思います。現場マネージャーにとってはこの人員の投入は本当に色々な意味で大変で悩ましいことです。

短期間で人員が大幅に増加することによるマネジメントの難しさはたくさんありますが、3つだけ挙げておきます。

1番大変だと思ったのは、社歴が浅く、経験の浅いメンバーの構成が高まると、自分含めた育成担当の育成にかける工数が一気に増え、通常業務や労働時間に多大なる影響を及ぼすことです。また、この育成担当者も育成経験があるわけではないので、育成担当者の育成、というタスクも発生します。当然ですが、育成体系もあるわけではないので、育成体系を作りながら、という状態になります。人員の大量投入はいつ崩壊するか分からない脆い橋の上を歩いているようなものだと思います。メンバーの成長=事業の成長。メンバーの成長は嬉しいですが、本当に大変です。

次に大変だと思ったのは、メンバー間の関係の希薄化です。毎月のように入社者が入る状況で、教える側の社歴が半年、ということも良くあることでした。経験の浅さ、忙しさなどもあり、どんどん周囲とのコミュニケーション量は減っていきます。また多くの中途入社者に同期がおらず、中途入社者間の繋がりも太くはありませんでした。意識的に組織内で全員がコミュニケーションを取る場を設けていかないと、人によっては孤立するということもありましたし、既存メンバーがいつの間にか大幅にモチベーションダウンしていることもありました。組織全体に目を配りマネジメントをしていくことは本当に難しかったです。

大変だと思ったことの3つめは、採用面接です。一般的にスタートアップの選考通過率は高くはないと思います。少なくとも前職と比較してかなり低かったので相当な量を実施していると感じていました。カジュアル面談も含めると多い月で45人と会っていました。私は求人票の作成や転職エージェント向け説明会、スカウトサイトでのスカウトなども行っていましたので、面談/面接の時間含め、時間の確保に相当苦労しました。

・さいごに

思いつくままに書いていたら相当な長文になってしまいました。最後までお読みいただいた方、本当にありがとうございます。

私は、大手企業からスタートアップに転職して本当に良かったと思っています。毎日いろんなことが起こって大変ですが充実しています。生きている感じがするなぁと思っています。

次回のnoteでは、私がスタートアップに転職してから1年くらいまでの間に実際にやったことなどを書いていきたいと思います。恐らく転職体験記の最終章になると考えています。

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