[短編] メゾンdivers ⅲ
僕は、ビート板と暮らしている。
僕たちって、ちょっと似てると思う。
だから、一緒にいてなんとなく楽だし、それにビート板がいるとなんとなく心強い。彼はタフだからね。いざとなったら、助けてもらえる安心感みたいなのがあるのかな。彼は、
「俺はでかいだけだ」と言うけれど。
僕は、比較的どんな人とでも仲良くできるんだよね。部屋に人を招くのも好きで。そういうところ、ビート板も「いいね」ってノリがよくて、よくいろんな人が遊びにくる。
この間もね。
下の階に住むカメラが遊びにきたんだ。彼はしょっちゅう旅をしていて、ちょうど銀沢から帰ってきたところで。「旅の話を聞かせてよ」ってことで、お土産の銀沢の地酒を持って遊びにきていたんだ。
カメラの旅の話がまた面白くて。
地酒も美味しくてね、ビート板なんか
「いやーやっぱ、本場はちがうねー」
とか言いながら、豪快に飲むもんだから、結構、酔っ払っちゃって。
カメラの撮った写真もたくさん見せてもらったんだ。「21世紀越え美術館」の水槽とか、「兼五.五園」のライトアップとか、本当、見事だった。
「もうさ、夢中でパシャパシャ撮ったよ」
と目をキラキラさせながら、嬉しそうに話してた。好きなことがあるって素敵だ。
「おーパシャパシャ!いいねー!俺もパシャパシャ好きー!」
って、ビート板が言いながら泳ぐ真似とかしてたけど。こいつはただの酔っ払いだ。
「いやぁ、すっかりご馳走になっちゃって。食パンくんの料理は本当美味しいね。お店出せるんじゃない?」
なんて嬉しいこと言ってくれるカメラ。
「あ!この後行くとこあったんだ!」
きっと、彼女さんの部屋だ。彼女さんもここメゾンdiversの三階に住んでいる。スラッとしてめちゃくちゃ美人だ。
「また怒られちゃう。遅くなるなら連絡くらいしてよ!私のこと、すぐ忘れるんだから」
って、声真似しながら帰って行った。
楽しい夜だった。
「酔っ払っちゃったなー」
と夜風にあたりにいったビート板が、そのあとベランダで寝てしまって慌てた。彼は本当にどこでも寝てしまうけど、外はまずい。
幸い、親切なお隣さんが手伝いにきてくれて、でっかいビート板を部屋に引きずり込むことができた。彼らは本当に親切で丁寧だ。今度お礼に食事に誘おう。
僕もビート板も、誰とでもフラットに付き合う。それが楽ちんで、暮らしやすい。
カメラの話聞いていたら、旅行いきたくなったな。ビート板が一緒なら、海もいいな。
「はぁーーーーっくしょい!」
ビート板の風邪が治ったら、だな。