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【読書感想文】夢に迷ってタクシーを呼んだ
Netflix映画「僕らはみんな大人になれなかった」の原作者、燃え殻さんのエッセイ集です。
いつか僕たちは必ずこの世界からいなくなる――。ネットニュース で、三週間前に会った知人の死を知った日。「もうダメだ」と言い続けていた最悪な時代の仲間との再会。「で、お前いつ帰るんだ?」 が口癖だった祖父との思い出。恵比寿の焼き鳥屋で見かけたヨーダ似のお爺さんと美少女。日常を生きていく寂しさと心もとなさに、 そっと寄り添ったエッセイ集。文庫特典「巣ごもり読書日記」収録。
どうして彼の周りには、こう面白いことが起きるのだろう…と思う。ある意味貴重な(こんな便利な言い回しを使いたくなかったんだけど)エピソードの数々。
東京にいるからそうなのかな?(田舎者なので想像がつかない)
それとも、彼の周りだけなのかな?(その説のが濃厚な気がして仕方ない)
彼の職業がそうなのかな?(確かにテレビ業界裏方や小説家の生活ってすごそう)
テレビ業界の裏方でボロ雑巾のように働いていた時期のことや、学級新聞をひたすら貼っていた学生時代のこと、そこで出会う人たちからの理不尽な扱いや、じわんと心に沁みる言葉を、燃え殻さんは覚えている。
「そんなこと言ったか?」
「そんなことあったっけ?」
と、カラッと笑い飛ばしてしまう人たちの中で、彼だけは覚えているのだ。あのときの言葉も、あのときの表情も、あのとき僕がどう思ったかも。多少美化されることはあっても、やっぱり彼の引き出しには入っている。そういう引き出しを、覗かせてもらっているみたいで、素敵なエッセイ集だった。
「これは?これ、なんで取ってあるの?」
「あ〜、これはさぁ、僕がラブホテルの清掃員してたときにね…」
と、引っ張り出される記憶と言葉たち。
叩かなくてもホコリくらいたつような生き方をしているのだから、週刊連載の締切がせまって編集者さんに圧をかけられても、何かしら起こるのが燃え殻さんなのだ。この状況で道に豚足おちてるってもう書くしかない、みたいな感じで。引き寄せなのかな?
いや、違う。
きっと、私たちの生きているこの世の中には、そういう他の人にとっては取るに足らない、でも本人にしてみたら寂しかったり悲しかったり嬉しかったり美しかったりする事柄が、実は転がっている。小さな子が、その辺の石ころを
「キレイな石みっけ!」
とポッケに入れるみたいに。
少し前に、燃え殻さんの『すべて忘れてしまうから』も読んだ。
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人生を変えるような大きな出来事なんて、そうそう起こらずに、それでも毎日、いろんな事やいろんな人に会っていて、意外といろんなことを感じたり思ったりしているもので。そういうのをちゃんと覚えておきたい。
日常に起こる小さくも面白いこと、寂しかったり、切なかったりしたこと、そういうの。そういうのの積み重ねで、私、できてる気がするから。
取引先のおっちゃんの
「疲れたら肩揉んでやるで、頑張ってや〜」
と言った顔のいやらしさとか
オシャレなランチの、美味しいパングラタンの食べにくさとか
FNS歌謡祭を見る夜の、圧倒的で強制的な先取り年末感とか
きっと、それがこの時代の、風情ってやつなのかもしれない。