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【映画感想文】リップヴァンヴィンクルの花嫁

岩井俊二監督、黒木華さん主演の映画をNetflixにて。

2016年の東京。1人の平凡な女性が、インターネットで知り合った男性と結婚することになる。しかし新婚早々、夫となった男性の浮気疑惑が持ち上がる。しかし反対に義母から浮気を疑われた彼女は、家を追い出されてしまう。

Netflix本作紹介文より

この時代、「出会い」というのはとても簡単で、そして簡単なゆえに、とても複雑な側面を持ち合わせている。

主人公 皆川七海みながわななみは、ポチッとワンクリックで結婚相手に出会い、結婚式には親族の数合わせのために、「何でも屋」へ偽装親族を依頼する。

その場しのぎ。

結婚生活をしていくうち、親族というのは滅多に会わないものだが、長く生活していくうちに、「どこそこの叔母」や「母の弟」などが必ず日常に介入してくる。
「結婚式の時に会った以来だねぇ」  などと。

偽装、では取り繕えない、複雑。

けれど、たとえ偽装だとしても欲しいもの、もある。「何でも屋」のバイトで、とある結婚式の親族一家の次女として、七海は真白ましろと出会い、またその父や母や弟役の人たちともその日限りの「和やかな家族」を味わう。

偽装から生まれる関係。

「何でも屋」の依頼にのって、住み込みのメイドとして大きな古いお屋敷へ来た七海は、真白と再会する。

クラゲの水槽、毒をもつフグやエイの水槽、衣装部屋、パーティー後の散乱した広間。

そこでの暮らしが、二人の距離を近づけ、関係を育んでいく。偽装だらけの出会いから。

岩井俊二監督の作品は、「Loveletter」(中山美穂主演)がとても好きで、当時、WOWOWで放映されたのを録画して、何度も何度も観た。あのカメラワーク、音の拾い方、余白。
そして、演者のリアルな表情。
静かな中に、感情の震えがのこる。
美しい旋律にのせて。


この物語は、ともすれば残酷で、汚く醜く、嫌悪感すら抱いてしまいそうな内容も含んでいるにもかかわらず、全体をとおして、とても美しかった。
岩井俊二監督のこのタッチで、演者さんたちの癖が強い人格を自然にみせるトーン、見せなくてよい部分を、見る側の想像にお任せする切り取り方、流れていく音楽。どれもが絶妙に、醜さや汚さの上に降り積もった雪のように、包む。

「優しさ」や「幸せ」には、お金を払わないと、私は幸せの限界で壊れてしまう。

花嫁姿の真白のいうセリフ。

優しい人も、親切な人もたくさんいて、そんな見返りを求めない善意を、真白は恐れる。
「お金」を払っていた方が平静でいられる。
友達や信頼出来る人を「何でも屋」で雇った彼女だった。

人との「出会い」はとても簡単で、そして、とても複雑な側面を持ち合わせている。

どんな出会い方をしても、そこから始まる関係を育めるかどうかの方がきっと、とても大切で。偽装やウソから始まったとしても、心を寄せ合って、裸ん坊でいられる関係は、そこに「お金」がなくても、育んでいけるものだと思う。

真白の母と、何でも屋と七海とが飲むシーンに、取り繕えない感情ってものを見せつけられて、泣けて泣けた。



最後に、真白さん役はCoccoさんで。
とても「強く儚い者たち」のCoccoさんらしすぎて、観終わったあと、その曲を聴きたくなった。

とてもよかった。


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