【読書感想文】ノルウェーの森 上下
村上春樹 1987年講談社刊
うつぶせに寝転び、小説の頁を捲る。
足元の猫の温かさ、ときおり感じる毛繕いの振動。
小説の中のレイコさんの奏でるギターの音や、燻らすタバコの煙、夜の綺麗。
悲しいお葬式をやり直す二人。
「ノルウェーの森」を読んでいた。
『ノルウェーの森は最高です』と、海の近くに一人で暮らす、小説を書く若者が言っていたから、それならば、と。
「井戸の話、だよね?」
「あぁ、それ、結構序盤ですよ」
「そうだっけ…」
本棚から、いつだったか古本屋で買った本、初めだけ読んで、眠っていた本だった。
ウィリアム・モリスの森みたいなデザインの包装紙をブックカバーにして、読み始めることにした。
𓅪𓅫
雷が鳴って、三角屋根に大粒の雨が打ち付ける。風でミシミシと家が揺れる。足下の猫が、くるんと丸まって、またもう一回り小さくなる。
学生寮と突撃隊と蛍の話に、既視感を覚えたのは、『蛍・納屋を焼く・その他短編』を読んでいたからだった。と、ジブリの『コクリコ坂から』の掲揚塔のシーンも思い出し、昭和のあのノスタルジックな時代へと誘われる。
キズキとのビリヤード。
矢沢との女遊び。
直子との手紙のやりとり。
阿美寮での穏やかで優しい時間。
緑との出会い、と生身のかけ合い。
村上春樹さんの小説を読んでいるうち、いつもおぼえる感覚がある。現実と幻想が入り交じり、自分が二手に別れていく感覚。だんだんと、直子が透明になっていく。
雨はいつの間にか止み、気まぐれに日がさして、その静けさにウトウトと眠りに堕ちる。
ススーーン…と猫も大きく息をして、文庫本に指を挟んだまま意識が遠のく。
バチバチ バチバチ
と、再び、雹でも混じったような雨音に微睡んで、足を動かすと、迷惑そうに猫が寝返りをうつ。
緑の気持ちと、緑への気持ちと、二人の関係に名前がつきそうで。
そして、直子の死。
レイコさんとの温かなセックス。
雷鳴がとどろき、雨粒が横なぶりに窓を打ち付ける。
矢沢もハツミも、直子も、レイコさんも行ってしまう。突撃隊すら遠に居ない。
電話ボックスから緑を呼ぶ。
大切な人を大切に思い続けること、
それとは別に、幸せになること。
私が今、大切にすべきもの──。
それにしても、よく降る雨だ。
本当に降っているのかと、外に出てみたけれど、裸足の足がビショ濡れになった。
強くならないと。
𓅫𓅫
そういえば、
ドラマ「恋を何年休んでますか」で、中村トオルさん演じる小西良平が、矢田亜希子さん演じる堀川理沙と秘密の恋をしていたのだけれど、二人はこの「ノルウェーの森」の上下巻を一冊ずつ持って別れていた。
そういうことか…と、
今さらながら腑に落ちた。