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夫を「君」呼びするとき。
ノックもなくいきなりガチャッとドアを開けて、
「ママ〜、どうや?」
と聞いてくる彼を、私はこの腹から産んだ覚えはない。
もちろん彼も、そういう意味で私をママと呼ぶのではないのだけれど、若干の引っかかりを持ってしまうのは、こうして熱を出して寝込んでいる私の様子を見にくる頻度と、やっとこさ寝付けたのに堂々と起こしにくるその無遠慮な声掛けのせいかもしれない。
普段、私たちはお互いあまり干渉をしない。
同じ家にいながら、まったくそれぞれに好きなように過ごしていて、とはいえ、必要とあらば
「パパ!今日暇?これ手伝ってほしいんだけど」
と予約を入れることはよくある。
その「パパ!」を、「◯◯君」と呼ぶときもあるのだけれど、彼の反応に大した違いはなさそう。
私が「◯◯君」と呼ぶ時というのは、お互いの実家にいる時が多い。母や姉たち義兄たち、姪っ子甥っ子の前では、私は夫を「パパ」でも「うちの旦那」でも「夫」でもなく、「◯◯君」と呼ぶ。義実家でもしかり。そして、彼も、私のことを名前で呼ぶ。それがちょっと嬉しかったりする。
だって、大の男の人が「ママ!」ってさ、自分の母親のことじゃなくても、子どもに合わせてだとしても、なんかね、ゾワッてくるものがあって。 (※私の個人的観念です)
子どもが小さいうちは、特にそんなこと思わずいたけれど、子どもたちが成長して、二人でいる時間も少しずつ増えたせいか、若干の違和感を感じてしまう今日このごろ。
年始から熱を出して(おそらくインフルエンザ)床に臥せったままの私を、心配していてくれるのだろうけれど、普段、放っておかれているのが常だから、
「ママー、どうや?」「ママ、ごはんは?」
「ママ、なにかいるものあるか?」
と、ちょくちょく覗きにくるのが落ち着かない。
熱や咳でなかなか寝付けなくて、ようやく寝付けたと思ったら、ガチャッ!「ママー」ってくるから、もう最終的にはそのまま寝たふりをし続けた。申し訳ないが、寝させてほしい。
「寝とるのか…」と出ていく夫。
寝ないと治らないのでね…。
これが名前呼びだったなら、私はまだちゃんと甘えられたのかもしれない。ママという役割(家事やら子どものあれこれ)を休んでしまっていることに、やっぱり私だって申し訳なさもあって、彼に「ママ!」って呼ばれるたびに、
「ママなのに何日も寝込んでしまってごめん…」
と、そこまでハッキリと思わなくても、チリッと心苦しいのはあるから。
ガチャ!
「ママ、どうや?」
「やっと36℃台になったよ」
「おぉ〜!なんか食べるか?カキフライも買ってきたぞ!」
彼にはどうやら「ママはカキフライが大好き」とプログラミングされていて(確かに一時期カキフライ定食ばかり頼んでいた時期はあった、し、好きなのは間違いないのだけれど)、前回、私がコロナで寝込んだときも「カキフライあるぞ!」とお惣菜のカキフライ買ってきていた…そしてやっぱり食べられなかったじゃない?学習しない男。
「揚げ物はちょっとまだいい……」
「揚げ物、そっか」
シュンとするのやめてほしい。さすがに揚げ物はさ、無理だよ。コロナの時も言ったけどね。
そうして、彼の作ったデカめおにぎりと、うっすいお味噌汁(お豆腐もデカい)をいただいた。
彼を産んだ覚えもないし、いろいろがぶきっちょで違和感ばかりだけれど、それでもそうやって甲斐甲斐しくちょくちょく覗きにきてくれる彼のおかげで、なんとか回復することができた。
夫が仕事から帰ってきたら、
ちゃんと、ありがとうって言おう。
パパ、じゃなくて、ちゃんと名前を呼んで。