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団地界隈のはなし
私は金麦を100均で買ったビアジョッキにつぎたして、くぃーっと飲んで。
夫は、えのきとワカメのポン酢和えをつつきながら、
「で、どうだった?草刈りは」
と、今日の団地の秋の草刈りについて問うた。
「もぅ大変だったよ、草っていうよりさー、ツタ?ツル?なんかすごいはりめぐらされてるじゃん、あの広場んとこ。」
「あー。」
「で、木の上とか高いとこはさ、あの中国人の家の、背の高い旦那さん、あの人がやってくれて。」
「あー、加藤さん家の隣の?」
「そー。ってか、加藤さんとこ奥さんだったよ。
木下さんとこも奥さんだったし、藤田さんとこも。」
「木下さんとこも? あそこいつも旦那さん出てくるのになぁ。」
「え?私出る時いつも奥さんだよ?で、班長さんの西川さんとこは旦那さんだった。で、草刈機持ってきてた人がさ、ガタイのいい眼鏡のちょっと厳つそうな人、あれ、だれだろ。」
「西尾さん?」
「西尾さんはちなっちゃんのパパでしょ?そうじゃなくて、もっと厳ついかんじのさ。サンドイッチマンの伊達ちゃんじゃないほうみたいな人。」
「富澤か。」
「そう、富澤みたいな人。その人と、あと見たことあるんだけどあれだれだろ…ちょっとヤンチャそうな…昔ヤンチャでしたみたいな感じの。」
「ヤンチャそうな?そんな人おったか?」
「ちょっとてっちゃんみたいな感じの。その二人が草刈機してくれて。広場はすぐ終わったんだけど、初鹿さん家の裏のほうの小径あるじゃん、あっちがまたすごくて。」
「あっちもか。」
「そー、なんだかの小径って名前ついてたみたいだけど、初めて聞いたよねって鈴木さんと話してた。」
「鈴木さんも来てたのか?」
「そりゃね、旦那さんいないもの。で、その小径の大内さん家側のほう、あの辺がすごかったみたいで。」
「あー、あんな方までか。」
「そう!で、大変すぎるから四班さんに助っ人たのんだらしくって。」
そう言いながら、この間登り窯で焼き上がってきたワインカップを出してきて、白ワインを注ぐ。
「四班?」
「ガブリエルさん家とかのほう。」
「あー、あれは?タカオは?」
「見てないかも。あそこは班ちがうくない?山北さん家のとこまでじゃない?」
「あー、そっか。」
「で、めっちゃくちゃ草だから、ガサって抱えて運んでたらさ、伊藤さんが一輪車持ってきてて」
「おぉ、自前?」
そう言いながら、夫は黒天目の焼酎カップに黒霧島を注ぎ、ウォーターサーバーのHOTのボタンを押して芋焼酎のお湯割りを作る。
「いや、四班の人に借りたらしいよ。でね、私、めっちゃ運んでたらくっつき虫だらけになってて、柴田さんのおじいさんに『えらいことなっとるぞ』って言われてさ。」
「柴田さんって木下さん家の奥の?」
「そーそー、いつも奥さんとお散歩してるでしょ、白髪の。奥さん大病された後で体力つけないといけないんだって、仲良いよね。」
「そんでいつも二人で散歩しとるんやな。」
「そうそう。で、パッカー車きて、回収もまたあれ大変じゃん。山田さんがクルクルって草の塊を固めてて、そいつを男の人二人でよいせってやって。あの中国人の旦那さんとかが。」
「おーそうや、俺、それいつもやるやつや。杉本さんとこと二人で。」
「あ、杉本さんとこ、自治会ぬけたらしいよ?」
「え、マジで?」
そう言いながら、冷蔵庫から6Pチーズを取り出し、がさごそとおやつ関連の中から「柿の種わさび味」を出してくる。
「ナイス! まー、言うても夫婦だけだしね。」
「まー、そっか。あの、ひよちゃんとこの隣の人は?あの人…誰やったっけな…んーと…。」
「あー誰やっけ…、あれでしょ?青のミニクーパーのとこ。」
「そうそう。あそこって子ども大きいよな?」
「うん、だいぶ大きい。うちと全然かぶってないと思う。」
「あの車、もうちょい内に停めれんのかね。」
「あー、ね。」
そこまで話して、夫はおもむろに焼酎カップを持って、いつものようにテレビの前の座卓へ移動する。私も私で、そろそろお風呂に入ろうと、テーブルを片付けはじめた。
私たちはこの団地に暮らしてもう17年くらいになるというのに、探り探りなのだった。
お風呂から出て、金木犀の香りのハンドクリームをぬりぬりしていたら、急にバッと夫が振り返って言った。
「石川さんっ!!
…やっと思い出した!」