月のもの。
「ただいま...」
引きずるような重い足どり。帰宅すぐに、音で何となくわかるようにまでなってしまったりょうこさんの疲労度。
「おかえりなさい。おつかれさま。」
「うん...ちょっと寝る...」
「え?着替えないんですか?」
と言うのも聞いてなくて、ソファーにバフッと倒れ込む。だいぶお疲れのご様子だ。
今夜は、手羽元をホロホロに煮込んだカレー。朝から仕込んで、余熱調理でしっかりとホロホロになって、うまく出来たんだけど...。
ソファーの上で猫みたいに丸くなったりょうこさんに、タオルケットをかけると、おもむろにりょうこさんは耳に触れる。ピアス外して、の合図。ゴールドの丸いピアスを外すと、今度は反対側を向いて、片方も外す。髪を耳にかけて。
「疲れた。生理きた。」
「ありゃ、頭痛いですか?」
「お腹痛い。」
「冷えちゃったんですね、お風呂しましょう。
温まったら楽になるかも。」
「かおるくん、胸が苦しい。」
そう言って、りょうこさんは背中を向ける。
「外して。」
「あぁ、はい。」
ブラウスの上からホックを外すと、
「手馴れたものね。」
と、りょうこさんはクツクツ笑う。まったく...。
お風呂のお湯をためながら、そうめんでも茹でておこう。白だしの温かいにゅうめんなら、きっと食べられるだろうから。
「かおるくん、一緒に入る?」
「いいから、ゆっくり温まってきてください。」
「はぁーい。」
生理痛なんてほとんどない、って人もいるけれど、りょうこさんの場合、はじめの1日2日はだいぶしんどそうだから、ピルでも飲んだら楽になるだろうのに、「病院イヤなんだもん」と乗り気ではなくて。一度一緒に行った方がいいかな...。それなら行くって言ってくれるかな...。
ゴロゴロゴロゴロ!
遠くで鳴っていた雷が、だいぶ近くなってきた。
ピカッ!!
ドォーーンッ!!
近くに落ちたみたいな音。
「わっ!わーー!」
ガチャ、バタバタとバスタオルを羽織って濡れたままのりょうこさんが慌てて出てくる。
「ちょっと、りょうこさんっ!」
「かおるくん、落ちたよ、今っ!
ねっ!絶対、落ちた!」
りょうこさんはそのまま、ベランダへ続く窓まで行って、カーテンを開けて外を見る。
「えっ。ちょっと、りょうこさんっ!」
「どこに落ちたんだろーね!わっ!光った!」
バスタオルを羽織っただけで、そんな無防備な姿を窓に晒すとか。僕は慌てて、バスタオルでしっかり包んで、カーテンを閉める。
「外から見えますって!」
「イナズマ見たかったのに。」
「服きてください。ベチャベチャですよ。」
「はぁーい。」
クツクツと笑って、の頭をポンポンと撫でるりょうこさんの顔色はよくなり、だいぶ楽になったみたいだ。まったく...。
たまごでふんわりと綴じたにゅうめんを、ふぅーふぅーと、二人で食べた。
「にゅうめんってさ、
なんでこんなに優しいんだろうね。」
「それは、僕が作ったからですよ。」
「ふふふ。そうね。」
☆。.:*・゜
「りょうこさん、おやすみなさい」
「おやすみ、かおるくん」
シングルベッドは狭くて、けれど小さなりょうこさんと僕はパズルみたいに収まって。
お腹が冷えないように手をまわす。
「りょうこさん、今度、病院いきましょう?」
「えー、やだよ。」
「僕も行きますから。」
「かおるくん...。いいよ、自分でいくよ。」
「僕、大丈夫です。」
「かおるくん...。」
振り返って頬を撫でてくれた。
「ありがと。ちゃんと行くから。おやすみ。」
そう言って、お腹に当てた僕の手を握って、そのまますぅすぅと寝息をたてはじめたりょうこさんだった。
すぅすぅ。
愛おしい。
病院か…。
なにかと大変だ、女性であるということは。