【読書感想文】わたしたちは、海
『明け方の若者たち』の著者、カツセマサヒコさんの小説集です。
海の街での、七つのストーリー。小学生や、高校生、女性や男性、親子や親友。彼らの近くには海があり、そして彼らは「海」である。
私は、海無し県に育ち、近くに海のある暮らしというのをしたことがない。けれども、いろんなところへ旅行へ行くと、そこには必ずと言っていいほど海があった。
道路沿いに海が見えてくると、「わぁ!海ー!」と叫んでしまうほどテンションがあがる。キラキラと太陽を反射して、それはそれは大きくて、平らに広がる海をしばし見つめてしまう。海風。
太平洋も日本海も、沖縄の海も、能登の海も、神戸の海も、訪れたそこには私たちがいた。
そんな自分の記憶の中の海を辿りながら、七つのストーリーのそれぞれを味わっていた。自転車をこいで太ももがパンパンな小学生になってみたり、先生目線で見てみたり。とくにパン屋を営む父親には、とても共感するところがあった。
自分が子育てをしながら、自分の親との関係を振り返って、そのわだかまりがゆっくり溶けるような感覚を描いていた。彼の妻がそれをふんわりと掬ってくれて、素敵な夫婦だと思った。さすがあの凪斗くんのパパとママだ(読んでいると自然とあの凪斗くんになるから面白い)。
「渦」を読んでいたらまた、あれ…この子って…と思った。あのよもや。そういう仕掛けが嬉しい。
少し前に、村山由佳さんの『ミルク・アンド・ハニー』を読んでいたからか、奈津さんと梓さんがダブって見える。自立した大人の女性が、水面下でバランスを崩してしまう危うさにヒリヒリするけれど、最後にはしなやかな人間味を感じてしまうような。
このところ、私自身がユラユラしていて、夜中にふいに目が覚めて得体の知れない不安におそわれたりしていた。これって更年期なんだろうか…とか思ったりしていたりしたけれど(そういうお年頃になってきているのだし)、最後の『鯨骨』を読んで、なんとなく腑におちたものがあった。
相手にとって自分は…とばかりを考えて自信をなくしたりしていたけれど、私が忘れなけば、それでいいって思えた。自分が大切に思っていれば。
海には行かなかったけれど、
海を見に行ったときのような、
「なんとなく、なんとかなる気がしてきた」
みたいな気持ちになれる本だった。