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秘密のドライブ。
タモリさんじゃあるまいし。
なんだか大きなサングラスを掛けさせられて、助手席の私は縮こまる。
悪いことしてる、みたいじゃん。
「もういいぞ、外して」
運転席の彼は、それでもまっすぐ前を見ながら、授業中みたいな言い方で。
「先生みたい」
「先生はやめろ」
少しだけ優しい声になって、チラッとだけこっちを見た。
なんとなく、彼の左腕に触れる。
そっと、手を繋いでくれる。
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「藤本!ちょっと」
授業の終わりに、大きな声で呼ばれて、提出物は出したし、なにかしでかしたのだろうか…と「はい…」と行くと、
「ここに仰向けになりなさい」
先生の正座する膝あたり。
おそるおそる仰向けになる。
彼はかさかさした暖かな両手を、私の両耳あたりに添えて包み、ぐらんぐらんと頭部を揺らしながら
「力抜け」
と逆さから目を合わせ、私は何するの?と、とっさに先生の膝を掴む。
彼はぐらんぐらんと私の頭部を再び揺らし
ゴキゴキッ!!
私の首の音が響いた。
周りで友達が「うわ!」「おわっ!」とか見ていた。
「首、楽になったか?」
マット運動の授業中、私が首を寝違えて痛い痛いって言っていたのを先生は聞いていたようで。
「みんなは真似するなよ?
俺はちゃんと資格とってるからな」
と、さっさと立ち上がり行ってしまった。
あれから。
部活の前に、先生はふらりと外にいて、何気なく話すうちに、彼の口角のできものが気になって、
「先生、痛そうだよ?」
と口を指さすと、ふいに
「弱ってるわ、オレ…」
と小さく言って、できものを摩る。
オレって。
「大変なの?」とか「忙しいの?」とか、それからは、顔を合わせる度に彼を心配するような、個人的な会話が増えていった。
オリンピックだとか、偉大な兄だとか、彼は私の知らない世界をポツポツとこぼした。
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休学届けを出して、しばらくして、ふいに先生が気になって名簿の番号に電話をかけた。
「会いたいな」と言うと
「うん、オレも」と言った。
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タモリさんみたいなサングラスをかけた私は、彼の助手席で。
「ねぇ、先生どこいくの?イハラせんせ。」
「先生はやめろ」
まっすぐ前を向いているくせに、にやついて
高速に乗り、しばらくして、降りて。
「もういいぞ、外して」
ウィンカーをとめて、車を駐める。
「タモリさんみたいだよ」
「見られたら不味いだろ。
ごめんな。
オレだって一応…」
優しく頭を撫でる手は、あの時、私の両耳を覆った手と同じで。カサカサで暖かい。
シートベルトを外して。
近くを、大きな飛行機が離発着していく。
近づいた唇の端がまた荒れていて、
「痛い?大変だね、先生」
と嫌味を言う私の口を、塞ぐ。強く。
「ちゃんと待つから、お前が成人するまで」
「うん、わかった」
そっと、口の端に触れた。
いつから好きだったの?