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『天』が介在する国家シュミレーション小説 十二国記 『風の海 迷宮の岸』

十二国記 その特異な設定

先月『十二国記 30周年記念ガイドブック』なるものを買いました。
一部品切れの書店などもあったらしく、それなりの注目を集めた本と言えましょう。
その中の『風の海 迷宮の岸』を紹介するページで、気になる見出しを見つけのです。

政治に「天」を介在させる、壮大なシュミレーション
ーもし統治者選びに超越的なものの意思が働いたら?「十二国記」はそんな国家のシュミレーションを緻密に展開した政治小説でもあるのだ。

新潮社 「十二国記」30周年記念ガイドブック 11P

なるほどぉ……。
ちょっとSFっぽい。

『風の海 迷宮の岸』巻末に収められた、井辻朱美さんの解説もその傾向を加速させる。

冒頭の地図の人工性のほか、麒麟なる神獣が王を選ぶこと、男女がいるのに子供は木に生ること、神籍・仙籍に入ればそのまま不老不死に生ること、覿面の罪によって他国侵略がありえないことなどである。これらは「十二国記」を画然と偽史から分つものである。

小野不由美 「風の海 迷宮の岸」 解説 井辻朱美 380P

解説は続いて、この設定が誰のためのものなのかに触れる。

子供が木になるという設定で、女性が妊娠して子供を育てるということもなくなるため、男女どちらでも国王といった重要なポジションに就け、神籍・仙籍となることで不老不死になるため、第一作の主人公であるの葉子のような女子高生でも王に選ばれることに違和感はなくなる。

辻井さんはこれがライトノベルを読む少女読者のハンデを解除するためのものだと考察する。面白い。

聞けば聞くほど、ファンタジーものとしての異質さ、独自のルールの存在が興味深い。

十二国記の世界では、不老不死の人間と、生老病氏のある庶民の世界に二分されている。無理やりSFっぽく言い換えると、遺伝子工学やサイバネティクスで不死化したエリートが支配する世界なのだ。
これらの相剋が描かれるのは、続刊においてらしく、これから読むつもりなので、楽しみにしておこうと思います。

他にも、能動的に行動する王と受動的に行動する麒麟の物語で、男女の役割が逆になっているという指摘も面白い。泰麒の「王」に対する畏れと親しみの入り混じった感情は恋慕のようで、自分を選んでくれる相手をじっと待つというのも、少女マンガのヒロイン的かもしれない。

ストーリーなどもまとめてみますので、参考までに

ストーリー

祖母に叱られ、雪の降る庭に立たされていた。
洗面所の床に水をこぼしたのは自分ではなかったのに、祖母は僕を責める。
嘘をつくのはいけないと当の祖母に教わったので、犯してもいない罪を認めるのはなお躊躇われた。

塀の隙間から白い手が手招きしている。
人が入れるような隙間はないはずなのに。
外は寒い。けど、向こうからは暖かな空気が流れてくる。

この世界には麒麟と呼ばれる神獣がいて、白汕子はそれを守護する女怪だった。
汕子は上半身は人の女、下は豹のような獣である。

麒麟は捨身木という木に生り、産まれてくる。
しかし麒麟の生った卵果が、蝕と呼ばれる、この世界と蓬莱(わたしたちが住んでいるような現世)が繋がる天災に巻き込まれ、別世界に飛ばされてしまう。

そして10年も過ぎた頃、ようやく麒麟の姿を蓬莱で見つける。
麒麟は高里要という男の子で、蓬莱で生を受け暮らしていた。
それを汕子が再び連れ戻す。

泰麒(泰という国の麒麟)は現世では家族や学校に馴染めず、居心地の悪い思いをしていた。そしてその理由が今わかった。
自分は向こうの世界の人間じゃなかったんだ。
泰麒は家族が恋しかったが、もうすでに別離を受け入れ始めていた。

麒麟には王を選ぶという役目がある。
泰麒もこれからやってくる王の候補者の中から、誰かを選ばなくてはならない。
しかし、泰麒は転変ができず、使令を持たない。

転変とは人の姿から、麒麟の姿へ変わること。
司令とは妖魔を折伏して、使い魔として従えることである。

泰麒はその両方ができないままだった。
自分は出来損ないの麒麟なのではないか。
周りの世話をしてくれる女仙たちに申しわけがなかった。

泰麒は同じ麒麟である、景麒から転変の仕方を教わる機会を得る。
しかし転変の仕方は教えられるものではなく、景麒は力になれなかった。

家に帰りたい……。景麒と話すうち、寂しさが募り、泰麒は泣き出してしまう。

景麒は使令の折伏も泰麒に教えようとする。
様々な呪文を教えるが、泰麒に折伏する妖魔は一匹も出ない。

折伏するには、妖魔と対峙し睨み合い、気迫で圧倒する必要があるのだ。泰麒には気迫が足りなかった。

景麒が去り、夏至がやってくる。王の選定が始まろうとしていた。

王の資格を持つ者には、天命がある。麒麟はそれを察知することで王を選ぶ。
何人かの者が泰麒の前に参上するが、未だ天明はないままだった。

泰麒はその中で、李斎という女将軍と、驍宗という禁軍ー王直属の将軍と知り合う。

二人に天明はなかったが、泰麒に外の世界の様々なことを教えてくれる。
李斎は優しく、泰麒は彼女が王であればと思うほどだった。
驍宗からは人を威圧する覇気と、優しさの両方を感じた。泰麒は驍宗からはただならぬ畏れを感じる。

李斎と驍宗は強い妖魔を捕らえ、自らの騎獣にするため、狩に出かける。
近くに良い狩場があるのだ。
泰麒もそれに同行することに。

洞窟の中に足を踏み入れると、そこには伝説で語られるような強大な妖魔が潜んでいた。李斎と驍宗でさえ敵わず、地に倒れ伏してしまう。

そこへ泰麒が割り込む。
折伏のための呪文を唱え、妖魔と対峙する。
はるかに格上の相手だが、泰麒は怯まない。
後ろには、自分に親切にしてくれた李斎と驍宗がいるから。

泰麒が唱える呪文に、場の張り詰めた空気に変化が生じてゆく。
そしてとうとう、伝説と語られる妖魔を自らの手で折伏することに成功する。

驍宗は王に選ばれなかったため、泰麒の元から去らねばならなかった。
驍宗は仙籍を返上し、普通の人間に戻るつもりだという。
麒麟には寿命がなく、永遠に生きる。なので仙籍を手放した人間とおそらく二度と会うことはなくなるだろう。
驍宗と別れたくなかった。

泰麒は女仙や汕子をふり払って、驍宗を追う。
その姿は、見る間に美しい麒麟の姿に変わっていく。

泰麒は驍宗に跪いて、王の契約を交わしてしまう。
天命がないにもかかわらず、自分の都合で驍宗を王に選んでしまう。

周りの皆が新王の即位を祝ってくれるが、泰麒はひとり罪悪感に押し潰されそうだった。
泰麒は耐えられず、景麒にだけそのことを打ち明ける。
景麒は驚いた様子で、その場は立ち去ってしまう。

しばらく経って、泰麒は泰王となった驍宗に呼び出される。
そばには延国の王、延王とその麒麟、延麒が訪ねてきていた。

延王は泰麒に、お辞儀を求める。
頭を下げて、礼をしろと言う。

しかし泰麒は、なぜか頭を下げることができない。
何かが押しとどめようとしているようだった。

礼をしない泰麒を無礼だと、延王は無理やり跪かせようとする。
しかし、どうしても下がらない。

泰麒は恐ろしくなって、恐怖に青ざめる。
そこに延麒が割って入る。

麒麟という生き物は、王以外の人間には絶対に跪かない。
そのことを教えるために、景麒が延王にたのんで一芝居打ったのだ。
天明とは、何か前触れのあるようなものではなく、直感でしかないものなのだ。

泰麒は自分が正しい王を選んでいたことを知る。罪悪感は消えてなくなった。
ようやく、晴れやかな気分で王と向かい合える。

即位の儀式があり、広場には大勢の人たちが詰めかけた。
新たな王朝が号されると、民衆は歓喜に沸いた。

後記

基本SF小説とかバンバン読んで、感想と考察とかだらっと投稿しようと思っているのですが、いきなりファンタジー小説の記事を書いてしまうという……。
ディファレンス・エンジンも前半をまとめただけで、後半がまだできてない。
もう少ししたら後半を載せます。

SFは好きだけどファンタジーは幼稚でしょ。みたいに思う人がいたら、ぜひ十二国記を手に取ってもらいたい。本来、SFとファンタジーの楽しみとは近いものであり、SFが好きな人はファンタジーにもハマりやすいのだ。

十二国記はアニメも素晴らしいのでそちらから入門してもらってもいい。
まだシリーズは完結しておらず、新刊を待ち侘びるという、ファンの楽しみにも加わることができるだろう。



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