映画時評『ジョン・ウィック:コンセクエンス』
いつもは眼鏡をして劇場で映画を見るんですけど、うっかり忘れちゃって若干ぼやっとした状態での鑑賞になってしまった。残念。
ジョン・ウィックシリーズは今作で4作目となり、5作目の予定もあるらしいが、果たして……。
映画の冒頭には、これまでの3作を振り返るダイジェスト映像がついていて、シリーズの内容うろ覚えだよ……という方でも最低限楽しめるようになっています。
とはいえ、しっかり復習して見にいくのがいいと僕は思います。そのほうが絶対楽しい。
前作パラベラムをサッと復習すると、主席連合の差し向ける精鋭と、ジョン、NYコンチネンタルが正面衝突し、ジョンたちはこれをことごとく撃退し、協議に持ち込むことができましたが、コンチネンタルのオーナー、ウィンストンが仕方ないとはいえジョンを裏切る。
ボロボロの状態でジョンはバワリー・キング(ホームレスの暗殺者集団)に、匿われ、復習を誓うところで終わりました。
今作コンセクエンス。辞書を引くと“(続いて起こる)結果”などと意味が出てきます。そもそも殺し屋に復帰したくなかったジョンが、あれよあれよという間に撃ったり切ったり叩いたりを4作も続け、雪だるま式に事件が事件をうみ、そしていよいよ今作で、最後にたどり着いた決着を描く。といったところでしょうか。
映画の始まりはパラベラムの直後、ジョンの怪我が治ってしばらく経った後から始まる。
反旗を翻したジョンは、まずヨルダンで首長を殺害。
ジョンが生きていることに気がついた主席連合は、NYコンチネンタルをなんと爆破。
主席連合から全権委任された“侯爵”(ビル・スカルスガルド)なる人物が、ジョンの暗殺を請け負い、盲目の殺し屋ケイン(ドニー・イェン)を雇う。
ジョンは、大阪コンチネンタルの支配人シマヅ(真田広之)を頼り、日本にやってくる。
最初の見せ場が、この大阪でのアクションだろう。
例によって“間違った日本観”丸出しのルックで、『ブレードランナー』的世界のホテルが舞台となる。(ホテルの殺し屋たちは、白鞘の刀、弓、手裏剣などで戦います。相撲取りがガードマンです)
大阪コンチネンタルも、NY同様、ジョンを匿ったということで、防弾装備の軍団を送り込まれ、乱闘になります。
このなかにケイン(ドニー・イェン)もジョンを狙ってやってくる。
ケインはやっぱりというか、『座頭市』を意識していて、それにドニー・イェンが味付けをしてオリジナルなキャラに仕立てたようです。
強いんだかどうなんだかよくわからず、飄々としているキャラで、なかなか愉快。
さらにドニーはキアヌと拳を交えるだけでなく、真田広之ともバトってくれます。
脇役と脇役がぶつかる展開のアツさは説明不要。
最近の『ブレット・トレイン』に出てた真田広之がかっこよすぎたのがあって、今回もいつ刀を抜いてくれるのか、登場した時からワクワクしてました。メガネがいい。
もう一人、“名もなき男”を名乗る(名乗ってないけど)追跡者(シャミア・アンダーソン)が、ジョンを助けます。
トラッカーはまたもや犬使いの殺し屋で、前作同様“犬・フー”を見せてくれます。
そしてこれもお決まりですが、ジョン・ウィック世界で愛犬家の犬を粗末にしたら、確実に死を招きます。
あなたが殺し屋なら、犬好きだけは敵に回してはいけない。
大阪から逃げ延びたジョンは、NYでウィンストンとキングに合流。
ジョンは追手を差し向ける侯爵を殺そうとしますが、ウィンストンが「侯爵を殺しても別の人間にすり替わる。ヒドラのように次々に首が生えてくる」と諌め、“決闘”を提案します。
主席連合の古いしきたりで、連合同士の抗争を避けるため、一対一の決闘で揉め事を解決するというシステムを利用しようというのだ。
そのためには、まずジョンが連合の誰かの傘下に入らねばならない。
ジョンは3作目に出てきたルスカ・ロマ、ジョンがかつて身を寄せていた場所を頼り、そこのベルリン支部で取引をします。
キーラ(スコット・アドキンス)という男を殺す代わりに、自分を復帰させろというわけです。
ジョン・ウィックの監督はチャド・スタエルスキというキアヌのスタントダブルを務めていた人なんですが、スタエルスキ。ロシアというか、東欧っぽい雰囲気の名前ですよね。アメリカ人ではあるけど、このルスカ・ロマのスラヴっぽい雰囲気とでもいえばいいのだろうか、ジョン・ウィックにはアメリカっぽいけばけばしさがなく、昏く、血生臭く、因襲めいた世界を感じる。
意図的に監督が自身のルーツを取り入れているのだとしたら、非常に面白い。
さて、ジョンはキーラが根城とするナイトクラブ“天国と地獄”に乗り込みます。
そう。またナイトクラブです。
ジョン・ウィックシリーズは監督の手癖といえばいいのか、それが今回は目立つ。アクションにしてみても、基本の格闘戦や車を使ったアクション(キアヌは毎回車に轢かれてる)、犬(前作でも見た)、鏡、ガラス張りの部屋での格闘など、こういった要素をお馴染みのジョン・ウィック世界とみるか、くどい繰り返しとみるか、うーむ……どうだろう。
アクションという点でいえば3作目のパラベラムが個人的には出色の出来で、ジャッキー映画的なモノを使ったコミカルなアクションと、ジェイソンボーン的なリアリズムのうまい中間で、ニヤけてくる小気味よさがよかった。
ジョンは“天国と地獄”で、キーラ、ケイン、トラッカーと共にポーカーのせきについて勝負しようとします。ポーカーシーンは名場面になりがち。
なのですが、おめえらなに真面目にポーカーなんかしようとしてんだよ!と言わんばかりに、キーラがイカサマを自ら暴露、すぐ銃撃戦になります。
ポーカーで勝負しないのかよ!
とにかくジョン・ウィックはサスペンスを追わない。チャプター2では、バワリー・キングがジョンを助けたときに銃を渡してくれるのですが、弾を7発しかくれない。
7発でどう切り抜けるのか。緊張が高まる。
と思っていたら、一瞬で使い果たして敵の銃を奪い、いつもの格闘を始める。
そこに戦略や駆け引きはなく、一点突破のアクションのみが展開する。キアヌ無双を楽しむ映画になる。
キーラを倒したジョンは、パリ、トロカデロ広場で夜明けに、決闘の権利を勝ち取ります。
しかし侯爵は、決闘の代理闘士としてケインを指名し、ジョンがパリへ到着するまでの間に追手を差し向けて、妨害しようとします。
アパルトマンでの戦闘シーンでは、真上からの俯瞰視点でアクションを見せるといった、奇抜な演出をするのですが、これあれだ。メタルギアソリッドだ。
メタルギア視点でキアヌが撃ったり蹴ったりする。
そして今回おそらく一番話題になるんじゃないかと思います、“階段のシーン”。
しつこいくらいの追手を交わして、もうすぐ広場に到着かな?と思ったら、クソ長い階段が目の前に待ち受けて、なおかつ横っちょからまだ雑魚敵が湧いてくるという、伝説の殺し屋でさえウンザリする場面。
しかも、ようやくテッペンまでたどり着いたと思ったら、敵に蹴り落とされ、222段を延々転げ落ちるという、映画史上最長の階段落ちに。
火サスだとオーバーキル。100ぺんは死ぬ。
そしてもう決闘に間に合わないというときに、助けに来てくれるのがケインです。
ケインはジョンと昔馴染みなのです。敵と共闘という胸熱シーンまで盛り込んで見せる。
そしてラストシーン。パリ、トロカデロ広場。夜明けと共にジョンが到着。
決闘はオーソドックスなスタイルで、銃に1発だけ弾丸を込めて、お互いに30歩引く。撃ち合うたびに10歩づつ近づいって、相手にとどめを刺した方の勝ち。
さっき、ジョン・ウィックはサスペンスが薄いというようなことを言いましたが、決闘シーンでは駆け引きが発生し、サスペンスがグッと盛り上がります。
ポーカーも、こういう風に見せてはどうだったろう?
結末は劇場でご覧ください。
ジョン・ウィックでチャド監督が成し得た最大の挑戦とは、アクションのミクスチャーではないだろうか。
ドニー・イェン、ジャッキーなどのカンフー映画。ジェイソンボーンやおそらく『ヒート』のようなクライム映画、70年代のスティーブ・マックイーンの映画『ブリット』などの、カーチェイスやガンアクションをハリウッドから。自ら黒澤明リスペクトを公言しているように、日本の時代劇から、殺陣の要素を。さらにパラベラムでは、韓国映画『悪女』をオマージュし、ジョン・ウィックシリーズ全体にも韓国サスペンスの陰湿で血生臭い雰囲気を持ち込む。
このようなあらゆるアクションのミクスチャーを組み立てるのは、おそらく並大抵の仕事ではない。
殺し屋の映画という飽和しきったフォーマットから、未だ新味を出せるというのがもう奇跡的。
ルック、センス、パフォーマンス、この映画でアクションの最前線を確認できるような、そんな映画だ。
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