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なんで今更……『インディ・ジョーンズと運命のダイアル』感想
世間じゃあもうトム・クルーズが話題を掻っ攫ってるそうですが、冗談じゃねえ!ハリソンを観ろ!!清々しいまでに同時代性とかガン無視した、なんで今インディジョーンズ?という急に降って沸いた企画。しかし、ただおもしれぇ映画が見てぇえよ俺は!!!という欲望をひたすら叶えてくれる欲望の揺籃……それでいいじゃねぇか!ということで映画を観てきた感想です。
あらすじ
1944年WWⅡ末期、敗戦濃厚のナチスドイツ軍は、さまざまな歴史的遺物を列車で移送し持ち去ろうとしていた。冒険好きの考古学者インディ・ジョーンズはその時ナチスから『運命のダイアル』と呼ばれる、アルキメデスが作った時空のさけめの発生点を計算できる装置を奪い取り、持ち帰った。
25年の時が経ち、アメリカではアポロ11号の月面着陸成功を記念したパレードが行われていた。70歳となったインディは教授職も引退となり、妻のマリオンとも別居中であった。そんなとき、かつてナチスからダイアルを奪った時に共闘した友人、その娘のヘレナがインディを訪ねてやってくる。
ヘレナは破損した運命のダイアルの片割れのありかを知っていて、インディを冒険へ誘う。そこに再びあの時のナチスの残党であるユルゲン・フォラーが、運命のダイアルを狙って、二人の前に立ち現れるのだった。
感想
幼少の頃から何度もビデオで見ていたインディ・ジョーンズのシリーズ最新作にして、おそらくハリソン・フォード81歳ということで、肉体的に最後の映画になるであろう本作。ハリソンは今回の映画のアクションシーンのアイデアを監督に説明しようとパンチを繰り出して後ろに引いたら、肩の筋肉が裂けてしまったそうでもう限界だ。
『スター・ウォーズ』のハン・ソロ、ブレード・ランナーのデッカードがそれぞれ続編で老いた姿で登場し、インディ・ジョーンズにおいても最後の役を演じることに。
『運命のダイアル』では、爆音のビートルズ、マジカルミステリーツアーでベッドから飛び起き、がっつりジジイになったハリソンの姿を目撃してしまう。時というものを感じざるを得ない。リアタイ世代は尚のことだと思います。
インディ・ジョーンズシリーズ自体、ノスタルジーが根底にあって、1960年代のアメリカン・ニューシネマの暗いテイストを打ち破る、かつての娯楽のハリウッドをもう一度やろうという意気込みのもとルーカス、スピルバーグという若い才能が一発仕掛けたという経緯がある。
一作目レイダースの時代設定は1930年代。1981年公開の映画だったので、随分古い時代を扱うことになる。スピルバーグやルーカスが愛した冒険活劇もの、007やジョン・フォードの映画とかそう言ったものへのオマージュで出来ている。それをスピルバーグの映像テクニックで刷新して、新たな息吹をもたらしたのだ。
敵がナチスというのもそういうことで、タランティーノの『イングロリアスバスターズ』に趣向が近いかもしれない。ナチスをぶっ倒すっていう冒険活劇ものへのオマージュとしての設定。そしてスピルバーグの趣味でもある。第二次世界大戦時に詳しい感じ。そして『運命のダイアル』の敵も、またまたナチスであった。ナチスに協力していた科学者という設定でマッツ・ミケルセンがSSの制服を来ていて、なかなかに良いセンス。いざ飛行機で過去へと行こうとするときにみんなで用意していた制服に着替え出すのおもしろすぎませんか。1945ベルリン同窓会。
飛行機が降り立った先が、まさかの古代ヨーロッパというのも大胆な展開で本当にワクワクしましたぜ。冒険映画なんだもんな、そうこなくっちゃ。この辺の時代のことは岩明均先生の名作『ヘウレーカ』一巻完結でも描かれてておすすめです。
インディが憧れていたアルキメデス先生に邂逅するシーンに込められた思いは、本作の監督ジェームズ・マンゴールド(本作はスピが監督ではない)がそれこそ大人物であるルーカス、スピルバーグの原作を監督する、任されるという思いに乗っかっているような気がして、勝手に涙腺が緩む。
インディもバックトゥザ・フューチャー3のドクみたいに、元の時代に帰らないのかと思ったよ全く。
マンゴールド監督は『17歳のカルテ』『アイデンティティ』とか、どんでん返し形の凝った仕掛けの映画を最初に撮って、『LOGAN』(不死身のウルヴァリンの死、老境を描いた映画として運命のダイアルと通ずるテーマを感じさせる)あと『フォードvsフェラーリ』という傑作胸熱映画の監督もしているということで、実力才能ともに申し分なく、インディ・ジョーンズの最新作を手がけている。スピルバーグの原作と遜色のないくらい、ダイナミックに冒険を展開していると思います。
忘れてはならないのが音楽のジョン・ウィリアムズ。なんか引退するとか言ってたのに、パンフに寄せられた文章を見たら撤回してるし。ジョン・ウィリアムズの音楽は冒険やロマンとセットになっていて、音楽を聴くだけでその世界に誘われる。本作でもバッチリレイダースのテーマが流れます。必聴。
あとパンフレットなんですが、本作のとは別に、過去4作の再販パンフをセットにしたプログラムコレクションも売っていて、買ってきましたよ。A4ポスターが4つもついていてゴージャス。
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今作もまた、タイムトラベルが扱われているという……スパイダーバース、フラッシュと連続で見せられると、時をやり直すというテーマが、時代に通底する何かを象徴しているような気がしてくる。タランティーノのワンハリや、藤本タツキ先生の『ルックバック』が、ループものの想像力を超えて、現実を直接改変するみたいなフィクションを展開させましたが、我々は間違った方向に進んでしまったという認識が大勢の人にあるのかもしれない。この前はバビロン、エンパイア・オブ・ライト、フェイブルマンズと映画の映画というノスタルジーが展開したし、過去を見つめるターンなのだろうか。
『クリスタルスカルの王国』に出ていた息子が本作では雑に片付けられていたのがちょっと悲しい。息子まで登場させたら話がとっ散らかるから仕方ないけど。
最後の作品ではあるんだけど、もうこれで終わりなんだ……みたいな喪失感は感じず、楽しい気分で映画館を後にできるように監督してくれたのが、本当によかった。老いを全面に出すんじゃなくて、最後までヒーローを演じて終わった。