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映画時評2024

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2024年に劇場公開した映画のレビュー記事をまとめたものです。
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記事一覧

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』をみる

早朝のイオンシネマで鑑賞してきました。 時間的にIMAXしか上映しておらず、望外に豪華な鑑賞に。 歴史的な一作である『ジョーカー』の続編として、監督のトッド・フィリップスと脚本家のスコット・シルバーが続投、一作目をどういうふうに更新するのか、非常にたのしみだった。 公開初週に集まった感想はやや否定的な感想が多いようで、遅れて見にいくぼくは惑わされないように、気を引きしめて座席に腰をおろした。 がしかし、満足のいく続編とは言えなかったのが正直な感想だった。 このガッカリ感

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』をみる

おひさしぶりです。3週間ぶりくらいの更新でございます……。 最近はマクニールの『疫病と世界史』『戦争と世界史』などを読んで、世界史の勉強をしていましたとさ。 SF小説はブラッドベリの『火星年代記』とル=グィンの『世界の誕生日』が手元にあって積読本に。 ひと段落したら読みたい。 それで本題は映画です。 もう公開して何週かたってますがアレックス・ガーランド×A24の新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を見てきましたので、それの話をしたいと思います。 (副題がダサいと思うの

『エイリアン:ロムルス』をみる

エイリアンシリーズの最新作は、良くいえば集大成的作品でウェルメイドなSFホラー。悪くいえば、過去作の良いとこどりで、シリーズに何もつけ足さない作品だ。 監督のフェデ・アルバレスが考えたのは、ずばり過去作のオマージュで原点回帰。 原点回帰というと聞こえはいいですが、それは後退ともとられかねないものだ。 ストーリーは、地球から遠く離れた惑星で、奴隷労働をさせられている炭鉱労働者の若者たちが別の惑星に脱走しようとして、エイリアンが襲ったあとの宇宙ステーションにやってくるが、例の

【映画時評】箱男

ぼくがメタルギアソリッドのファンなので、『箱男』といえばスネークだ。 敵兵から身をかくすために、ダンボールをかぶってやりすごす特殊工作員の姿は、シュールでまぬけっぽく、象徴的で、絵面のインパクトがとにかく笑える。 そしてこれはすべて安部公房の小説からきているものだった。 本作は安部公房の原作のなかでも、わりかし実験的な小説になると思う。少なくとも『砂の女』よりむずかしい。 むずかしいというか、終盤でだれが主人公なのか視点人物がわからなくなってしまうので読んでいて混乱する。

【映画時評】インサイド・ヘッド2

思えばヨロコビ以外の感情はだいたいすべて、ネガティブな感情だ。 イカリ、カナシミ、ビビリ(恐怖)、ムカムカ(嫌悪感)。 思春期をむかえたライリーのもとにはさらに、シンパイとイイナー(羨望)ダリィ(アンニュイ)ハズカシが大挙して押しよせ、リーダーであるヨロコビを追放して、ライリーを操縦しはじめる。 ストーリーは、さまざまな記憶のボールからめばえた撚り糸があわさって、ライリーの人格を形成している「ジブンラシサの花」をつみとられ、“記憶のはずれ”に捨てられてしまったのを、ヨロコ

【映画時評】マッドマックス:フュリオサ

前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、アクション映画の極北、一つの到達点を示した作品といえて、そのルーツはジョン・フォード監督による1939年の映画『駅馬車』にまでさかのぼる。 駅馬車に乗り合わせた搭乗客と、馬を駆るアパッチ族との銃撃戦のクライマックスシーンは、“移動しながら戦う”というアクション映画の定石を打ち出すものだった。 ジョン・フォードのアクションに魅せられた監督は、スピルバーグとか(フェイブルマンズのラストね)黒澤明、宮崎駿まで、それぞれ息もつかせぬスペ

『WMH』とタル・ベーラの映画

タル・ベーラは1977年から活躍するハンガリーの映画監督で、代表作である『サタンタンゴ』は7時間18分という長大な作品として知られている。 すでに引退ずみですが、名実ともに巨匠の域にある監督といっていい。 2022年には日本初公開だった、『サタンタンゴ』以前の過去作が一挙上映し、再評価の波を感じる。僕はこのとき初めて名前を耳にして、実際映画に触れるのは今年になってようやくだった。 今回は『ヴェルクマイスター・ハーモニー』を劇場で見ることができたので、その感想をメインに、予

【映画時評】REBEL MOON

『三体』が見たくてネットフリックスを契約した私ですが、せっかくなので、契約を切る前にほかにもなにか観たい。 そういえばザック・スナイダーの新作があるなあと思って、期待せずに『REBEL MOON』を再生ポチ。 感想をひとことで言うと、ボンクラオタク映画だった。なかなか笑かしおるので、つい感想を書きたくなってしまった。 『REBEL MOON』はNetflixオリジナルの映画で、二部作存在する。 パート1は去年の12月に配信、パート2は今月配信された。 両方一気に見たので、以

最近の映画はなぜ長いのか【映画時評】『デューン 砂の惑星PART2』

原作は1965年出版のフランク・ハーバートによる小説で、幼いときにこれを読んだ監督が、ずっと映像化したいと心に念じていた一作である。 過去に二度の映像化と、一つのボツ企画が立ちあがったことがあり、初めは1976年に『ホドロフスキーのDUNE』として結実するはずだったが、未完のプロジェクトとなってしまった。 ホドロフスキーといえば、『エル・トポ』や『ホーリーマウンテン』といった、シュルレアルなアート映画を撮る監督で、その監督が急にSF超大作を撮るという暴挙に出るわけですが、こ

【映画時評】哀れなるものたち

去年から楽しみにしていたヨルゴス・ランティモスの新作。かれの過去の映画を見ていて感じたのは、キューブリックのような、ドライで突き放した人間描写と、皮肉っぽいユーモアで、ギョッとする映画が多いことだった。『女王陛下のお気に入り』と『聖なる鹿殺し』を初めにみたものの、これははずれだった。それからしばらくして『ロブスター』を観たとき、この監督のことが好きになった。『ロブスター』はラブ(ブラック)コメディとでもいいたい、ディストピア世界で繰り広げられる、バチェラー争奪戦で、独身者は4