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「特攻隊に捧ぐ」坂口安吾の叫び

お正月だからこそ、考えるべき戦争と平和


青空文庫で読みました

坂口安吾 特攻隊に捧ぐ

昭和初期に活躍した「無頼派」の代表的作家である坂口安吾のエッセイ。「坂口安吾全集 16」[筑摩書房、2000(平成12)年]に収録。元々、「ホープ」に掲載予定だったものが、GHQの検閲により「軍国主義的」であるとして削除されたものである。
「戦争は永遠に呪うべきものであるが、かつて諸氏の胸に宿った「愛国殉国の情熱」が決して間違ったものではない」と締め括っている。
今年の夏で、戦後80年。
いまこそ読むべき一冊ではないだろうか。

死にたくない本能

自殺ですら多くは生きるためのあがきの変形であり、 死にたい兵隊のあろう筈はないけれども、若者の胸に殉国の情熱というものが存在し、死にたくない本能と格闘しつつ、至情に散った尊厳を敬い愛す心を忘れてはならないだろう。

戦法としての特攻隊

私はだいたい戦法としても特攻隊というものが好きであった。
人は特攻隊を残酷だというが、残酷なのは戦争自体で、戦争となった以上はあらゆる智能方策を傾けて戦う以外に仕方がない。
特攻隊よりも遥にみじめに、あの平野、あの海辺、あのジャングルに、まるで泥人形のようにバタバタ死んだ何百万の兵隊があるのだ、戦争は呪うべし、憎むべし。再び犯すべからかれるず。その戦争の中で、然し、特攻隊はともかく可憐な花であったと私は思う。

愛国の詩人

彼らは白ら爆弾となって敵艦にぶつかった。
否、その大部分が途中に射ち落されてしまった であろうけれども、敵艦に突入したその何機かを彼等全部の栄誉ある姿と見てやりたい。

(中略)

彼等は基地では酒飲みで、ゴロツキで、バクチ打ちで、女たらしであったかも知れぬ。やむを得ぬ。

けれども彼等は愛国の詩人であった。
いのちを人にささげる者を詩人という。
唄う必要はないのである。

最高の人の姿

私は無償の行為というものを最高の人の姿と見るのであるが、日本流にはまぎれもなく例の 滅私奉公で、戦争中は合言葉に至極簡単に言いすてていたが、こんなことが百万人の一人もできるものではないのである。
他のためにいのちをすてる、戦争は凡人を騙って至極簡単に奇蹟 を行わせた。

強要せられたいのち

人間が戦争を呪うのは当然だ。
呪わぬ者は人間ではない。
否応なく、いのちを強要される。
私は無償の行為と云ったが、それが至高の人の姿であるにしても多くの人はむしろ平凡を愛しており、小さな家庭の小さな平和を愛しているのだ。
かかる人々を強要して体当りをさせる。
暴力の極であり、私とて、最大の怒りをもってこれを呪うものである。
そして恐らく大部分の 兵隊が戦争を呪ったにきまっている。

けれども私は「強要せられた」ことを一応忘れる考え方も必要だと思っている。
なぜなら彼等は強要せられた、人間ではなく人形として否応なく強要せられた。
だが、その次に始まったのは彼個人の凄絶な死との格闘、人間の苦悩で、強要によって起りはしたが、燃焼はそれ自体 であり、強要と切り離して、それ自体として見ることも可能だという考えである。
否、私はむしろ切り離して、それ自体として見ることが正当で、格闘のあげくの殉国の情熱を最大の讃美を以て敬愛したいと思うのだ。

また強要せられたる結果とは云え、凡人も亦かかる崇高な偉業を成就しうるということは、大きな希望ではないか。大いなる光ではないか。

私は戦争を最も呪う。
だが、特攻隊を永遠に讃美する。

同年諸君よ、この戦争は馬鹿げた茶番にすぎず、そして戦争は永遠に呪うべきものであるが、

かつて諸氏の胸に宿った「愛国殉国の情熱」が決して間違ったものではないことに最大の自信を持って欲しい。

要求せられた「殉国の情熱」を、自発的な、 自らの生き方の中に見出すことが不可能であろうか。それを思う私が間違っているのであろうか。

尾崎考察&感想

坂口安吾は堕落論の中でも、身を委ねて争うことのできない運命により、命を失う美しさというものを描いていました。

泥人形のように、海辺やジャングルで死んでいった兵隊と比べれば、特攻隊により命を捨てていく兵隊は美しく、詩人であったと述べています。

そこには、強要せられた命という背景があるものの、壮絶な死との格闘や人間の苦悩があり、そこに命の燃焼があったからだと説いています。

無償の行為こそが最高の人の姿と見ている安吾にとって、誰かのために命を捨てることは、それだけで本来の人間の姿なのだと言っているのです。

殉国の情熱を自発的に自らの生き方に見いだすことができたら、強要されずとも命の燃焼があるのではないか、そんな生き方を目指すことが理想ではないか、と安吾は言います。

日本人が必死に守った日本という国と、日本人の誇りを持って、殉国の情熱が持てる国づくりをしていく義務が、私たちにもあるのだ、という事を安吾から学んだ作品でした。

お正月に、平和について、もう一度考えてみませんか。


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尾崎コスモス/ライター・小説家・文筆家
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