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【植物と短歌】寒椿
世界を構成する色が他の季節と比べて少ない気がする冬。その中で花を咲かせる植物は目立つ。
カンツバキはそんな植物の一つだ。
常緑のよく茂る低木で, 高さは1~3mになる. 花は八重咲き, 桃色から濃紅紫色で, 名前のように冬に咲く. 子房には毛がある. 原産地不明の園芸種で, 中国大陸から渡来したとの説もあるが, ヤブツバキとサザンカの雑種後代とも考えられている. その実生後代の花色や花形には変異が多く, 園芸的にはサザンカとして扱われることもある.
植え込みの植物としてよく利用されるとのこと。あなたのいつもの通り道にも植えられているかもしれない。
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一般的にツバキと聞いて多くの人が思い浮かべる植物は恐らくヤブツバキで、これはカンツバキとは異なる植物である。
違いの例を挙げると花期と花の散り方などだ。
ヤブツバキが冬の終わりから春にかけて花を咲かせるのに対し、カンツバキは秋から冬にかけて花を咲かせる。
そしてヤブツバキは散り際花全体がまるごと落下するのに対し、カンツバキは一枚ずつ花びらを散らす。
カンツバキはどちらかというとサザンカに近い特徴を持っているのだ。
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では、カンツバキの登場する短歌を見てみよう。
まずは和歌。(ヤブ)ツバキは万葉集の時代から詠まれているが、カンツバキと詠まれているものは見つけられなかった(そもそも起源が不明なためいつから日本に生育しているのか分からない)。
だから近・現代短歌においても(ヤブ)ツバキとカンツバキはあまり区別されていないかと考えたが、
寒椿咲きそめにけり幽かなるねがひごともちて生きつがんとす
くれなゐを冬の力として堪へし寒椿みな花をはりたり
寒椿を生垣とする路地の家いつしか異る表札の文字
寒椿花落しつつ咲きており母ひとり住むふるさとの家
きちんと「寒椿」と詠まれているものがあった(ちなみに「寒椿」は冬の季語)。
ただ、恐らく寒い中咲くツバキ、という意味合いで詠まれているだけで、別物だと認識して詠まれているわけではないかもしれない。例えば4首目は「花落し」とわざわざ詠み込んでいるので、この「寒椿」はヤブツバキを指しているのではないかと思う。
またカンツバキは「冬椿」とも呼ばれる。こちらも冬の季語である。
冬椿枯れそめ、されどまぼろしの坑夫が夢をみる煉瓦館
カンツバキの登場する近・現代短歌は、「寒」に引っ張られるのか苦境の中で耐えるというような歌が多い気がした。
また植え込みや生垣に利用される植物ということで、家と一緒に詠まれている歌が確認できた。
さらにヤブツバキの話ではあるが、ツバキは古くは神聖な霊木として崇拝の対象とされたり、不老不死の理想郷に生える木とされていたらしい(平田喜信, 身﨑壽. 和歌植物表現辞典. 東京堂出版, 1994, p218)。
そういった印象が現在も残っており、5首目のように幻想的な歌に詠み込まれることに繋がっているのかもしれない。
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