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【植物と短歌】ツユクサ

ツユクサは別名「月草」や「蛍草」とも呼ばれる青紫色の花を咲かせる植物だ。

路傍や荒地のやや湿った場所に普通に生える1年草. 古くはツキクサとよんだ. 茎は高さ10~50cmで下部は倒伏し, さかんに枝を分かつ. 葉は互生し, 長さ5~7cm, 卵状披針形で鋭尖頭, 平行脈が著しい. 基部は膜質の鞘となり茎を包む. 6~8月に青紫色の花を咲かせる.

堀田満ほか. 世界有用植物辞典. 平凡社, 1989, p305

花期が6~8月と書かれていたが、私の体感だともっと長い期間咲いていたように思う。

「露草」という名は露を帯びた草の意

ツユクサの登場する短歌を探してみると、古くから現代までよく詠まれていることが分かった。一例を引用する。

<和歌>

月草のうつろひやすく思へかも我が思ふ人の言も告げ来ぬ

「万葉集」大伴坂上大娘

朝咲き夕は消ぬる月草の消ぬべく恋も我れはするかも

「万葉集」作者未詳

<近・現代短歌>

露の身のせめて一滴まぎれなき露草の花の青あらしめよ

久札田房子

星くずの瞬きし夜の朝に咲くとりわけ深き露草の紺

長谷川正

和歌では「月草」と詠まれることが圧倒的に多いようだ。
花が一日でしぼむことから自分が消えそうなほど切なさに死んでしまいそうな想いに喩えたり、ツユクサは染料としても使われるのだが水で洗うとすぐ色落ちしてしまうことから相手の心変わりに喩えたり、恋の歌に詠み込まれることが多かったらしい(平田喜信, 身﨑壽. 和歌植物表現辞典. 東京堂出版, 1994, p203)。

近・現代短歌においてはどうだろうか。短歌表現辞典(飯塚書店編集部. 短歌表現辞典 草木花編. 飯塚書店, 2021, p152)に掲載されている歌を見た感じでは、恋の歌に詠み込まれているという印象は受けなかった。単に美しいものとして詠まれていたり、儚いものとして詠まれていたり…。

青色の花というのは印象的なのか、今昔物語中に、

頭ノ鐙頭也ケレバ、頭ハ背ニ不付ズシテ、離レテナム被振ケル。色ハ露草ノ華ヲ塗タル様ニ青白ニテ、眼皮ハ黒クテ、鼻鮮ニ高クテ、色少シ赤カリケリ。

馬淵和夫ほか. 今昔物語集④. 小学館, 2002, p210-211

とあったり(倉敷市立自然史博物館のHPで「生色なき顔の形容として用いる」と紹介されている)、

源氏物語中には、

『源氏物語』横笛に「かしらは、露草して、ことさらに色どりたらむ心地して、口つきうつくしう匂ひ」、光源氏の正妻女三宮と柏木の不義の子薫は、髪の毛は露草でわざわざ染めたかのように青い色をし、口元も魅力的に色映えて、と描写している。

倉嶋厚ほか. 花のことば辞典. 講談社学術文庫, 2019, p144

とあるなど、ツユクサは古くから比喩表現に用いられることがあったようだ。

また、清少納言は枕草子に、

つき草、うつろひやすなるこそうたてあれ。

渡辺実. 新日本古典文学大系25 枕草子. 岩波書店, 1991, p77

と書き残している。

古くから親しまれてきた植物であることは間違いなさそうだ。

そういえば最近読んだ論文に、花において青色は美しさの評価を高める効果があるとあった(Hůla & Flegr, 2016)。チェコ人が対象の調査についての論文だったから日本人にも同じことが言えるかは分からないが、通ずるものはあるかもしれない。


最後に余談。源氏物語といえば今年の大河ドラマだが、ついに先週最終回を迎えてしまった。
少し意外な終わり方だったが、良い終わり方だったとも思う。
1年間毎週の楽しみにしていたからすごくさみしい。
まだ大河ドラマ館に行けていない。行かなきゃ。



Hůla M, Flegr J. 2016. What flowers do we like? The influence of shape and color on the rating of flower beauty. Peer J, e2016.

https://peerj.com/articles/2106.pdf


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