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AIが選んだ産経新聞「らしい」本36冊(新聞書評の研究2019-2021)

はじめに

筆者は2017年11月にツイッターアカウント「新聞書評速報 汗牛充棟」を開設しました。全国紙5紙(読売、朝日、日経、毎日、産経)の書評に取り上げられた本を1冊ずつ、ひたすら呟いています。本稿では、2019年から2021年までに新聞掲載された総計約9300タイトルのデータを分析しています

なんでそんなことを始めたのかは総論をご覧ください。

過去の連載はこちらをご覧ください。

AIが選んだキーワード

前回は朝日新聞が書評した書籍のタイトルを他紙と比較して、キーワードを抽出し、そのキーワードを含む書籍を紹介しました。

キーワードは「フェミニズム」(6冊)、「琉球」(5冊)、「大切」(5冊)、「読本」(5冊)、「アナキズム」(4冊)、「キリスト」(3冊)、「原子力」(3冊)、「ピカソ」(2冊)でした。手法については以下にまとめてあります。

今回は産経新聞のキーワードと書評された書籍を紹介します。産経新聞のキーワードは、「軍」(5冊)、「反日」(4冊)、「敗戦」(4冊)、「不安」(4冊)、「偉人」(4冊)、「李」(3冊)、「偽善」(3冊)、「FIRE」(3冊)、「絆」(3冊)、「大丈夫」(3冊)です。

産経新聞の書評紹介書籍タイトルのワードクラウド

産経新聞「らしい」タイトルはこれだ

「軍」については、少し説明が必要です。

ワードクラウドを作るに当たっては、各書籍のタイトルから名詞だけを抜き出します。単語を品詞ごとにばらばらにしてくれるのが形態素解析器といわれるソフトウェアで、今回の分析に使用したjanomeは、内部辞書に照らしながら、名詞を切り分けていきます。

今回の分析対象に出てきた以下の単語は「軍」とは別の単語として内部辞書で認識されています。

「軍事」、「軍隊」、「軍人」、「陸軍」、「将軍」、「従軍」、「軍服」、「海軍」、「軍神」、「軍歌」、「軍旗」、「軍拡」、「水軍」、「巨人軍」

今回の分析は、各紙の差異を強調するために、5紙すべてに1回でも出てきた名詞は除外する計算法をとっています。これに該当するのが「軍事」、「軍隊」、「軍人」、「陸軍」、「将軍」です。また、分析対象の単語は、頻度順に上位8414語までに絞っているので、「従軍」、「軍服」、「海軍」、「軍神」、「軍歌」、「軍旗」、「軍拡」、「水軍」、「巨人軍」は入ってきません。

以上のような手法の結果として、「軍」という単語が産経新聞のキーワードとして絞り込まれたわけです。

なお、これらの単語すべてを含んだ書籍を「軍グループ」と定義すると、産経新聞、読売新聞、毎日新聞はいずれも11冊、朝日新聞は12冊、日経新聞は14冊となります。

産経新聞の書評総数は読売や朝日の半分ほどしかないので、同じ11冊でも重みは2倍違いますが、紙面を眺めているだけでは気が付かないはずです。AIでなければ抽出できなかった特徴だと思います。

では「軍」を含んだ他紙の書籍を紹介します。まずは読売新聞です。

次に毎日新聞です。

同じ「軍」を含む書籍でも、産経新聞と毎日新聞では全くベクトルが違うことがわかると思います。読売新聞のテイストもかなり違います。

なお「軍グループ」では最多の日経新聞、2番目の朝日新聞に、「軍」を含む書籍は一冊もありませんでした。

反日

いかにも産経新聞「らしい」タイトルの書籍だという印象があります。産経以外で「反日」を含むタイトルは、朝日新聞の

と毎日新聞の

です。

書評欄で紹介される書籍にも、新聞ごとの論調の違いはこれほどくっきりと現れるのですね。発見でした。

敗戦

なお、分析対象期間前ですが、2018年9月15日付けで日経新聞が同書の書評を掲載しています。

「敗戦」をもう一度振り返り、そこから学ぶという趣旨の書籍が多いですね。

産経新聞以外では朝日新聞が、

毎日新聞が

を取り上げています。

不安

「不安」がなぜ産経新聞のキーワードなのかは思い当たりません。上念さん&篠田さんの本と青山さんの本は産経らしいですが、「不安」という言葉を使ったのは偶然でしょうね。

他紙では読売新聞が

の2冊を、日経新聞が

の2冊を、毎日新聞が上記『ミンスキーと〈不安定性〉の経済学』、『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』と

の3冊を紹介しています。

偉人

「偉人」というキーワードは何となく、産経新聞「らしい」感じがします。産経以外では、読売新聞が上記の『独身偉人伝』を、朝日新聞が同じく『独身偉人伝』と『世界を変えた60人の偉人たち』を紹介しています。

「李」はワードクラウドでは非常に目立つので、奇異な感じがしましたが、李登輝さんに関する本だったので納得しました。他紙では、朝日新聞の

があるのみです。李登輝さんとは無関係な本ですね。

偽善

「偽善」者を告発する書籍が目立ちます。他紙では、読売新聞の

があるのみです。

FIRE

「FIRE」はワードクラウド上で非常に目立つ割に中身が想像しづらいキーワードです。「李」と同様ですね。

「FIRE」とは、若いうちにそれなりの資産を形成してさっさと引退する生き方を指しています。いま、こうした生き方を理想と考える人や実践者が増えているらしいのですね。産経新聞は2019年7月11日にこれに関する書籍を特集しています。その影響です。

「FIRE」しているようでは「偉人」にはなれないような気もしますが、もしかしたら、若者にとっては「FIRE」した人こそが「偉人」なのかもしれないですね。

他紙に「FIRE」を含む書籍の書評はありません。

日米同盟との関連で「絆」というタイトルとした書籍がポイントですね。産経以外では読売新聞が上記の『日米の絆』を紹介しています。

大丈夫

「不安」と「大丈夫」がともにキーワードなのが面白いですね。
他紙では、読売新聞の

があるのみです。

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