現場の仕事は「個人」から「チーム」の時代へ。現場の未来を変えるリモート・コラボレーションとは?
リリースしてから1年がたったSynQ Remote(シンクリモート)。どうやって生まれ、これから何を目指すのか、代表の下岡に改めてインタビューしてみました。初めてSynQ Remoteを知る方や、導入を検討されている方にもぜひ、我々が実現したい世界や考え方を知っていただきたいと思い、このnoteを執筆しています。
リモートコラボレーションを現場に
――SynQ Remote(シンクリモート)とはどのようなサービスなのでしょうか?
ひと言で表すと「現場版のZoom/Teams」です。みなさん日常でもWEB会議ツールを使って社内外の人と会議をすると思うのですが、シンクリモートは現場の作業者と遠隔の管理者をビデオ通話で繋ぎ、現場に行かずとも視覚的なコミュニケーションができるものになっています。イメージが湧きづらいかもしれないので、こちらの動画を見ていただくと分かりやすいかもしれません。
――どのような経緯でシンクリモートは開発されたのでしょうか?
私の父は北九州で建設会社を経営しているのですが、ある日長年働いていたベテランの現場技術者が、あまりの忙しさを理由に会社を辞めてしまいました。現場経験と知識が豊富な技術者は社内でも限られており、仕事の属人性も高いため、どうしてもベテラン技術者に仕事が集中してしまいます。それ自体はある程度仕方がないことだと思うのですが、私が問題だと感じたことは、高い技術力を持つベテラン技術者の時間が、技術的な仕事ではなく移動や非効率なコミュニケーションに費やされていたことでした。
ちょっとした現場の確認や打ち合わせのために何度も現場と事務所を行き来したり、突発的な現場の対応で急に呼び出されていたり、新人をひとりで現場に派遣するのは不安だからと付き添いで同行するなど、現場までの移動という価値を生まないものにかなり時間を費やしていました。せっかく高い技術力を持つ人材がいても、コミュニケーションや情報共有が非効率なせいで、彼らの貴重な時間や知識が有効活用されていない、つまりは技術者の能力をレバレッジできていないという点に問題を感じました。
現場はどこも「人手不足・技術者不足」「技術承継」「労働集約型からの脱却」といった共通の課題を持っています。それらの問題に対して、i-constructionのような高度なコンセプトやAI/IoTといった先端技術はよく話題に上がります。しかし、実際の現場では、移動や非効率なコミュニケーションといった基礎的な部分ですら問題は山積みです。会社を辞めてしまうほど忙しいという問題がある一方で、付加価値を生んでない移動やコミュニケーションにかなりの時間を取られている。それはおかしいだろう!という気持ちが原点にあります。
私たちはこれまで建設、建築、製造、インフラ、交通など様々な現場を見てきましたが、このような問題はいずれの現場にも存在していました。
――そこからどのようにSynQRemoteは生まれたのでしょうか?
そのような非効率な現場を目にする一方で、クアンドのようなITスタートアップを見るとコミュニケーションツールは日々進化しており、Zoomで世界中どこにいてもすぐ会議することができたり、MiroやFigmaを使ってオンライン上で自分たちの知識や経験を出し合って効率的にコラボレーションすることができるようになってきました。
特に私が驚いたのがFigmaやMiroなどのコラボレーションツールを使ったデザインチームの仕事の進め方です。ベテランのデザイナーが複数プロジェクトを担当しながら、適切に新人のサポート・教育を行っていました。困ったことがあればいつでもすぐオンラインで繋がり、同じデザインをオンライン上で触りあいながら共同編集できるので、ベテランの持つ知識や経験をフルにレバレッジしつつ、属人的な経験やスキルに依存することなくチームで成果を上げていました。遠隔にいながらも、ベテランデザイナーの知識や経験をフル活用して、チームでコラボレーションを実現していたのです。
この様子を見て「このリモート・コラボレーションのアイディアを現場仕事でも実現できれば、現場の課題を解決できるのはではないか」と思ったのがシンクリモートを開発したきっかけでした。
――アイディアをどのようにして製品にしていきましたか?
実際の現場の課題をしっかりと把握し、現場の人に愛される製品にしたかったため、実際に設備工事業を行っている大手建設会社さんと組んで二人三脚で開発してきました。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングのアクセラレーションプログラム「LEAP OVER」に弊社が採択され、東証一部上場企業で空調設備工事部門を持たれている三谷産業株式会社さまとペアを組むことができたので、実際の現場で一緒にPoCを繰り返しながら製品を磨きこみ、1年近くかけてリリースにまで至ることができました。
――実際にサービスをリリースして反響はどうでしたか?
「現場に行かずに遠隔から現場の確認・指示を行う」というコンセプト自体はとても広くの人に受け入れられ、リリースした週だけで100件以上の問い合わせもありました。どの現場も「少ない労働力でいかに多くの現場を回していくのか」「高齢技術者が引退するなかで、どのように若手を育て、技術承継していくのか」という課題感を持っていました。
一方、最初に想定していた建設業や製造業以外にもニーズがあることを知りました。例えば設備保全の遠隔化。設備や機械が故障した場合にサービスエンジニアが国内外に飛び回っていますが、これをリモートから行えるようにすることで移動時間・コストの削減をしつつ、即時対応で顧客価値を高めることができます。
他には、現場調査や監査、新人教育などでの利用です。コロナで海外に行けなかったり、現場にスキルや知識のある人を毎回派遣できないケースで遠隔から実施するケースで使われています。自治体、警察、農業、保険、建物管理など幅広い分野での利用実績や問合せがあります。
※各分野での詳しい利用用途や実績はこちらをご覧ください。
いかに業務負荷を上げずに使えるか
――このように反響がある理由はどこにあると考えていますか?
まずは、何よりも使いやすさだと思っています。TeamsやZoomなどを使って同じようなことを行う場合、URLを発行し、全員に事前に共有し、同じ時間に全員が入室する必要がありますが、SynQ Remote(シンクリモート)では電話を掛けるように相手を選んでワンクリックで繋がることができます。
また、最も評価いただいている機能は、ポインタ機能です。実際の現場の映像の上にポインタを出し合いながら説明ができるので、「ここ見せて」「こういうルートで配線を通したい」など、言葉だけでは説明が難しいものでも視覚的に伝えることができます。
そして、スマートグラスなどと異なり、スマホとパソコンさえあれば、いつでもすぐに始められる点も喜ばれています。複数のデバイスを常に現場で持ち歩き、充電も気にしながら使うのは現場では現実的ではないですよね。そういった手軽さ、簡単さをご評価いただいています。
先ほどもお話ししましたが、AIやIoTやスマートグラスのような高度先端技術が注目されがちですが、現場視点で言えば「業務負荷が上がらず使えるのか」が最も重要であり、使い続けてもらえるポイントだと思っています。
実際、父の建設会社で導入したITツールもそういうものしか残っていませんし、SynQ Remote(シンクリモート)の開発もその点はとても気を付けています。
時間・空間・言語の壁を越えて、現場の知を繋ぐ
――今後どのように事業を展開していく予定ですか?
私はビデオ通話アプリを作りたいわけではありません。我々は「時間・空間・言語の壁を越えて、現場の知を繋ぐ」というプロダクトビジョンを掲げており、もっと広く現場の労働力にアプローチしたいと考えています。
少し話は逸れますが、人手不足の時代にもかかわらず、活用できず余っている現場の労働力があるってご存じですか?それは誰でしょうか?
それは引退した高齢者、妊娠中・子育て中の方、身体的なハンディキャップを持つ人など「何かしらの制約で現場に物理的には行けないけれど、現場の経験や知識を持った人」です。この人々がSynQ Remote(シンクリモート)を使って、現場からの問い合わせ対応をおこない、現場の問題を解決する。SynQ Remoteを活用して現場の正確な状況把握・指示ができれば、自宅にいながら自身の経験や知識を活用して役務を提供できますし、現場の人手不足解消と雇用創出のWIN-WINを同時に実現できます。
これまでお話ししたように、SynQの根底にある思想は「物理的に分散した多様な労働力をオンラインで繋ぎ、適切な時に、適切な場所に労働力を提供する」という考えです。
もしこれが可能になれば、米国での木造住宅を日本人の現場監督が日本から管理することができるかもしれません。アジアの新興国の火力発電所のプラントメンテナンスを日本の高度な技術を持つプラントメーカーが日本から提供できるかもしれません。日本は高い現場力・技術力を持っており、それがダイレクトに提供できれば日本の強みを活かした新しい産業になると思ってます。
今後ますます少子高齢化が進む日本のような国では非常に重要になってくると思いますし、中国やインドのような爆発的に人口が増える国でも社会インフラや設備投資が飽和し、人口減少が始まるフェーズからは同様の問題が起きると思います。日本に先んじて起きている社会課題に対するソリューションを確立しておき、そのノウハウ・ナレッジを製品に乗せて海外に展開していきたいです。
会社型からプロジェクト型の働き方へ
――そうなると現場の人々の働き方や仕事はどう変わりますか?
「仕事は先輩の背中を見て盗め!一人前になるまで十年かかる!」と言われるように、属人的な知識や経験に依存した「個」をベースにした働き方が、これからは「チームでコラボレーションし、知を共有する」ことによって成果を出していく時代になっていくと思います。
自己解決できない問題に遭遇した際は他の人に聞いたり、外部知能にアクセスしたりするなど、コラボレーションが加速します。まさに時間、空間、言語を超えて、現場の知が繋がっている状態です。
さらに、これらが進むと「会社」の意味も変わってくると思っています。今は会社に所属し、会社が受けた仕事を社員が実行する「会社型」の仕事が当たり前です。しかし、仕事がデジタル化され、個々人の働きが可視化されると、プロジェクトベースでチームが組成され、それぞれの働きによって報酬が支払われる「プロジェクト型」の働き方に変わるのではないかと思っています。
一見、突拍子なアイディアのように聞こえると思いますが、これらはどれもIT業界では起き始めていることであり、その世界は徐々に他の産業にも広がってくると思います。
来るべき未来を見据え、先手を打って産業変化を起こしていくことこそ、我々が掲げる「地域産業・レガシー産業のアップデート」であり、この現場のある産業から起こしていきたいと思います。
地域産業・レガシー産業のアップデートについて詳しくはこちらに書いてありますので、興味のある方は是非見てみてください!
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