#3『洋食の辰五郎』のハンバーグとカニクリームコロッケ、いつでも食べたい味(食べるふたり第6回)
アヤモさん
2024年に変わり一月が経ち、寒さが増してくる季節になりました。
寒い日が続き外にでるのが億劫になってしまいますが、それでもおいしいものを楽しみたいです。
日本にいながら、朝食を通して世界の文化に触れることができるコンセプトは大変興味深いです。チラシによる国についての紹介や提供される食事についての説明は食の体験を倍増させるものだと感じました。
また、食事の味付けから「朝早くから仕事を始めるというハンガリーの人たちの気合いのようなものを感じます。」というように、食の体験を通すことで現地の人々の生活文化を感じることができる感性は素敵だなと思いました。
食事の体験から土地の文化に触れることができるという視点で見ると、京都では和食であればおばんざいやうどん、豆腐などがあります。西洋文化を取り入れることで開花した洋食も欠かすことはことはできません。
そこで、今回紹介するのは、街の洋食屋『洋食の辰五郎』です。
『洋食の辰五郎』は、京都市下京区の高辻通油小路通の近くにある洋食屋です。お店のあるエリアは住宅街なのですが、オフィスビルや飲食店が多く連なる四条烏丸通近くになります。徒歩で10分程度歩けば住宅街からオフィス街へ移動する京都という街のコンパクトさを感じるエリアです。一軒家の木造の長屋が細い路地と対面して連なっていたり、小学校が近くにあり低層の住宅が並ぶなかで、3階建ての建物の1階に『洋食の辰五郎』があります。
このお店はハンバーグステーキ、ハンバーグとクリームコロッケ、エビフライなど定番の洋食や牛肉の照り焼きをメインとしています。私が今回頼んだプレートは日替わりのスープと白米、サラダ、ハンバーグ、クリームコロッケ2つ。シンプルだけれど味わい深い洋食を堪能できるプレートになっています。
まず、特徴的なのはサラダです。キャベツと玉ねぎにドレッシングを和え、彩りにトマトが添えられています。サラダの前にあるハンバーグとクリームコロッケを支えるかのようにボリュームたっぷりで、しゃきしゃきとした食感があり食べごたえがあります。
次にハンバーグ。ハンバーグの表面が見えないほどたっぷりとかけられたデミグラスソースと、お箸で一口で食べやすいように割ると、中から出てくるとろーっとしたたる肉汁が食欲をそそります。ラグビーボールのような楕円形で中身が厚く、外側も中もふわふわの食感を味わえます。
最後にカニクリームコロッケ。揚げ物の衣にはいくつか種類があり、コロッケのようにカリカリに揚げられた咀嚼するとせんべえのようにこぼれ落ちるような衣もあれば、柔らかく滑らかに口に入る衣がありますよね。カニクリームコロッケの衣はクリームを優しく包み込んでくれるふわふわしっとりとした食感です。ハンバーグと同じようにお箸で間を割ると、衣の中いっぱいに詰められたクリームが顔を表してくれます。クリームの味わいがじわっと広がるのと同時にごろっとしたえびが入っており、口の中で踊ります。
味はガツンとくる濃い味ではないけれど、日々の食卓で提供されるような優しさを持ち口の中でじわっと広がる深い味わいを持っています。
「洋食」と言っても生活文化の違いによっていくつか種類があるようです。
一つは花街が盛んだった頃、花街を訪れる旦那衆や働く芸舞妓たちによって育てられた洋食です。味は高級食材が使用されたビーフシチューやオムライスなど。花街の文化は食事の形式や形にも影響を与えたようで、食べやすいように使い慣れた箸で提供したり、出前で持っていけるよう持ち運びのしやすいお重に入れるスタイルなど。芸舞妓がおちょぼ口でも食べやすい一口サイズに調理されたフライもあるようです。
もう一つは比較的安く食べることができて大衆たちに育てられた洋食です。定番のハンバーグ、コロッケ、エビフライやスパゲッティなど日々の生活の中で毎日でも食べたい洋食のスタイルとして広がっています。
私が興味深いと思ったのは、目の前に出された料理の味や食べる方法から街の文化の歴史を垣間見て想像できることです。『洋食の辰五郎』では、西洋スタイルのフォークやナイフではなく、お箸。味は日々の生活の中でいつでも食べたくなるような味。花街の文化と大衆文化が混じっているようだなあと感じました。
お店の立地も味に影響しているのではないかと思います。住宅街なので、比較的近くに住む人々が訪れる場所でもあり休日には一人客から家族連れや友人たちと食事を楽しんでいる風景が広がっています。平日はオフィス街が近いこともあり、会社勤めの利用客が多いようです。日々、生活する人の胃袋を支えるような味として提供しているのではないだろうか、と思います。
アヤモさんが京都に来られる際は、ぜひ街の洋食屋の味を堪能してもらいたいと思います。
それでは、また。
シュニチ