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第三回"映画館で映画を観るってどんな魅力があるんだろう" 連載企画/平下宗宏さん (武蔵野興業株式会社 新宿シネマカリテ劇場営業・番組担当)
連載第三回では、映画『最後にして最初の人類』(7/23公開)の公開劇場となる新宿シネマカリテから平下宗宏さん(武蔵野興業株式会社 新宿シネマカリテ劇場営業・番組担当)に「映画館で映画を観る」ことについてお話を伺いました。
第三回
平下宗宏さん(武蔵野興業株式会社 劇場営業・新宿シネマカリテ番組編成)
早速ですが、ご自身のお仕事について教えてください。
(平下)新宿シネマカリテの劇場営業と番組編成を担当しています。当館では、バラエティに富んだラインナップと作品の世界観を演出したディスプレイや水槽展示に力を入れてます。
毎年夏に開催される「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション」も含め、ジャンルや国境を越えた多様な作品をお届けできるよう取り組んでいて、ここでしかかからないような作品をみれるというシネマカリテの良さを出したラインナップを目指しています。
自己紹介の代わりに、映画館での映画体験と聞かれて思い出す作品を教えてください。
(平下)小学1年生のときに、父親の転勤の都合で、アメリカで暮らしていたんですが、当時、初めてシネコンに連れていってもらって観たのが、「ビーン」(日本ではMr.ビーンの愛称でおなじみ)と「ブルース・ブラザース2000」でした。アメリカのスケールの大きいシネコンを初めて体験し、観客も予告編の段階から熱気を帯びてきてどんどん盛り上がっていく雰囲気に。その盛り上がったテンションのまま本編が始まるんです。レイトショーだったのもあるかもしれないですが、その様子がとても強烈で、憧れを持つようになりました。当時の体験が、僕にとって映画体験の入口だったと思います。どちらも王道な作品ですが、特に「ビーン」はローワン・アトキンソン演じるMr.ビーンの演技がとても衝撃的でした(笑)
その後、どのように映画に関わるお仕事に就いたんですか?
(平下)元々映画と音楽が好きだったことも大きいですが、大学卒業したあと渋谷東映で働く機会があって、実際に楽しまれているお客様の様子に触れたり、舞台挨拶に立ち会ったりして、劇場空間っていいなと思うようになったことが映画の仕事に就くきっかけだったと思います。当時、ミニシアターの社員募集がなくて、カフェに勤めたあと、今の劇場の仕事に就きました。
新宿シネマカリテの年間ラインナップはどのように決めてるのでしょうか?
(平下)新宿という土地柄上、お客様の年齢は関係なく、老若男女お越しになるので、ジャンルを超えたおもしろいと思えるものを上映してます。敢えて客層を絞らないような形で作品タイトルを決めていますね。実際にお越しになるお客様も作品によって異なると思います。
シネマカリテだと年間どれくらいの本数を上映しているんですか?
2020年は約60作程でした。
毎週新しい作品を公開しているわけですが、最近上映したなかで、印象に残っている作品はありますか?
(平下)「街の上で」は若い方たちがいらっしゃって、SNSを中心にネット上で広げてくださり、中高年のお客様も観に来てくれるまでに広がりました。公開後、2週目、3週目と週数を重ねるごとにお客様の年齢層が徐々に混ざっていくようなイメージです。ファンの皆様が広めてくださったというか、作品を大切にしてくださって、作品自体がちゃんと評価され、世代を超えて綺麗な広がりをみせた印象を受けました。
そんな新宿シネマカリテのラインナップに加わった本作『最後にして最初の人類』の上映の決め手はどんなところだったのでしょうか?
(平下)第一印象は、1930年代の原作にも関わらず、全然古くなくて、本当に未来から届けられているような内容だと思ました。文学的で、すごく切なくて、ヨハンソンの音楽はもちろん素晴らしいんですが、環境音を含む細部まで、とても楽しむことができました。
上映を決める際の視聴は、パソコンでの鑑賞だったと思うのですが、映画館で2度目を観たことで印象に変化はありましたか?
(平下)確かにかなり違いますよね。劇場で観てこその作品だと思いました。この間、カリテでも上映前の試写をして、カリテならではの良さもあると感じました。当館では、ドルビーデジタル上映を行うのですが、スピーカーへのこだわりもありますし、極力ベストな形でかけられるように映写の担当スタッフと入念にチェックをしました。
素朴な疑問なのですが、公開前の試写はどのようにチェックを行うのですか?
(平下)シネマカリテでのテスト試写は、社員と映写係の2名で行います。今回、映写をご担当された方は映画を年間、何百本と観る方で、映画にとても詳しい方なんですが、本作は「すごいよかった!」と話していました。
今回のテスト試写で、本作を観るのは3回目だったのですが、もともと音楽がとても好きなので、音の細部まで気が付くようになりました。また、音以外にもストーリーの部分まで気に掛けるようになって、途中映しだされる光の演出が、命を表しているようで、とても儚い印象さえ受けました。観る回数で、目を向けるポイントが変わる作品だと思います。
その他にもシネマカリテならではの視聴環境はありますか?
(平下)当館の椅子は、パリのオペラ座とかヴェルサイユ宮殿で使われているフランスメーカーのキネット社の座席を使っているんです。
あとは水槽展示も行っていて、作品によって水槽の魚を変えているんです。魚の体調もあるので、2か月くらいは展示できるよう調整しています。公開作品とのタイミングが合ったときに決まっていくので、館内装飾と合わせて、雰囲気作りはすごいこだわっていると思います。そこも含めて楽しんでいただけたら嬉しいですね。
この作品を御覧になった方、興味がある方にオススメしたい作品などはありますか?
(平下)作品のテイストは全然違うんですが、ぱっと思いついてオススメしたいのは、『サスペリア』(2018)ですね。『最後にして最初の人類』のナレーションを務めているティルダ・スウィントンも出てますし、劇場で観たときに音響や効果音にこだわっているのが伝わってきて、これはすごいなと思ったのが作品です。『最後にして最初の人類』も音響にこだわっている作品ですが、重低音やメロディーの構成、ストーリーとのタイミングの合わせ方とか、音に注目するとより楽しめるという意味で『サスペリア』をオススメしたいです。
平下さんにとって映画館で映画を観る価値はどんなところでしょうか?
(平下)映画館で映画を観る行為自体が「非日常」だと思います。電車に乗って、チケットを発券して、映画を観る。そこで偶然居合わせた人達と劇場空間で、同じ時間と体験を共有するってこと自体にすごく価値があると思っているんです。そのあとネットで同じ作品を「観た!」って共有がすることができますし、その場にしかない空気感や息をのむ間が、劇場にはあるような気がします。それはすごく「映画館で映画を観る」ひとつの魅力なのではないかなと思います。劇場にしかない機材もありますし、劇場ごとに仕様が違っているので、劇場空間で同じ体験をした人たちとSNSで発信したり、映画を通して繋がることができるっていいですよね。
最後にこれから2021年の下半期になりますが、今注目している映画はありますか?
(平下)カリコレ®2021でオープニングを飾った『ショック・ドゥ・フューチャー』(8/27公開)とプレミア上映をした、ジョージ・A・ロメロの3作品(10/15公開)はとても楽しみですね。あとは、ついこの間情報解禁になった『素晴らしき、きのこの世界』(9/24公開)もSNS上で予想外の反応があった気がします。
ジョージ・A・ロメロ監督 3作品 10月15日(金)公開
・アミューズメントパーク(日本未公開)
・ザ・クレイジーズ(1973)
・マーティン/呪われた吸血少年(1977)
新宿シネマカリテでは、キャッチ―で国やジャンルが異なる作品をこれからも上映しますので、まずはこの『最後にして最初の人類』を映画館でご覧いただきたいですね。
2021/07/16
皆さんいかがでしたか?7月23日(金)より公開の映画『最後にして最初の人類』を上映する東京の映画館の魅力が見えてきたところで、第4回は名古屋の映画館の皆様にご参加いただき、「映画館で映画を観る」ことについてお伺いします。ではまたnoteでお会いしましょう!