千の輝く太陽
千の輝く太陽 | カーレド ホッセイニ, 土屋政雄 | 英米の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon
知らない世界を知りたいというのが小説を読む理由の、最も前向きな一つだと思う。今回もこの理由に大いに依って選んだ。だってアフガニスタンの物語なので。知らないし想像だにできない。テロや圧政、タリバンや、ビンラディン、9.11。そんな政治的・軍事的な問題をイメージする国だが、市井の生活はどんなだろう。アフガニスタンにルーツを持つ著者どんな言い回しで小説を書くだろう。どこに感慨を描くのだろう。もしかすると、インド映画のような、ミュージカル性豊かな物語なのか??という好奇な気持ち。加えて書評の良さ。ただ気になるのは虐げられた女性の物語という点。読むのは苦しくないだろうか。ただ、辛いだけではないだろうか。しかし他に興味はなく、読んでみた。
これまで数回ここで”読書感想文”を書いてきて、概ね好意的な気持ちで表現してきたつもりだが、この作品については紛うことなく名作だと思った。多くの方に読んでほしいと思った。
苦しい物語だ。耐えて、堪えて、忍んで、決意し、傷つき、また堪えるを重ねる物語。読みながら共に煩悶し、虐げ、騙す者への憤りを覚える。だが物語はとても構成にすぐれ、読みやすい。表現はまっすぐだけど、見たこともない描写にも遭遇する。そしてそれは確かに言い得ている気がする。どちらかというと芸術性に着目する作品というよりは、物語そのものに惹かれる作品だ。アフガニスタンの情勢も、あまりよく知らなかったが、しっかりと時代を追っている。イスラム教の祈りも重要な要素だ。
読み終えて、ちゃんと希望は見えた。解説は必要ないと思った。物語はもったいぶることなく、しっかり説明してくれたと思う。やはり解説はなかった。でも著者があとがきを書いていた。それは著者が1年間勤務した国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の活動について紹介し、協力を求める内容に留まり、作品への想いなどを語ることはなかった。そういう人だから書ける小説のように思った。真っ直ぐなものだった。
そう、この物語はごく最近の出来事を背景にしている。私は遠い昔のアリアムとライラの幸せを願っていたつもりだったが、彼女たちが最も困難に直面した時代は私が生まれてからの話だ。ライラの娘、アジザに至っては、私より歳下ではなかったか。私はこの世界の隔たりに愕然ともしたが、かえって、生身の幸せと希望というものが、形として捉えやすい世界のようにも思った。
最後に、ライラがただ幸せを追うのではなく、義務感を背負ってカブールに戻るという決意をしたことに、ただ”いつかは良いことがあるよ”ではなく、人の希望を見た気がする。あまり脈絡はないが、小生も地元のために何か頑張ろうかな、とも思った。
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