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『枕草子』朗詠 第二十段「中宮を囲む宮中の思い出」 二/五・和歌のお遊び
清少納言の述懐として、以下の状況が語られます。
一字一句の直訳ではなく、意味をとらえる異訳をしています。
***
若く華やかな主上と中宮を囲む宮中の、春の日の昼下がり。
中宮様の兄君も参内しており、主上は午餐のために御常の御座にお渡りになっておられましたが、午餐がお済みになると、片付けるための給仕の蔵人を召さぬうちに、中宮のもとにお渡りになられました。
おふたりのむつまじくいらっしゃるご様子にボーッとなってしまい、
中宮様より「御硯の墨をすりなさい」と命ぜられたのに、ついつい、墨をする手もとがおろそかになりそう。
墨をすり終え、御硯をお手元にお渡ししますと、中宮様は、畳み重ねた白い紙をみなに渡し、
「これに、今思い出せる古い歌を、ひとつずつお書きなさい」
と仰せになりました。
清少納言は戸惑い、外にいらっしゃる中宮の兄君に紙をお渡ししつつ、
「これは、いかがいたしましょう」と伺いますが、
「男どもは口出しすべきではないから、早く書いて差し上げなさい」
と、紙を女房たちのいる方へお戻しなさいます。
中宮様は、御硯を女房たちのほうへ差し向けなさり、
「深く考えずに、“難波津”でもなんでもいいから、ふっと思いつく歌を、早く早く」
と急かして仰せになるのを、
私ったら、なんでそんなに臆してしまったのかしら。
もう、顔さえ真っ赤になって、あたふたしてしまったのです。
***
教養ある中宮サロンでのお遊びが、中宮の指図で始められようとします。
自作の和歌ではなく、今、思いつく誰もが知るような和歌を、思いつくまま書きなさいとのご指示。
“難波津”は、手習い始めの最初に覚える、
「難波津に咲くやこの花 冬ごもり今は春べと 咲くやこの花」
それこそ子どもでも知っている初歩的な和歌。
清少納言は、男性の教養である漢学も熟知し、打てば響くように中宮に受け答えする才知を示すさまが、『枕草子』にも描かれますが、
この時には、まだ慣れぬ宮中の趣と、主上と中宮のお側近くに仕えることの緊張で、初々しく呆然として、真っ白になっている様子が書かれています。
そしてこの後もひたすら、定子中宮の素晴らしさと博識なさまが強調されます。