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『枕草子』朗詠 第二十段「中宮を囲む宮中の思い出」 四/五・古今和歌集の暗誦

第二十段は長いので分割しましたが、
ここに続く次の部分は長くても分割したくなかったので、四章目は少し短めです。

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続いて中宮様は、古今和歌集の草子を御前にお置きなさり、和歌の上の句を仰せられ、
「この末の句は、なにかしら?」
と問わせなさいますが、
夜昼問わず心にかかって覚えている歌もあるのに、こんな折にはなかなかすんなりと答えられないのは、どうしたことか。
宰相の君などは十首ばかりお答えしたけれど、それも覚えているなどとはいえません。
まして、五首六首程度しかお答えできないのでは、もう、覚えておりませんと申し上げるべきほどなのを、
「それでは気が利かず、せっかくの中宮様の仰せ言を、映えのない白けたものにしてしまう」と、せんかたなく口惜しがるのも、面白いものです。
「知っています」と申し上げる人がないまま、そのまま古今和歌集を読み続け、やがて栞を挟んでひと息つきなさるのを、
「これは、知っている歌のはずじゃないの」
「どうしてこうも、つたないのでしょう」
と、皆々言い嘆いている。
特に、古今の歌をたくさん書き写しなどしている人なら、すべて覚えているべきではないか……
***

この時代、『古今和歌集』の書写は、書を学び、和歌を心得るために、必須の教養でしたが、
改めてこのように試験されると、意外に答えられなくて、女房たちが愕然悄然としています。
いつもなら、覚えているともなく思い起こし、口をついて出るようなことだってあるのに、なんで中宮様の御前で、誰も彼もお答えできないのでしょう。
…などと、女房たちがもどかしくヤキモキしているようです。

中宮の女房にあがるような上臈の女性なら、教養面でも際立っているはずなのに、 
得手不得手で、和歌や記憶術に卓越していない者が多いのか。

それとも、もしかしたら主上の御前で、定子中宮がこの次に語る逸話を際立たせるため、
あえて、女房たちにこのような状況を演じさせたのかとも想像できます。

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