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『枕草子』朗詠 第十五段「海は」

海、といっても湖を含み、
伝本写本によって、「伊勢の海」「加古の海」が加わります。

「水うみ」は近江の琵琶湖。ちなみに近江は“近つ淡海”、遠江の“遠つ淡海”は浜名湖。大きな湖として知られており、当時は内海と外海との区別はなかったように思います。
「與謝の海」は、丹後国・今の宮津湾で、天橋立と共に景勝地として歌に読まれ、古来、羽衣天女や水江浦島子とも繋がります。
「川口の海」は、所在不明らしく、かつて内陸の河口に海と呼ばれるような沼などがあったのかもしれません。奈良にも、今はないけれど「海」とされた沼があったとされていますし。

他の用例と同じで、本人が実際に行って見たことがある景勝ではなく、
歌に読まれたり、屏風絵などで描かれ、地名により描き出される連想、また任国で赴く人の話を聞きやすかった場所として、
定子中宮を囲む女房サロンでの、楽しい会話のきっかけとして、
「海といえば、こんな名がゆかしくて、いいわねぇ」
と、名指しであげられているのでしょう。

じかに見知らない名所旧跡だからこそ、連想が美しく拡がっていくように思います。
きっと、書かれていない地名の先に、たくさんの会話が繰り広げられていたのでは。
宮中での現実生活に、困難や苦しさがあっても、そうした歌や物語からの果てしない連想によって、
浮世を忘れるよすがになっていたのかな、と。

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