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『枕草子』朗詠 第六段「翁丸なる犬の涙」③犬も心あるもの

「ああ、やっぱり翁丸だったのね。昨夜は心を隠して忍んでいたのでしょうね」と、改めて名を呼べば、犬は、ひれ伏して啼きました。
定子中宮も安堵してお笑いになり、右近命婦も仔細を聞いて笑い、
主上も話を聞いて、お渡りになって、
「犬などにも、そんな心があるものなのだね」
と感じ入ります。
内裏のみな、話を聞いて集まってきて、哀れがり、愛隣を寄せます。
「ともかく、ひどく腫れてるから、手当させなくては」
などと言っていると、
昨日、犬をひどく打ち据えた蔵人の忠隆が、聞きつけてやってきました。勅勘による翁丸の打擲と流罪だったのだから、忠隆としてもそのままにしてはおけなかったのでしょう。
しかしその後、主上により罪を許され、翁丸はもとのように、皆に可愛がられる身の上に戻されることになりました。

人ならば、同情されて泣いたりすることもあるけれど、
犬だって、悲しくつらく、情に触れれば、身を震わせて泣くのだと、感動いたしました……というお話。


翁丸が泣き、返事をしたことで、みな安堵し喜ぶさまを、
「をかし」「笑う」と連呼していますが、
面白がって笑っているのではなく、みな、感動して泣き笑いしているのではと想像します。

わたくしごとですが、子供の頃、一ヶ月ほど行方不明になり、死んだものとあきらめていた飼い犬が、突然戻ってきたことがあって、
母が裸足で駆け寄って犬を抱き、
近所中の人が集まってきて、泣いて喜んでくれたことを思い出しました。
この時の犬の、申し訳なさそうな、情けないような照れたような顔も、よく覚えています。

犬に限らず、どんな動物たちにも心があり、命があり、
こちらを信頼してくれているのだから、
ただ役に立つとか可愛いとか、気に食わないとか可愛くないからとか、
人の尺度でひどい思いをさせないように、大切に接したいものと思う逸話です。

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