やさしい人は強い人
「人に使われるのは、もういいかな。」
草むしりの手を止めて、おじさんはそう言った。
定年退職をして、今は自分の畑で作った野菜を販売している。
無人販売だけど、来てくれるお客さんと話すのが好きなのだとか。
この無人販売は、野菜が取れた時のみ、営業している。
1週間に1回営業しているときもあれば、1ヶ月近く空くときもある。
客から見れば気まぐれの商売だとも見える。
しかし、無農薬にこだわった野菜たちは、野菜本来の甘みや味がしっかりあって美味しい。
また、普通のスーパーで売ってないような、変わり種の野菜も売っているので見ていて楽しい。
そのため、リピーターが多い。
また、おじさんの人柄もお客さんに好かれている理由のひとつ。
「人に使われるのは、もういいかな。」
切ないような寂しいような、ほっとしているような複雑な表情。
何もかける言葉が出なかった。
きっと、今まで苦労されてきたのだろう。
表情から読み取れる。
だけど、マイナスなオーラは一切なかった。
おじさんは前を向いて、未来に希望を抱いている。
そう感じた。
お金をたくさん稼ぐ日常から、自由を手に入れたのだ。
多くを語らない分、我慢も多かったのではないだろうか。
人にやさしくできる人は、自分も辛い経験や、我慢が多い人生を歩んできた人が多い。
やさしい人は、強い人なのだと感じた。