映画『アイヌモシリ』感想
※HPに出ている情報以上のネタバレは無し。
北米のNetflixで、11月16日に配信が終了してしまう映画、『アイヌモシリ』を見た。
YouTubeで検索するとすぐ英語字幕付きの予告編がヒットする本作は、広く世界に向けて現代アイヌを語る映画だと感じた。
冷え込む季節に見る映画を探している人、ゴールデンカムイでアイヌやイオマンテに興味を持った人、アイヌの民芸品や文化、音楽、言語に興味のある人、北海道阿寒湖の景色や空気感を味わいその日常を垣間見たい人、出自や歴史とアイデンティティに想いを馳せたい人等におすすめしたい。
映画の公式HPでは、エンドクレジットにも記されている通り、ほとんどの人が当人自身を演じていることがわかる。
上記をはじめ、多くのコメントが寄せられている。
YouTubeで公開されていた動画では、北海道出身の監督が映像制作を学びに渡米した際、さまざまな人々が自身の権利を表明したりアイデンティティを表現したりしているのに触発されたことに触れている。
映画を観た感想として、とても静かで、力強い作品だと思った。
劇中アップで度々捉えられる、主人公カントやクマのチビの瞳。その眼に映る景色。
美しい阿寒湖の景色。
「綺麗な景色を見た時、どんな気持ちになる?」という問いかけ。
雪を踏み締める音。街のアナウンス。
そんなものひとつひとつがしんしんと積もり重なって、冬空を思わせる澄んだ空気感を作品に纏わせている。
主演者が本人を演じている本作は一見してドキュメンタリーのようでもあるが、映画としてカントという一人のアイヌの少年を丁寧に描くことで、ただドキュメンタリーを撮るだけでは伝わらないものがより濃くストレートに伝わるものになっているように思う。
学校と、観光客向けの民芸品店を兼ねる家との行き来を繰り返し日常が変わらず続いても、物語の始まりから終わりまでに、カントの心は大きな変化を経ている。
その見せ方と説得力は見事で、映像美や音楽も合わさってより多くの人々へ阿寒湖の空気を直に感じるような構成になっている。
原住民のトピックで言うなら、台湾原住民の踊りと歌を生で聴いた時、胸がいっぱいになって泣きたくなるような感覚に襲われた。
私はその特定の原住民についてよく知っているわけでもなく、ただその場にたまたま居合わせただけだったのだけれど、その旋律に、声に、舞いに直接心を揺さぶられるような感覚があったのだ。
本作でアイヌの歌を聴いた時も、なんだか少し泣きたくなった。きっとそれは、美しい景色を見た時に切なくなったりするのと同じなのかもしれない。