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【感想141】ナミビアの砂漠

 上げたハードルを悠々と飛び越えてきた。
舐めてかかっていたのもあるけれど、等身大の若者の描き方や、消費社会が取り巻くどうしようもなさに無抵抗な姿といった、大多数の人が自覚や言語化をしきれていない嫌な空気を突き付ける作品として、これ以上研ぎ澄まされたものは当分出ないと思わされる完成度。
河合優実の実力で隠れてしまいそうだけれど、男女関わらず身に覚えのある厭らしさと向き合わされること覚悟で見ないといけないかもしれない。

他人に勧めやすい ★★★★★
個人的に好きか  ★★★★★


 主人公のカナが「趣味も主体性も自身の軸もない、目の前の楽しさに身を委ねるのが楽だからそうしている」と、理由がなきゃ関係は持ちたくない面倒な人間。
これは嫌な女性の話じゃなくて、性別や年代問わず、中身が空っぽな人の話なんだと思った。

 序盤のシーンでは友人の話を上の空で聴いていたり、基本スマホで見るのが砂漠の定点カメラ配信であったり、個人を形成する特異な情報がないのでコミュニケーションを取ろうと思うと一番苦戦するタイプ。同棲している男以外とのコミュニケーションでは踏み込もうとする気配もなく、全くキャッチボールを成立させる気がない。

 またカナ以外にも憎いところがあって、同棲する2人の男のダサさと、カナ達の現状はままならないものなんだと示されてしまうところ。

 実際に見るとピンと来やすいんだけれど、同棲する男たちはどっちも別ベクトルで情けない男として描かれている。
これは男視点で見ていてもかなり痛々しいんだけれど、縋ってしまう弱さも虚勢を張る惨めさも無自覚なだけで、誰しもが持ち合わせている気がしてしまう。
しかも定期的に見せる優しさがどっちもカッコ悪い。そんな男2人にも魅力を感じるのは金子大地と寛一郎、両俳優の力だと思う。個人的には河合優実と同等かそれ以上にMVPに相応しいと思ってる。

 ままならなさの正体は明かされることはないけれど、終盤のシーンでかなり色濃く見せられる。
ランニングマシンが出るシーンの自分事すら主観的に見ていない冷めた感じも、明確にこうしたい、という理想がないように見れるのも、上記で触れた中身が空っぽな人、という事なんだなと思った理由の一つ。
カウンセリングを受けても明確に心境が変化することはないけれど、唐田えりか演じる隣人との会話で少し光明が見え、少しほほえましく見えるラストシーンへとつながるのが救いかもしれない。


 今じゃ「自分の好きを見つけよう」というフレーズをよく目にするけれど、その流れに乗っていない、乗れない人を描いた作品だと感じた。
ただ女優の力や各登場人物の言動が心地よい体験をさせてくれない人しかいないのもあって、話の軸まで触れられるのはちゃんと作品と向き合って見ないと難しいかもしれない。
それでも今の人を描いた作品としては誠実さも面白さも一級品だと思ってるし、これを見て考えさせられる時間はとても大事な時間になると思う。


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