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【感想26】ドント・ウォーリー・ダーリン
完璧な生活が保証された街で夫ジャックと幸せな日々を送るアリスは、隣人が赤い服の男たちに連れ去られるところを目撃する。それ以降、彼女の周囲では不可解な出来事が続発。次第に精神が不安定となり周囲からも心配されるアリスだったが、あることをきっかけに、この街に疑問を抱くようになる。
見る前に見てほしい話
予告やあらすじからもお分かりの通り、徹底して男女社会について描写しているユートピア系の映画。
ヴィクトリータウンという街自体、夫は働き妻は専業主婦のみ許される上に協調や融和を良しとする風潮になっている。
ここまで明らかな『ミッドサマー』ぽさは主演がフローレンス・ピューなのも一因になっている。ただこちらのほうがメッセージの主張性が高く、スリラーとしての恐怖体験は時間いっぱい満遍なく楽しめるので同一視するのはあんまりな…と思う派。多分逆張りしてるのもある。
今作は視覚以上に聴覚に訴えてくる、BGMが異常に不安を狩り立たせるものばっかりなので本当に心臓に悪いです。お勧めです。
良かったところ
まず見終わった後に思ったのは、情報の見せ方がスゲェ~~絶妙な塩梅なところ。
伏線らしき部分が投げっぱなしで終わるという見方も少なくはないけれど、終始アリスの視点で進んでいくのでアリス視点で得られる情報しかくれない。
例えば男同士が隠れて話すところなんかは明らかに核心へ近づけるんだけれど、隠れて聞き耳を立てるとかもせず何を話しているのかすら最後まで明かされない。
こういった核心に触れる部分が鑑賞者という立場で得られる情報が特になく、アリスが見聞きした内容だけもらっていくのでかなり没入しながら楽しめる。
作品の根本でもあるミソジニーやフェミニズムを扱う部分についての描写も結構好き。
夫のジャックが主役として祭り上げられている裏で妻のアリスが疲弊しきっているシーンを交互に見せて、どちらも繰り返されるごとにそれぞれの感情のピークに持っていかれる。
スイングジャズをバックに踊るジャックは昇進して喜びの絶頂にいる中でアリスは無音の部屋の中で村社会からの孤立を強める一手を打ってしまい絶望真っただ中と、家父長制度に対するアイロニカルな表現としては結構象徴的なシーンだと思う。
微妙なところ
本部と言われていた、目覚めるきっかけとなる場所が特撮を思い出す突拍子のない外観だったので初めに出てきたシーンでは結構面食らってしまった。
あとはオチが結構というかド直球なんだけれども、今作はオチの意外性とかについては特徴として度外視している気もするのであまり悪く言うのは違う気がしてる。
上記のように男女格差を描くことに徹底している気はするので、シンプルな話にバラエティに富んだ表現と力強いメッセージ性で彩っているといえば良作として考えやすいと思う。
ただストーリーにこだわる人には面白さは十分に楽しめないっていうのは考慮しておかないといけないと思う。
見た後に見てほしい話
後々振り返ると、町の長として動いていたフランクの立ち回りなんかも面白い。
町の統治者ながらにアリスに若干のヒントを与えつつ、目が覚めるのかを楽しんでいた姿がありました。結局は脱走されるとなった時に妻であるシュリーに刺され、以降はシュリーが管理するような旨の発言を残しラストシーンに移るため、ここも男あるあるである興味や面白さを優先してしまう性に対する皮肉かもしれない。
ヴィクトリータウン自体が名実ともに男が徹底的に支配していたディストピアであったことも、ジャックの真の姿がヒモ同然の小汚く弱弱しいものから町では上位者としての暮らしや振る舞いをして”昇進”するほど忠実でいたことも、バニーのように自ら選んで男性支配の町に縛られていることを受け入れていることも、明かされたからこそすべての要素が1つのテーマに対して付随するものであったことが理解できるようになっています。
映像としても訴えているテーマの描き方としても、映画という媒体にマッチした素晴らしいものです。
同日公開の対抗馬にG1候補馬2頭を控えての公開のため十中八九埋もれてしまいそうですが、映画館で見てこそ十二分に楽しめる作品だと思うので公開が終わらないうちに見に行ってほしいもんです。