【感想142】がんばっていきまっしょい
副業である声豚としての責務を果たしてきたけれど、想像してたより一手上をいかれた面白さをみせられた。
松竹の力の入りようがずっと気になってたので、どうなのかなとは少し心配の気持ちもあったけれど、いちアニメ映画として純粋に面白かった、て自信持って言えるぐらい良い。
同じ3DCGベースって意味でも『MyGO!!!!!』のアニメがストーリーの感触としては近いと思う。そこから描写面で利点をフル活用してくるので、劇場アニメとしての特権だなと思わされる。
他人に勧めやすい ★★★★☆
個人的に好きか ★★★★☆
まず目についたのは映像含めた表現の工夫。
ボート部が舞台になるだけあって、水面や波の描写が異常にこだわりを感じられるリアリティ。
さらには漕ぐために使うオールの動きも考えられていて、最初はバラバラで掛け声に合わない動きをしているところも見られていたのが、練習を重ねていくと揃った動きに水の抵抗を極力受けない形での入水角度と、競技者として洗練されていくのがみえてくる。
花火が打ち上げられる場面では、実際に打ち上げられたときの音を収録して使っていたりと、競技以外にも凝った表現が見れたのはすごく良かったなって思う。
物語自体は原作が90年代の小説なわけだけれども、心情表現や情報開示といった面ではかなり映画らしい手法で行われていた。
画面外の情報(物語開始以前の各人物の背景、構築された関係性など)が会話の流れ上で必要なものしか出さない、3DCGアニメという特色を活かした些細な動きでの表現やテンポのいい会話の挟み方、そのおかげで出来る発話での必要最低限の心情吐露だったりと、良い意味でアニメ特有の臭みがない作品になっている。
ポップな表現を多用するのかな、と勝手に思い込んでいたのもあるけれど、その予想を大きく裏切った繊細な心境変化を描いてる。
物語自体は青春部活物という側面より、中盤終わりにある主人公の悦子があるきっかけで半ば投げやりになってしまい離散しかける場面での5人それぞれでの内省を行っていく場面が一番印象に残った。
伝えたいメッセージを描く、という意味で正解へ導いていく作為的な人物の投下や感情のぶつけ合いが珍しくない中で、それぞれが誰かと会話をしていく中で前に進むきっかけを掴んだり、観客が彼女たちの思いを理解したりと、各人物が生きているんだな、というのを感じさせられるのはすごく好きだなと思ったし、なんなら個人的に一番響いた部分になっている。
一つ付け加えるなら、今回このボート部が参加する大会や高校ボートのルールだとかは説明は特になく、用語の説明もほとんどないので、この辺りに引っかかりを覚えやすい人はあらかじめ実際の大会やルールに触れておくといいかも。
本来ならト書きで消化されているだろう部分ではあるので仕方ないと割り切って見ていたけれど、そこで躓くことが多いなって人は予習しておくと作品に集中しやすいと思う。
『きみの色』や『化け猫あんずちゃん』に『ふれる。』と同年公開で強力な競争相手がいるので評価されるのは難しいとは思うけれど、やっぱりいちアニメ映画として素直に面白い、と自信もって言えるぐらいにはいい映画だったので、ぜひ時間が合えば見に行ってほしい。