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【感想160】アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方

  アリ・アッバシ自体は知っていたけれど、これを見て去年初めの頃に公開作を見ていなかったのが悔しくなるぐらい面白かった。
セバスチャン・スタンの魅力もそうだけれど、この映画全体を通した妙味により惹かれる。タイミングがタイミングだけれど、それを差し引いてもいい映画を見れたなって気持ちにさせてくれた。

他人に勧めやすい ★★☆☆☆
個人的に好きか  ★★★★☆


 ラストシーンで示されはするけれど、トランプ自身の出生を描いているというよりはトランプを形成していった環境を見ていく伝記映画になっている。
なので描かれるのはロイ・コーンとの出会いから彼の最期までで、トランプ自身の内面を覗いていくというよりは成り上がっていく過程で徐々に今のトランプへと変貌していく様を眺めるだけで終わってしまう。

 とはいえ面白いのが、このドナルド・トランプがかなり愛嬌ある人相なのに、途中からよく知っているドナルド・トランプにしっかりとコミットしていく。演じているセバスチャン・スタンのイメージがバッキー・バーンズしかなかったせいもあるけれど、あんな鮮やかなグラデーションで威圧的な顔つきと言葉遣いが見ていて違和感を抱かなくなってくるぐらい馴染み始めるのが恐ろしい。

 特に面白いなと思ったのが映像の使い方・作り方と、構成の仕方。

 まず映像は時折当時のものが挟まれる。もともとトランプ自身が実業家として動いていた70~90年代でのお話なので使えるのは当然ではあるけれど、その当時の映像と限りなく近い画質での撮影がある。気を抜いていていると、セバスチャン・スタンのトランプが答えているインタビューは本物が受け答えしているものと思ってしまっても仕方ないぐらい映像の切り替わりでハッキリと変化がわからない範疇で映されている。

 そしてエンターテイメントの抑揚がなく、妙に淡々としたリズムで進んでいく。
このやり方が結構面白いなと思った。現存する人物の伝記とはいえ、制作側のエゴが明確になるシーンがあってもおかしくないのに、それらしき雰囲気が特に感じられない。起承転結のヤマになり得そうな箇所だろうと、トランプ個人の内面を解体して見せてしまわないところがいい。作劇で色気を出さずに、画で雄弁に語る姿勢に魅了されてしまった。


 役者と監督が作品の大きな魅力として関わっているだけで良い映画になるんだな、てのは滅茶苦茶思い知らされた。
他人には積極的に見てとはいえないけれど、自分だけで噛み締めて味わうのも惜しいなと思っちゃう。それぐらい魅力的な映画。

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