![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173658931/rectangle_large_type_2_460cf87a34ce66c585b39af97ec797b7.png?width=1200)
【感想163】ファーストキス 1ST KISS
真っすぐなラブストーリーなんだけれど、現役のアイドルグループ所属男優とベテラン女優の座組であったり所々の演出や演技の技巧で別格の面白さが出ていたりと、ティーンラブコメや感動系のラブロマンスではそう見ることはない要素が光る。
とはいえ多分ほとんどの人がイメージするティーンラブコメでも避け始めている、直球勝負での恋愛事情から大きく外さない話っていうのが一番いい所なんだと思う。
他人に勧めやすい ★★★★★
個人的に好きか ★★★★☆
全編通して面白さがグッと詰め込まれているのは最後のタイムスリップから。ここで前半から見せてきた様々な要素での対比と振り返りで感動するまでの下準備をしてくる。
序盤では駈とカンナの夫婦生活のはじまりから冷え切るまでの様子が描かれている通り、カンナは夫に対して恋愛感情は既に冷めているはずなのに夫が死ぬのを食い止めるために奔走する物語になっている。
ちょっと変なスタートダッシュを切るのでわかりづらいかもしれないけれど、当のカンナが言っている残された家族としての怨嗟のとおりで、自己利益の動機が強い。仲が冷え切っていたとはいえ晴れ晴れした精神にはならず、煮え切らない消化しきれない気持ちを抱えて半年弱を過ごしていたことが明らかになる。この自分がスッキリするために死を回避させよう、という奮闘の中で夫との馴れ初めの場を繰り返していくことが大きな意味を持っているんだと思う。
そしてSF要素は作中での理屈で詰め切れられていないので納得はしづらいと思う。
タイムスリップしたとはいえ、44歳の見た目は変わらずに出会ってデートをした後にタイムスリップ先にいる同い年の29歳の自分と結ばれるという、どう理屈づけていいか図りかねる前提のもと物語が進む。
作中だと運命の赤い糸になぞられていて、ここが回答として機能している、て結論づけてしまうと理解は早まると思うしその方が雑念にとらわれ過ぎないまま見られると思う。初めて出会った日以外には戻れないという性質上、作中でも過去を変えた後の15年間にどんなことがあったのかをカンナ含め我々が知る余地がないけれど、度々説明されるミルフィーユの概念や運命の赤い糸といったワードでこういうものかな、と予想にあたりを付けられはするので、固執したり解明しようって姿勢は必要ないと思う。
赤い糸の話で言えば、もしかしたら死を回避できる未来で結ばれるかもしれない里津と駈の嚙み合わなさは印象的だった。
駈が事実上のプロポーズとしてカンナから受け取った「一緒にパン屋を開きましょう。」という言葉を、あるきっかけでカンナから伝授された里津は「開きません。」と門前払いよろしく跳ね除けてそそくさと場を離れてしまう。里津本人の軽々しい口ぶりから合わないよなぁ、と予感させてはいたものの、この一場面で駈とは噛み合わない人物なんだなと核心させてくる。直前に本来の時間軸で会った40代?の里津が駈を幸せにできたのは自分だ、と啖呵を切っていたのを思うと余計に悲しい。あらすじ読んだ時には負けヒロインだと思っていたけれど、当て馬にすら満たないかもしれないぐらい悲惨な立場だった。
『花束みたいな恋をした』みたいに小さな要素から面白を見出していろんなお話を展開できるほど考察・批評のネタに富んだ映画ではないけれど、様々な変化球が見られるようになった邦画の中でも真っすぐにメッセージも恋愛も魅せてくれる、て意味では少なくとも今年の中では恋愛映画トップ5は堅持できるポテンシャルを持っていると思う。
恋愛に興味がなくとも友人関係や家族に当てはめることができるお話だし、『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』が好きな人は筋にグッとくると思う。